「月人+Ginger」を懐かしみつつ文体練習
あまり知られていない話。20世紀最大の小説『失われた時を求めて』を書いたプルーストは、その大作を書き出す前、バルザックやスタンダールの文体模倣に取り組んでいた。
映画化された『地下鉄のザジ』を代表作に持つ、レーモン・クノーも、短いフレーズを99通りの文体で書き換えたユニークな書物を持っている。
文章の内容は他愛のない数行の話にすぎない。
混んでいるバスの中では二人の男が言い争い、公園ではその一方の男の友が、ファッションのアドバイスを受けている。
これが、クノーの多彩すぎる文体で書くとこうなる。
合成語を使った17:「ぐい押しわざ突きしないで欲しい」
アナグラムを使った20:「お琴が…倍酢ドアして…」
- 作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,朝比奈弘治
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 1996/11/01
- メディア: 単行本
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さて、今晩自分が取り組んでみたいのは、コラムの執筆だ。雑誌のモノクロページによくある1200字の囲みコラムを、いくつか書くので、即戦力であることが証明できると良いと思う。
1. 紀行系コラム(1200字)
ロード・ノベルの傑作『深夜特急』の作者は、若い女性にしばしば非難を浴びせられたらしい。沢木さん、酷いですよ。私の彼は『深夜特急』を読んで、長旅に出てしまったんです。……彼女の恋人は帰国したのだろうか。きっと帰国はしたことだろう。問題は、彼が彼女のもとへ帰ったかどうかだ。旅は人の根源的な感覚まで変えてしまうことがあるから。
- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/04/26
- メディア: 文庫
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ネット全盛の現代、人が旅をする理由はきっと変わってしまったにちがいない。ぼくが今、旅先の南仏のユゼスでこれを書いているのも、南仏の海と陸の匂いに触れたかったからだ。ドイツ人作家原作の『香水』という映画で、犬の嗅覚を持った天才的な香水調合師が、香水の材料を求めて18世紀の南仏を彷徨うシーンが好きだ。彼には数百メートル先の野原に、どの花が咲いているのかがわかるのだった。そして、彼が最後に至高の香水の原材料に選んだのは、「処女」だったのだ。映画では、群衆の歓声を浴びて広場のテラスに立つ天才香水調合師が、くすんだブルーのシャツを風と喝采に靡かせていた。
Bleeding Blue... ふとそんな複雑な色みのイメージが、不吉な鳥のように脳裡をよぎった。処女殺しの香水調合師だけでなく、ゴダールの『気狂いピエロ』では、主人公は赤のセーターを肩に巻いて青のパンツを穿いたヒロインと南仏で再会する。自殺シーンでは、赤のシャツを着て顔に青いペンキを塗って爆死する。
そんな赤と青の入り混じった Bleeding Blue が気になって、人口1万人未満の小さな町のホテルのボーイに、今朝こんな質問をしたところだった。
「レストランに vivid な赤と青の椅子を選んだのは、どうしてですか?」
地元の青年のボーイは、そつのない微笑を浮かべて、こう答えた。ジュ・ヌ・セ・パ。町の雑貨屋にも、赤と青のひとそろいの水差しが置いてあった。これを書いている今は夕刻、ユゼス公爵邸の近くの高台から、蜂蜜色の瓦屋根の連なりが、夕陽で暖色に溶かされていくのを眺めている。ぼくはラップトップの鍵盤を打つ手をとめて、草原に寝そべった。草と土の香りを嗅いだ。
Bleeding Blue が、旅の色かもしれないことに思い当たったのだった。血液型性格診断を信じているのは、世界で日本人くらいらしい。血縁を生み出す異性選択で、若い男女が選び合っているのは、実は、自分とは異なるMHCというタンパク質製造法タイプだと言われている。それを、サブリミナル嗅覚で選び合って、婚姻や妊娠が成立しているケースが、かなり多いらしいのだ。 人間はあらゆる機会を生かして、異種強勢を目指す生き物なのだ。
- 作者: 山元大輔
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2001/10
- メディア: 単行本
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ぼくは身体を起こして、森へと分け入っていく道の行方を見透かした。森の中にどんな花が咲いているのかは、見当もつかなかった。外にある異なるものを、内へと取り入れようとする冒険。たぶんそれは、人が物悲しいほどに旅へと誘惑される理由と、さほど変わらないものにちがいない。
ぼくは Bleeding Blue と声に出して呟いた。それから、灯りの煌めくユゼスの街並みを見下ろしながら、ホテルへと続く階段を降りはじめた。(1261字)
(余談:生涯ベスト10に入る大好きな映画で「月人」発見!(英語字幕))
2. 恋の相談に乗りたがる恋知らず(ユーモア・エッセイ)
編集部に迷惑メールを送りつづける輩がいて困っています。自分では「恋愛心理を語らせたら日本一だ」と言い張るのですが、よく聞いてみると、ゲーム以外での恋愛経験はゼロのようなのです。彼が恋愛心理コラムを書けるかどうかを、ネット上の読者からの反応で見極めたいと考えて、ここに注つきで掲載させていただくことにしました。
Q: 交際して5年の彼氏がいます。私は現在29歳、派遣で働いています。趣味はお料理。彼は33歳の正社員で、趣味は鉄道です。週末は必ず一緒に過ごしています。「ずっと一緒にいたい」とまでは言ってくれるのですが、話がどうしても結婚へと進みません。どうしたらプロポーズしてもらえるでしょうか?
