ユーモア短編③「自讃男が愛する男らしさと薔薇とは」
編集長殿 先日私とLINEカウンセリングしたあと、「初のLINEカウンセリング大成功!」という記事を、グッピーくんが自作自演でブログに書いているのを発見しました。或る意味では、彼の創作能力を計るバロメーターになろうかと思います。念のため、注つきで報告しておきます。 A子
女子高生A: グッピーさん初めまして。高3の17才の女子高生です*1! 元気はつらつ*2! 趣味は英会話です。
グッピー: 初めまして。出身中学がナイストゥーミー中*3のグッピーです。Aちゃんのお悩みは何ですか?
女子高生A: 同い年の彼と付き合い始めて3か月。大学受験まで6か月。彼に「きみが欲しい」って言われて、どう答えようか迷っています。受験に悪影響があるといけないし…*4
グッピー: 初体験をすると、男子の成績は下がり、女性の成績は上がるのがセオリーだけど、問題はそこじゃない。相手の男がきみのヴァージンに値する男かどうかが、いちばんの問題さ。彼氏は葉巻を吸う?
女子高生A: 葉巻? 高校生ですよ。吸うわけないし、煙草も吸わないみたい。グッピーさんは葉巻を吸うんですか?
グッピー: 時々ね。チェ・ゲバラみたいに、革命と自己変革に生きる男には、葉巻が似合うのさ。問題は、葉巻を吸わないような男に、きみのヴァージンがふさわしいかどうかだ*5。彼はどんな車に乗っているの?
女子高生A: 車? 大学に入ったら、お父さんが古いBMを譲ってくれる話になっているみたいです。18歳になっても、高校のうちは校則違反だから。
グッピー: じゃあ、これは言っておこうかな。うちには昨日DMが来たよ。それも2通。しかし、校則なんて、未成年の空想区を高速で拘束するただの桎梏さ! 葉巻も吸わずに、車も乗らない男が女の子をモノにしようだなんて、時代は変わりすぎじゃないのか。*6。
女子高生A: 何だか… 私の空想区に… 不法侵入者が忍び込んでシーソーゲームを仕掛けてきているみたい……。*7。
グッピー: おっと、いけないよ、お嬢ちゃん*8。きみはぼくの28.5人目になるべき女の子なんかじゃない。
女子高生A:28.5人目? まだ21歳なのに? グッピーさんって滅茶苦茶モテるんですね。やっぱり、私には手の届かない雲の上のイケメンなのかも*9。
グッピー: 正直に言うと、きみを引いた27.5人っていうのは靴のサイズさ。いつのまにか自然に数えられなくなっちゃったんで*10、そう嘯いているだけ。
といっても、人生は旅だから、靴のサイズは旅する男の器を表しているのさ。完全な嘘じゃあない。
女子高生A: 27.5cm はとても大きいですね。*11男らしくて素敵! グッピーさんは、どんな女の子が好きなんですか?
グッピー: あらかじめタイプがあると、恋愛は難しくなるものさ。女の子それぞれの愛情表現でかまわないんだ。
グッピーの恋愛遍歴で印象に残っているのは、たとえば、洗濯してくれたアンダーシャツに顔を寄せて「柔軟剤変えた?」って訊くと、「柔らかくなったの、わかるんだ。嬉しい」とはしゃぎながら近寄ってきて、「こっちも、柔らかいかどうか試して」といって目を閉じて唇を突き出したり、とか。*12
たとえば、「新しく買ったスカーフの柄を見てよ」とグッピーの前にスカーフを広げたかと思うと、「よせよ」、急にそのスカーフで目隠しをしてきて、「よせってば」、「いいじゃない。あとですぐにほどいてあげるから。さ、あーんして」とスプーンでアイスを食べさせてくれて、グッピーが「次は口移しで食べさせて」と甘えた声で頼むと、「わかったわ。口を大きく開けてね」と言うので、口を大きく開けると、テレビのリモコンを突っ込まれて、うっとなって、二人で笑い転げたり、とか。*13
たとえば、酔ってリビングで寝てしまった翌朝、いつのまにか背中にかかっている毛布から顔を出してキッチンを見上げると、トントントンと包丁の刻む音、「おはよう」と笑顔を向けてくれたので、「いいもんだね。お味噌汁の匂いと葱を刻む音で、目が醒めるなんて」というと、「正確にはお葱じゃなくて『あさつき』だよ」と丁寧に訂正したりしてくるから、微笑んで見つめてしまう。「どうかしたの?」と訊かれたら、「朝からツキでたまらないんだ、きみのことが」と答えるしかなくて、とか。*14
女子高生A: どれもすごく素敵! グッピーさんを相手に、私もやってみたくなっちゃいました!
グッピー: 想像の中でなら、お好きにどうぞ。キスを誘ったり、食べ物を食べさせたり、起してくれたり、きみの好きなやり方でやってくれよな。*15
女子高生A: え? 想像の中だけなんですか?
グッピー: だって、グッピーはファンには手を付けない主義*16だし、きみはまだ未成年だろ、お嬢ちゃん。20歳を過ぎて、まだきみがグッピーにヴァージンを捧げたい気持ちがあるなら、急いで連絡をくれよな。*17
女子高生A: ひとくち葉巻を吸わせてくれるの?
グッピー: まさか。久しブリに会ってイイ女になっていたら、出世魚のハマチとブリを寿司屋でご馳走するよ。回転ずしの寿司ネタの横に、一輪のチェ・ゲ薔薇を添えて*18。
女子高生A: キャーッ! グッピーさん、素敵! 痺れるぅ!*19
グッピー: おいおい、痺れちゃ、まずいぜ。寿司屋で背びれが美味いのは「えんがわ」だけ。縁ガアるといいな、お嬢ちゃん*20。
Let's hatsu-ratsu! That's all for today. Bye bye, everyone.*21
*1:たぶん自分の4歳下、これくらいの年齢が好きなのだと思う。
*2:なぜか昭和の語彙。
*4:童貞なので、こういう悩み設定にしか興味が行かないらしい。
*5:要するに、グッピーくんが架空の女子高生の処女に強く執着している。
*6:4年前高校生だったグッピーくんも、葉巻も吸わず、車も持っていなかった。
*7:本人が得意がって上手に書いているつもりでも、こういう掛け合いが噛み合いすぎているので、自作自演であることがわかる
*8:「お嬢ちゃん」は海外ハードボイルド小説によくある語彙。
*9:実際は、簡単には手が届かないほど、地を這っている男なのだが。
*11:ん? 確か「ベッドを共にした経験人数」にお母さんの1を加えていたから、本当は26.5cmのはず。というか、私とのやり取りを、こんな格好つけに転用されて悔しい!
*12:童貞の妄想1。
*13:童貞の妄想2。でも、これはちょっと楽しそう。
*14:童貞の妄想3。1~3のすべてに、自分を世話してくれる母親の残像が漂っているのが、まだまだ中身が子供のグッピーくんらしい。
*15:女心に理解があるフリをして、結局、女が男を世話するのが当たり前と考えているところに、グッピーくんがまだ童貞の理由があるみたい。
*16:確かに、脳内ファンには手を付けられない。
*17:相変わらず、架空の女子高生の処女に強く執着している。
*18:え? イイ女に回転ずしをご馳走するの?
*19:言われたことがないので、どこか昭和っぽい古い表現で自分を褒めてしまうらしい。
*20:ハードボイルド風にまとめたつもりらしい。
*21:なぜか、英会話の別れの挨拶。