希望よ、鳥のように国境を越えよ

誰かが地球を洗濯したから、というわけではなさそうだが、世界が縮んでいるのを感じる。

Radioheadトム・ヨークは、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』を読みながら、「Hail to the Thief」を作成したという。個人的には、名盤「OK Computer」で、人々を窒息させようとする「they」に対して「静かな生活」で抵抗しようとするこのPVが好きだ。

「No Surprises」は20年も前の曲だが、つい最近、Radioheadに目新しいニュースが飛び込んできた。世界制覇したRadioheadが、とうとう蟻になったらしい。

新種の生物に有名人と同じ名前を付けるのが流行していて、デビッド・ボウイという蜘蛛もいるのだとか。

デビッド・ボウイ親日家で、三島由紀夫横尾忠則の作品に興味を持っていたと言われている。オノ・ヨーコを妻に持つジョン・レノンとも親交があり、仏教的歌詞で知られるあの「Across the Universe」をカバーしている。自分はサイケなCGが綺麗に仕上がっているビートルズのremixバージョンが好きだ。

 

Words are flowing out like endless rain into a paper cup,
They slither while they pass, they slip away across the universe
Pools of sorrow, waves of joy are drifting through my open mind,
Possessing and caressing me.

言葉が流れでて
降りやまない雨のように
紙コップへ降り注ぐ
通り過ぎながらすべっていき
言葉は宇宙を横切っていく
積み重なった悲しみや喜びの波が
ぼくの開かれた心を通り抜けて漂っていく
ぼくをつかまえて 優しく撫でながら

Jai guru de va om
Nothing's gonna change my world,
Nothing's gonna change my world.

私たちの導師である神に幸あれ
何もぼくの世界を変えない
何もぼくの世界を変えない

(後略)

検索すると、ジョン・レノンの作詞の最高傑作という声が見つかって、自分のことのように嬉しかった。「どんな苦難が降りかかっても、自分の作品世界を変えることはできない」。そんな風に頭の中で読み替えながら、この14年間、繰り返し繰り返し Nothing's gonna change my world.と口ずさんできたのだ。この曲に込めた希望が、自分の人生の何かを守ってくれたような気さえしている。

「Across the Universe」は、オノ・ヨーコや日本や仏教文化の影響が色濃く出た作品で、松尾芭蕉の影響まで取り沙汰されているらしい。ジョンと「古池や」? 奇妙な取り合わせだと感じずにはいられない。

しかし、短詩形が国境を越えやすいのは事実で、90年代後半のユーゴスラビア紛争では、「俳句が鳥のように国境を越えた」のだった。自分が忘れられないのは、偶然見たこのテレビ番組だ。

紛争の戦火の中、明日の食べ物がどうなるかわからないような状況で、市井の人々が小さなメモ帳に俳句を書きつけていた。俳句の短さ、誰もに開かれたわかりやすさは、この詩形の素晴らしい特質だ。或る俳句好きの男性は、小林一茶の俳句をびっしりと書き写したノートを日本のカメラに見せてくれた。

しかし、小林一茶より「紛争下の俳句」の方が、見る者にはるかに高い文学的価値を感じさせたにちがいない。「俳句が鳥のように国境を越える」と話したウラディミール・デビデという人のHPが見つかった。現在はクロアチア在住のようだ。

確かな実感として、私たちは世界が縮んでいるのを感じる。しかし、まだまだ地球の洗濯が足りないのも確かだ。

何も私たちの希望を変えることはできない。降りやまない雨のように、世界中に流れ出ている言葉の群れに、少しでも多く希望の言葉が交じっていますように。そんな願いを込めて、クロアチアの俳句の代表作を紹介しておきたい。

In the burned-out village

a wounded stray dog

sniffing charred bones

焼き払われた村で

傷ついた野良犬が

焦げた骨の臭いを嗅いでいる

 A small pool of blood -

Killed in air raid:

little girl and her huge doll

小さな血だまり

空襲で殺された

少女と大きな人形