地球を永遠に割り切らない生き方

そしてそのとき、アップルパイからアップルを引き去ったあとのπに、こちらがうまく調整した事情を掛け合わせれば、円面積のごとき中身の詰まった円満な関係が生まれることにまで、相手は思い至ってくれるだろうか。

どこか割り切れない思いをしている。どうして自分ばかりがこんな目に逢うのだろう。どんな具合に調整して「事情」を掛け合わせても、円満な解決にいたらないのだ。本当に自分が悪いのだろうか。悪いのなら、教えてくれないだろうか。割り切れない思いが心に残ってしまう。

割り切れない思いが乾燥して砂漠になってしまうことだけは避けたい。そう思いながら、昨晩の上の記事で、都市中心部から中小の食料品店が撤退して、フード・デザートを生み出していると言及したのを思い出していた。

地方都市の中心部に住む自分の周辺でも、似たような感触がないではない。少し郊外ならうじゃうじゃあるスーパーが、自分の近所には一軒しかないのだ。その一軒も、クリーニング受付カウンターから売り場が見渡せるので、何となく行きにくくなってしまったのだが、それは個人的な話。

ただ、産直市場系のお店がいくつか店を出してくれているおかげで、生鮮食料品には困らない。日曜日の午前中には、野菜や山菜をアーケード街の路上に積んで、定例産直市をひらいてくれる人々もいる。隣県の高知、自分が大好きな仁淀川の周辺から、ぐるぐるの山道を走って、毎週駈けつけてくれているようなのだ。

まだ自分の住む町では、ドーナツ化現象のドーナツの真ん中に、食の砂漠は広がっていないようだ。ということなら、安心して話題をドーナツ盤へ変えられる。

自分が生まれて初めて音楽プロダクツを買ったのは、小学校六年生のとき。歴史的名曲の「ワインレッドの心」で、何と、シングルのドーナツ盤だった。

小六のくせに、大人びたラブソングを愛聴している兄に憧れを抱いたのだろうか。年長組だった弟が、幼稚園で「ワインレッドの心」を歌うと、20代の保育士さんたちに大受けだったらしい。幼稚園生の分際で「今以上それ以上愛される」存在になったらしいのだ。

お兄ちゃんって、凄い曲を持っているんだね!

弟は尊敬のまなざしを兄の私に向けた。まあ、そうかな。最近披露された上のフラメンコギター・バーションも凄いぜ。心に悲しみがあって、ひとりでに、淋しガロう、淋しガロうとしてしまうときは、下のウィスパー系のアコースティック・バージョンがいい。

というわけで、今晩も順調に話題はガロ・ワインへと辿り着いた。

E&Jガロは世界最大の家族経営ワイナリーで、下の動画の左の女性が創業者兄弟の孫娘らしい。

世界最大というだけあって、IBM と提携して、意欲的に IT 技術を導入していることでも知られている。アメリカを代表する AI 農業の先駆的時例なのだ。 

この動画にうまくまとめられていた。ワイン畑の灌漑システムを、IBM のエンジニアがつきっきりで IT 制御した。天気に合わせて水撒きや施肥の量とタイミングを、葡萄畑の畝ごとに自動制御したのだ。

すると、水の量は75%になり、収穫量は20~30%増加し、味も良くなったというのだ。このブレイクスルーはワイン業界で注目を集めた。:というのも、業界で永らく信じられていた「ブドウの質と量は反比例する」という経験則を打ち破ったからだ。AI 農業では、収穫するブドウの質も量も同時に改善できるのだ。

日本にも同じような事例がある。

もともと農場経営のイノベーションに関心が高く、トヨタ生産方式を逸早く導入した HATAKE カンパニーは、畑を IoT 化して得られるデータ群を、全国各地の栽培に生かしている。  

(…)センサーは畑に設置して、そこの地温、気温、湿度、日射量、灌水量を計測できる。これまでの試験では、種をまいてからの地温を積算した値が一定になると、収穫の適期を迎えることがわかった。これにより、茨城県だけでなく岩手県大分県でも、地温を計測して、収穫の適期を予測できるようになる。 

 AI 農業を最も積極的に進めている先進地は、佐賀にある。佐賀といえば、クラスの半分以上が同じ床屋さんを利用していて、残り半分はお母さんに切ってもらうことで有名だ。(http://j-lyric.net/artist/a000737/l001f1b.html