恋愛マスターのポピーくん、アドバイスをお願いします!
ポピー: 交際5年の彼氏がいるのですね。ポピーには交際6年の彼女がいたりいなかったりします*1。でも、ポピーに1年の差をつけられたからといって、全然気に病むことはないですよ!*2 ぼくがイイ男すぎるのは、あなたの罪ではなく、ぼくの罪です。ごめんあそばせ*3。
彼を結婚に踏み切らせるのは簡単です。恋人同士のラスト1マイルをくっつける「仲人」を、二人の好きな趣味にやってもらえばいいだけです。
会話の中で、先にさりげなく「料理」と「鉄道」を結婚させておくのが、秘訣です。例えば、こんな粋な会話。
女: そういえば、今日で私たちが付き合って、5年半ね。ホウレンソウと白胡麻みたいに、自然にあなたに会えて(=和えて)嬉しいわ。この「完乗」わかってもらえる?
男: 「完乗」って、鉄道ファンしか知らない略語なのによく知っているね。日本中の全路線に乗るのが、鉄道ファンの最大の夢「完全乗車」、略して「完乗」なんだ。
女:辛みを抜きたい玉ねぎみたいに、勝手に話を水にさらさないで!
男:そらしてないよ。日本の新幹線のように、何があっても話を脱線させないのが、頑固一徹、生涯鉄キチのぼくの誇りだ。
女: その「鉄道」って、「金」を「失」う「道」って書くのに気付いている? 「金時豆」の「金」が「金太郎」の「金」なのに気付いている? GOLD を失ってしまったら、あなたはただの「太郎」にしかならないのよ!
男: どうしたんだい? いつになくそんなに鶏を煮込みだして(≒取り乱して)?
女: え? いま私のために料理のメタファーを使ってくれたの? …嬉しい。ずっと不安な異常走行音がしていたのよ。一緒に同じレールの上を走ってきたつもりでも、いつか平塚で連結を切り離されるんじゃないかって。
女: ねえ、連結がまだ柔らかいかもしれないから、確かめて。(と目を閉じて、唇を突き出す)。
男: (唇を重ねつつ)見つけちゃった、GOLDを。始発列車で食べるミルクちぎりパンみたいに、柔らかくて、甘い。(と強引に女のブラウスのボタンに手をかけようとする)
女: 待って。そんな、急に。白線の内側にお下がりになって。
男: 何言ってんだ。9月の三陸沖のサンマくらい、乗るってもう決まっているんだ、脂が。白菜を加えないと(=白線を越えないと)、熱い Ms. 抱きにならないだろ。ドア閉まります。(と、女をお姫様風に抱きかかえて、ゆっくりと回転して見せる)。
女: 私、オーブンの中の七面鳥みたいに、いま心が熱くなっている。教えて、私たちの乗り込んだ列車は、何ていう列車なの?
男: もちろん「シンデレラ・エクスプレス」さ。ぼくの「完乗」という感情を express した急行列車だ。さあ、人生の最後までのレールを、一緒に完全乗車しよう!
女: 何だか私が強引に岩下みたいだけど、本当に嬉しい。さあ、出発新生姜!
と、まあ、こんな会話をしながら、好きな相手の好きなものと、自分の好きなものをかけ合わせていけば、優柔不断な恋人をその気にさせるのは簡単だよ! ポピーもこの手口で2.5人くらい*4ゲットしてきたから、太鼓饅*5を捺しておくね!
これを読んでいる皆も、恋愛マスターのポピーに相談したい恋の悩みがあったら、何でも訊いてくれよな。おっと、ポピーに恋しちゃいけないよ、ヤケドするぜ!*6