方位磁石がNoを指すとき

上の記事でレクサスの話をしたとき、いつか触れてみたいと感じていたのが、エアバッグや「異常走行」を問題視されたアメリカとは異なる文脈でのトヨタ・バッシング。トヨタという一企業の問題というよりは、ヨーロッパの先進的環境思想と日本の後進性との軋轢に注目すべき話だろう。

極東の一角には、世界一の農薬大国、世界一の添加物大国、世界一の電磁波大国、世界一の遺伝子組み換え食品大国が辛うじて残っている。これだけの人々を殺され、これだけの人々を病気にされたあと、生き残っている日本人たちで、野坂昭如の第一の代表作と第二の代表作の間にある凄絶な敗北の歴史をじっくり考え直す自由研究に、取り組むのはどうだろうか。

昨晩、「早く寝て早寝早起きの習慣作りに励め」という暗号と「寝たら地獄へ突き落してやる」という暗号が同時に届いたので、はたと当惑した。またしてもダブル・バインドだ。どうしても天国へ行ってみたくて、再出社して「『永続敗戦論』的自由研究」に励んだというわけだ。

これはたくさんの人に読んでもらった方が良いのではないだろうか。惹きつけるために自由研究の最初の導入文は、こうなりそうだ。

 世界数百万人のプリウス・ユーザーの皆さん! まさかとは思いますが、チャイルド・シートを後部座席「右」につけて、お子さんを被爆させたりはしていませんよね?

 おせっかいかもしれないが、どうしても心配になってしまう。一般に、チャイルド・シートの理想的な位置が、しばしば後部座席「右」だとされているからだ。

  • 万一の事故のとき、ドライバーは本能的に自分を守るハンドル操作をするので、運転手の後ろの席がより安全。
  • 後部座席「右」に赤ん坊を乗せると、父が運転席、母が後部座席「左」に座れる。そうすれば、空席の助手席を前へスライドできるので、世話をする母の空間的余裕が広がる 

 このような利点が、チャイルドシートは後部座席「右」が理想という説の根拠になっているらしい。しかし、環境意識の高いヨーロッパ諸国では、プリウスの後部座席「右」がかなりの問題になっている。

While taking readings of the overall EMF, a flow of LF magnetic radiation was observed in the rear right passenger seat. After cross-checking the measurements in the 3 polarisations it gave an average reading of 2491 nT (nanoTesla), or 24 mG (milliGauss).

Even if this figure is below the present European legal limits as defined by ICNIRP, it is a fact that this level, unheard of in a vehicle, exceeds by a long way the safety levels recommended by the international scientific community, such as those of the BioInitiative consortium, which are 1 mG for prolonged exposure in living areas or enclosed spaces (such as a vehicle) and 2 mG for exposure that is temporary or outdoors.

プリウス・ハイブリッドの電磁波測定実験について)、電磁波全般を測定中、後部座席右のシートで低周波の発生が観測された。数回の測定を照らし合わせた結果、2941ナノテスラ(24mg)の平均値が得られた。

たとえこの数値が ICNIRP の定義する現在の欧州の法的規制値を下回っていたとしても、車両内では初耳ではあるものの、それがバイオイニシアチブのような国際科学組織が推奨する長期的安全基準値を越えていることは事実である。その長期的安全基準値は、住宅環境や(車内のような)密閉空間での長期的暴露では1mgであり、屋外の一時的な暴露では2mgなのである。 

日本人でも数人のブロガーが追いかけてくれている。

念のため追記しておくと、上記の Biointiative のような環境団体だけでなく、ヨーロッパ各国政府も、子供を対象とした電磁波対策に余念がない。

  • スウェーデン 2~3mGを目安に、小学校や幼稚園付近の鉄塔を撤去している
  • イタリア 小学校や幼稚園で磁界を2mGに規制
  • イギリス・フランス 16歳未満は携帯電話の使用を控えるように勧告している。使用する場合はイヤホン推奨
  • アメリカ 州ごとに規制値は異なるが、4mG の独自規制を行っている州が多い。(鉄塔付近などに学校を造らないなど)

(ちなみに電磁波と総称されるものの内実は、高周波、低周波電場、低周波磁場の3つに分かれており、代表的な測定器も3つに分かれた仕様となっている。一家に一台の購入を勧めたい。上記の各国規制はこの3つへの対策が混在している。この記事では主として一番厄介な低周波磁場に注目して書いている)。 

  少し前のこの記事で、とりわけ子供に対して有害な作用のある wi-fi を、(コンセントに挿すだけの)PLC装置に置き換える対策を、熱烈に推奨した。

 すると、どうもこんな反応が返ってきたように感じられた。 

そういうのは過敏な人間たちだけの繰り言なので、心も身体もタフな俺たちには、別のご機嫌な話をしてくれ。

そうハードボイルドに切り返してくる声が聞こえたのだ。

OK。では、アンケートにお答えいただきたい。

Q:ヨーロッパでは、低周波磁場の子供向け安全基準は2mg前後です。あなたはその2mgの基準の何倍なら、自分の子供や同じ国の子供に、その被爆を避けるような子供を守る行動をとりますか?

