オゥザワァの恋の不等式

渾名をあまり付けられたことがない。せいぜい上で書いた「バカ王子」くらいで、さすがに後輩からはそう呼びにくかったらしい。定着しなかった。自分で付ける方はかなり得意で、アニメ好きの「古山くん」につけた「プルピー」はヒットして定着。「水津さん」に付けた「スージー」は定着ならず。目の大きな甘い顔立ちだったので「スイーツ」の方が良かったのかもしれない。

90年代から自分がキャサリンと呼んでいた場所が、東京のベイエリアにある。

「これしかないぜ」の決まり具合なので自分の発想力にご満悦でいると、地元民も昔からそう呼んでいるらしい。「キャサリン」とは「葛西臨海公園」のことだ。 

東京都立葛西臨海水族園江戸川区)で展示されていたクロマグロなどが2014年12月以降に大量死した問題で、都は7日、死んだ原因は細菌などの感染や水槽の壁面への衝突、特定の個体の動きによるストレスといった複数の要因だったとする調査結果を発表した。

葛西臨海公園のマグロが大量死した事案は、複数の要因が複合的に作用したとの水族館側の結論が、マスメディアに上奏された。諸事情を慮っての玉虫色の結論だろう。

自分の勘では、これはヤツの仕業で間違いない。セシウムの300倍の毒性があるのに、日本では検査もせずに絶賛「放し飼い中」のストロンチウムの可能性がきわめて高いのではないだろうか。

ストロンチウムはカルシウムに似ているので、骨に吸着されやすい。だから、逆にカルシウムを定期的に摂取していれば、内部被爆を多少は軽減することができると言われている。ストロンチウムが骨にくっついたら、骨は折れやすくなってしまうのだろうか。たぶん、そうだろう。調べてみると、もっと大変なことが分かってしまった。

ストロンチウム90は、主に骨に取り込まれてカルシウムに置き換えてしまいます。このため、ストロンチウム90の恐ろしさを想像する時、真っ先に白血病が頭に浮かんできます。

しかし、スターングラス博士は、骨に取り込まれたストロンチウム90がβ崩壊を繰り返してイットリウム90になると、骨から肺、心臓、生殖器などに移動し、膵臓に最も高い集中が見られる、というのです。これが、膵臓がんや糖尿病の増加につながっている本当の原因であると博士は言っているのです。 

甘かった。見通しが甘かった。作品の構想力が卓越した三島由紀夫は「最後の一行が決まらないと書き出せない」が口癖だった。自分の場合は「最後の洒落が決まらないと書き出せない」を最近の口癖にしている。

けれど、洒落を思いつかないまま書き出してしまって、いま「見通しが甘い」と「スイーツ」と「糖尿病」のスリーカードがようやく揃ったところだ。しかし、これしきでは読者のハートが盛り上がったり、火が付いたりはしないのではないだろうか。 

キャサリンの「マグロたちの沈黙」には沈黙したままにして、ジョディーの『羊たちの沈黙』に話を移そうか。正確には、物理学界のジョディー・フォスターこと、リサ・ランドールに。 

リサ・ランドール(Lisa Randall、1962年6月18日 - )はアメリカ合衆国理論物理学者。専門は、素粒子物理学宇宙論

ハリウッド女優だと言われても違和感がないくらいの美人ですが、実はアメリカの有名な理論物理学者です。

(…)

「我々の世界は3次元と時間(4次元)、そして空間の因子を追加した5次元目が存在している」というのが彼女の理論です。

それを確かめる為に、スイスのジュネーブにあるLHC(大型ハドロン衝突型加速器)で"7兆電子ボルトの亜光速まで加速された陽子"を衝突させる実験が計画されています。

この衝突実験によって粒子が姿を消したことが確認されたなら、姿を消した先が異次元の世界であると考えられ、異次元の存在が立証されたことになるそうです。  

リサ・ランドールは、プリンストン、ハーバード、マサチューセッツ工科大学のすべてで終身在職権をもつ初の女性教授なのだとか。世界一流の超優秀な物理学者であると同時に、一般向けに書き下ろした科学書が、わかりやすくて面白いことでもよく知られている。 10年代、理系に進んだ大学生が宇宙を語るのに、この本を忘れてはいけない気がする。大江健三郎が一時期よく用いた欧文直訳調でいうと、忘れるなんて「それはいかなる obvilion よりも悪い」という感じだろうか。

ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く

ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く

 

 これ、凄く良いのではないだろうか。ひとことで言うと、「うほうっ(=宇宙の法則)」を超天才の美人物理学者が、一般向けに書き下ろした啓蒙書。わかりやすいとはいっても、そこは世界最先端の宇宙物理学の話。それ以上わかりやすく説明できない地点は、一般読者から見て、頭上にあることだろう。簡単とは言い切れないが、とても面白い本。理系の大学生は必読だろう。

一文に論旨を要約すると、(三次元空間に時間を加えた)四次元空間に私たちは慣れ親しんでいるが、本当はその四次元空間に影響を与えている五次元空間が存在するという論旨。

相対性理論量子力学素粒子物理学、超対称性、ひも理論……。

現代までの物理学の総カタログかと見紛うほど、理系向けのホットな話題尽くしで、文系の自分でもかなり楽しめる。

リサ自身もかつて楽しんだと語っていた『フラットランド』(日本語字幕設定可能)。

二次元の世界へ三次元の私たちが遊びに行くと、二次元の住人たちに話しかけただけで、サークルくんは悲鳴を上げる。三次元にいる私たちが、神のように見えるのだ。

この動画のように、私たちは五次元を認識できず、五次元を怖がって生きているのだとリサは示唆する。

五次元だけでなく宇宙全体まで視野に入れて、リサは宇宙のモデル図まで説明してくれる。宇宙とは「バルク方向へブレーンが多重化したマルチバース」だというのだ。専門用語の原液が濃いので、ここはバシャールの宇宙論で水割りにしておきたい。 例によって、二人は同じことを言っている。

つまり両者とも、並行宇宙(=ブレーン)が無数に存在する多元宇宙論を取っているのだ。

論より証拠。リサは最新の実験結果が、多元宇宙説を可能にする余剰次元が存在することを示唆していると説明する。つまり、バシャール的宇宙論の一端が、最先端の物理学で証明されつつあるというのだ。 

 本書の初めのほうで、余剰次元がどのように隠れていると考えられるかを説明した。巻き上げられたり、ブレーンに取り囲まれたりして、いずれにしても気づかれないほど小さくなっている。

(…)

 もし余剰次元があるのなら、その余剰次元の指紋はきっと存在する。そうした指紋が、カルツァ-クライン(KK)粒子だ。

 このKK粒子はすでに高エネルギー加速器が生み出して実験データとして記録を残しているという。そして、何とこのKK粒子の大きさは、余剰次元の大きさに逆比例するというのだ。粒子が小さければ小さいほど、余剰次元の大きさは大きくなる。現在分かっているのは、KK粒子の大きさが少なくとも10のマイナス17乗以下だということ。わかりやすいサイズ表現でいうと、1cmの一兆分の一のさらに十万分の一なのだそうだ。そして、その次元的背後に、それに逆比例した大きさの宇宙が広がり、交錯しているということなのだ。

五次元世界はなかなか想像しにくい。しかし、私たちの時空と交錯した多元宇宙の想定は、多くの物理学者の間で共有され始めているらしい。「私たちの生活世界で宇宙がかくれんぼをしている」という比喩を使って、こんな本も出ている。 

隠れていた宇宙 上 (ハヤカワ文庫 NF)

隠れていた宇宙 上 (ハヤカワ文庫 NF)

 
隠れていた宇宙 下 (ハヤカワ文庫 NF)

隠れていた宇宙 下 (ハヤカワ文庫 NF)

 