  1. 2mg
  2. 10mg(5倍)
  3. 100mg(50倍)
  4. 1000mg(500倍)
  5. 2000mg(1000倍)
  6. 4300mg(2150倍)
  7. 俺はタフなので、電磁波には無敵だ。寒い戸外から帰ってきたときは、沸かすのに時間のかかる風呂より、電子レンジの中に入って身体を温めるのが習慣だ。 子供にもそう教えようかと思っている。

大変遺憾ながら、7.を選んだ方はすでに逝去なさっているので、生きている回答者はすべて1.~6.のどれかを選んだことだろう。思いがけなく、回答者全員に関心を持ってもらえて、大変嬉しい。

もうお気づきだと思うが、6.の低周波磁場の測定値は、2013年の公開測定会で記録された正式な数値だ。とりわけ男の子が大好きになって、何度も乗せてほしいと両親に懇願しそうな乗り物の座席上の数値。

 何の乗り物かおわかりだろうか? 

まずは、日本の子供たちに、ヨーロッパの安全基準の2150倍の電磁波被爆をさせようという魂胆に、思わず「どうかしてるぜ!」と叫びたくなる。一説には、疫病学的観点からの電磁波過敏症の素質分布は、9人に1人とも言われる。特殊で稀少な人々だけが罹患する病気では、断じてないのだ。修学旅行の数百人の子供たちに、欧州基準の2150倍の低周波を浴びせたら、泡を吹いて倒れる子供が出るのではないだろうか。

信じられないことに、この「どうかしてるぜ!」という叫びは、一回ではとても済みそうもない。手元に専用ボタンを置いて、連打したい気分だ。読めば読むほど、とんでもない「大負け博奕」が進行しているのがわかるのである。上記の批判本で列挙されている問題リストで、問題の全体像をぜひとも把握してほしい。

  1. 新幹線の3倍以上の電力を消費することから指摘される原発再稼働につながる可能性
  2. 強力な電磁石の使用による電磁波の発生
  3. 岐阜県では日本最大のウラン鉱床地帯にトンネルを開ける可能性
  4. 約二兆二〇〇〇億円(二〇一五年度末)の借金がある会社が九兆円もの事業に乗り出すという疑問。つまり資金ショートした場合の国民負担の可能性。
  5. なぜ時速五〇〇キロでなければならないのか。

これを読んだ皆さんは、何回くらい「どうかしてるぜ!」ボタンを叩いただろうか。というより、この5つの問題リスト以前の問題として、そもそもリニア新幹線がまともに収益が見込める計画ではなさそうなことが、大いに問題だ。 

リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」 (集英社新書)

リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」 (集英社新書)

 

 本書はリニア新幹線の採算性・技術的課題等について批判的見地から検証した本。特に興味深いのは、採算性に関する検証:

  • 生産年齢人口は8130万人から5001万人(2050年)に減少するのに、JR東海2045年東海道新幹線リニア新幹線の東京・大阪間の需要を529億人キロと想定(2011年の東海道新幹線実績は443億人キロ)。
  • 東海道新幹線の座席利用率は55~65%だが、JR東海リニア新幹線の座席利用率を79.7%と想定。
  • 東京・大阪開業時の年間収入想定は8825億円(審議会予測ベース)だが、乗客の62%は東海道新幹線からの転移利用者のため、年間減収額は5911億円で、差し引きは2914億円。
  • リニア新幹線の建設費は1980年代には3兆円と見積もられていたが、90年代には5兆円、2007年には9兆円と当初から3倍増となった。技術的課題が多数残っていることから更なるコスト増加の可能性もある。
  • 以上をまとめると、生産年齢人口が4割減少するのに需要が2割増加するという甘い見積もりを前提にしているが、その前提をもとにしても、わずか3000億円の増収のために9兆円(30年分)の投資を行うことになる。

公共性の高いJR東海が破綻すれば、国の支援は回避できず巨額の国民負担が生じることになる。リニア新幹線は中止するべきだろう。  

厳しいリニア新幹線の採算性〜甘い需要予測と巨額の建設コストに見合わない収益予測 | ホンネの資産運用セミナー(インデックス投資ブログ)

 ちょっとボタンを押しすぎて手が痛い。日本の国のあり方に関して、これだけこのボタンを連打しなければならないときは、アレが絡んでいるにちがいない。そんな直感を覚えずにはいられない。

検証してみると、やはりビンゴだった。

ヨーロッパに比べて、子供向けに異常に高い電磁波を許容していたのは、2012年まで経済産業省原子力安全保安院(いわゆる原子力ムラの一部)だった。JR東海の徹底した情報非開示の姿勢や秘密主義は原発設置時の手法とそっくりだし、反原発運動家の広瀬隆はいみじくも「リニアは原発と同じだ」と喝破している。しかも、私企業なのに採算性が度外視されているところまで、電力会社における原発の特殊性と同じだ。 