 自分はリサの本の方が好きかもしれない。というのも、『ワープする宇宙』には、なぜか各章の冒頭に、洋楽ロックの歌詞の一部がちりばめられていて、1ページ程度の「不思議の国のリサ」のようなミニ小説がついているのだ。どうして、宇宙本の各章が洋楽つきなのか、リサが単に洋楽好きなのか、よくわからないけれど面白い。

例えば、最終章の「結論」は、こんな感じだ。

これが世界の終わりさ、知ってのとおり(そして僕は気分良好)――REM 

選曲は、自分の好きなビョークやこの記事に書いたサイプレス・ヒルなんかも入っている。自分より10歳も上なのに選曲が重なるとは、リサの感性はかなり若そうだ。

と、豆腐で記事を終わらそうと思っていると、それを制止する手が伸びてきた。自分の左手だ。せっかちな右手を牽制して、まだ続きがあるよと伝えようとしている。

最終章のエピグラムの「It's The End Of The World」は「世界の終わり」だぜ。続きなんてあるはずないだろう。と思っていたら、あった。

「…オブ・ザ・ワールド」とカタカナ読みするからいけないのだ。ネィティブっぽく発音しなきゃ。

オゥザワァ

 リサ・ランドールの『ワープする宇宙』は原著の出版が2005年だった。それ以後も、物理学の最先端は依然としてホットだ。ぜひ『ワープする宇宙』に書き加えてみたいのが、ハイゼンベルク不完全性定理が敗れ去ったこと。

2012年に或る日本人がその不完全性定理を過去のものにしてしまったことは、まだあまり知られていないのではないだろうか。

その方程式を通称「オゥザワァの不等式」という。もう少しネィティブっぽく発音すると「小澤の不等式」だ。

今回の実験で実証された小澤の不等式は、誤差と乱れ、そしてゆらぎをきちんと区別した上で、かつてハイゼンベルクが追究した測定の限界を正しく語っている。2003年に提唱され、これまでは一部の専門家にしか知られていなかったが、今回実験で実証されたことで、物理学界全体に知れ渡った。

シュアにまとめられた日経の記事に付け足すとしたら、「小澤の方程式」がもたらす近未来の可能性についてだろうか。これまで支配的だったハイゼンベルクの不完全性の定理は実験では成立せず、代わりに「小澤の不等式」がすべての実験で成立していることが判明した。つまり、量子力学の微細空間での動きを精緻化させる定理が確立されたというわけだ。近い将来、微細空間そのものであるナノテクノロジーや、量子コンピュータや量子暗号の開発でも、応用されていくことは間違いないだろう。

量子暗号が普及すれば、原理的には盗聴されたら盗聴されたとわかるので、盗聴犯罪が不可能になる可能性が高い。どこの分野にも、明るい材料というものはあるのだ。

 さて「バカ王子」という渾名話で始まったこの記事に、ようやく思いついたらしき「オゥザワァ」を接合して、自分を90年代の王子さまっぽく演出しようとするのはみっともないぜって?

そんあつもりはさらさらないよ。当時だって、雰囲気が似ているって言われただけだし、それも20代の頃の話だ。

記事の途中で揃った「見通しが甘い」と「スイーツ」と「糖尿病」のスリーカード。それより凄い洒落が揃って、読者のハートに火がついたと思うかって?

そんなトランプゲームに乗った覚えはないな。大事なのは、トランプではなくハートだろう? かなり以前、半年くらい前から、自分のハートに甘い火がついていることの方がはるかに大事さ。

すると、急に左手がカタカタとキーボードを叩いて、こう打ち込んだ。

あなたのハートには、どれくらいの炎が?

私は驚いて自分の左手をじっと見つめた。左手は何を言わせたがっているのだろう? 左手だけに、まだ言っていない、残された(left)思いを書き込めと言っているのだろうか? わかった。書くよ。

My heart is firing more violently than any other heart オゥザワァ.

ぼくのハートは、世界の他のどのハートより、激しく燃えている。