原発はやっぱり割に合わない―国民から見た本当のコスト

原発はやっぱり割に合わない―国民から見た本当のコスト

 

原発の発電費用を研究してきた立命館大学国際関係学部の大島堅一教授が、(…)本紙のインタビューで、政府の「最大でも一〇・四円で、さまざまな発電方法の中で最も安い」とする試算を「架空の前提に基づくため実態を反映していない」と否定した。
 大島氏は「原発は高い」と説明する。現実に東京電力は必要な費用を払えない状態のため、「資本主義のルールに従って破綻処理したうえ、株主にも責任をとらせて財産を処分、それでもお金が足りない場合は国が責任を持って税金などを充てるべきだ」と提言。ほかの大手電力会社の原発への支援策もやめるべきだと指摘した。

(…)

 例えば、日本の原発は稼働年数が平均三十年の時点で三基の炉心が溶融する「過酷事故」が起きた。十年に一基で事故が起きる確率だ。しかし政府試算は事故はほとんど起きない前提。このため福島第一原発にかかる費用がいくら膨らんでも、政府の試算にはほぼ影響しない。国民負担が増えているのに、政府が「原発は安い」と主張し続けるからくりはここにある。 

リニアの話はどこを叩いてもまともじゃない。そして、この国のまともじゃない話に、しばしば「原発マフィア」やその上層にいる1%グローバリストたちの暗躍が絡んでいることは常識だ。

樫田秀樹が「新幹線の3倍以上の電力を消費するので原発再稼働につながりかねない」と主張している部分は、良識あふれるジャーナリストであるばかりに、相手方の行動原理の悪辣さを見逃している可能性がある。

私の言いたいことがどうすればうまく伝わるだろうか。補助線を一本引こう。

06:50~
上杉氏が、「福島原発が大変なことになっているのに、キャバクラで遊んでいたと台湾メディアで批難されている」東電副社長に、あたかもフリーランスのジャーナリストを締め出すかのような記者会見のやり方について意見したところ…

08:30~
計画停電について、突然ある人から電話で『東電は12時間後に輪番停電をやるそうだ。これは東電の嫌がらせだ』というリークが入った。
そのとき、3号機が水蒸気爆発を起こした。
世界中のメディアは、これは大変だと、いっせいに書きたてたが、日本のメディアは、水蒸気爆発より輪番停電の報道のほうを大きく取り上げていた」。

09:50~
上杉氏:
「翌日の夜、その人から再び電話が入った」。

東電内通者:
「明日、東電は首都圏大停電っていうのを発表するぞ。
東電は、海江田(経産大臣)を騙して大停電を発表させる計画だ。
大停電直前の夕方になってから、突然、『これから停電します』と、発表させるはずだ」。

上杉氏:
「そんなデマを東電と政府が流したらパニックになるでしょ、とその内通者に言いました。
そうしたら、本当に海江田氏は言いました。
(夜にかけて大規模停電の恐れ 広く節電を呼びかけ 海江田氏)」。

東電と政府は、そうして国民を脅しておいて、なんと鉄道会社に、ラッシュ時に間引き運転を実施してくれと頼んだのです。
民間鉄道は、たった2%の電力しか使っていないのです。

つまり、東京電力がないと、おまえら、これだけ困るんだぞ、と国民を恫喝しているのです。 

東電は2011年夏にも、不要な「計画停電」を国民に強要しようとして、東京新聞にすっぱ抜かれた。

東電が国民に対して虚偽に虚偽を重ねる動機は、東京新聞の見出しに書いてある通り、「狙いは原発存続?」以外にありえない。

樫田秀樹自身が指摘しているように、リニア新幹線の電力消費量として公表されている「新幹線の3倍(原発一基分)」は、当初の試算では「新幹線の40倍(原発13基分)」だった。後者から前者への不自然すぎる緊急の大幅修正は、いい加減極まりない需要予測と同じく、信用したくても信用できるわけないだろう。 原発推進派の狂喜を伴いつつ、必要消費電力が原発数基分に上方修正される可能性だって充分にありそうだ。

 JR東海の事実上のトップで、リニア新幹線推進の旗を振っている「黒幕」はこの人。リニア新幹線だけでなく、原発推進、戦争待望論者(!)など、多彩な顔を持っているようだ。

リニア新幹線が巨大な電力を消費するから反対」という立場は複線化しつつ束ねた方が良いだろう。「狙いは原発存続?」という一文を疑問符とともに胸に抱きながら、それが目的であれ結果であれ、日本列島の背骨に不要な「原発維持装置」を埋め込むような蛮行は許さない、との線でまとまって共闘する姿勢が、反リニア新幹線運動の電磁波絡みの局地戦で求められている姿勢なのかもしれない。

そうだ、共闘へ行こう!