しかし、今や時代は変わった。畑に現れる害虫を、農家のお母さんが駆除するのではなく、ドローンが誘蛾灯を垂らして、自動駆除してくれるのだ。これは凄い。

佐賀で、世界一の速さで AI 農業が進んでいるのは、官産学の連携が、どこよりも機動的に進んでいるからだ。短期的にすでに見えているのは、労働時間の二割減、農産物の売り上げの三割増だそうだ。中長期的には、佐賀は「世界一の農業ビッグデータ地域」を目指しているという。

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上記の県歌によると、かつて佐賀をPRするキャッチコピーは「さがをさがそう」だったらしいが、それが「差がつくさが」に変わる日もそう遠くないような気がしてきた。素晴らしいのだ、新技術導入の意識の高サガ。 

スマート農業バイブル~『見える化』で切り拓く経営&育成改革 (映像情報MOOK)

スマート農業バイブル~『見える化』で切り拓く経営&育成改革 (映像情報MOOK)

 

さて、AI 農業の先進的な事例集としては、現時点で最も面白く読めるのは、上記の新書で間違いないと思う。ほぼ同じ事例がカラー写真多数で掲載されている上の「バイブル」も、実際の農業従事者にはためになると思う。収穫成功率が40~80%のイチゴ収穫ロボットの事例も掲載されている。

日本の農業問題で自分が気になっているのは、進取の気性に富んだ High IQ の IT 精通者が、しばしば日本の農協を「補助金で甘やかされた世間知らずの怠け者」であるかのように批判することだ。

バカっていうやつが一番バカ。田舎者っていうやつが一番田舎者。

そんなつまらないことを言いたいわけではない。その悪口レッテルが、端的に事実ではないことを、情報強者はずっと前から知っているのだ。

ひとまず、ひとくちワインを飲んで気持ちを落ち着けようか。飲むべきワインは赤ではなく「知ろう!」

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日本の農業分野への補助金は、国際水準から見て、著しく低いのが事実なのだ。事実から目を背けないで!

では、どうして事実でない「農協バッシング」が、メディアを通じて流布されつづけてきたのか。上のグラフの引用元であるこの本が、農協をめぐる問題を最も鮮やかに浮き彫りにしている。 

亡国の農協改革

亡国の農協改革

 

同じ著者による下の警告の書が、素晴らしい仕上がりだった。どうして事実でない農協バッシングが横行するのか、戦慄の裏事情を、私たちにわかりやすく教えてくれている。

対米自立型保守である自分は、感情的な農協バッシングに加わるつもりはさらさらないが、農協の機能を強化するという種類の改革案になら、賛成してみたい。

日本の農協には流通構造上の問題点があるとは、多くの識者が指摘するところだ。農家から流通コストだけ徴収して、農産物の変動リスクは農家が負うしかない仕組みになっている。その結果、零細農家が多く残存することとなり、農家も農協も政府の補助金に依存しやすい体質になっている。

(…)

ただ、日本の農協の改革案を口にすると、グローバリスト系の農協解体派と同じだと誤解されて、とんだ呉越同舟になりかねない。とんでもない。 

日本を破壊する種子法廃止とグローバリズム

日本を破壊する種子法廃止とグローバリズム

 

いや、本当にとんでもない話が裏にあるのだということを、この著書に教えられてしまった。 

(…)

ひとつだけ、自分が吃驚してくらっとよろめいてしまった記述を紹介しておこう。

(…)

全農の子会社に全農グレインという穀物輸入会社があり、本社を輸入元のアメリカに置いている。アメリカやその意向を受けたグローバリスト系政治家たちが、どうして「農協の株式会社化」を推進するのか。

 

実は、農協の株式会社化はダミーの論点であり、「本丸」は株式会社化によって全農グレインを買収することなのだと三橋貴明は説明する。全農グレインは先進的な会社なのだ。ニューオリンズに世界最大級の船積み施設を持ち、各農家と個別契約して、配合飼料などの分別管理まで実施している。

 

では、カーギルなどのグローバル企業も全農グレインを買収するのではなく、自社の生産管理を進化させればよいではないか?

 

残念ながら、答えはNOだ。それでは秘密目的を達成できない。

 

カーギルは全農グレインの技術が欲しいのではなく、株式会社化したあと買収した暁には、むしろその技術を捨てたいのだ。どうして先進的管理技術を捨てたいのか?

 

少し立ち止まって、この問いの答えを一緒に考えてほしい。きっとがっくりきてしまうことだろう。

答えはこうだ。

 

世界的に見て、全農グレインが「遺伝子組み換え作物でない農作物」を安全確実に調達できるほぼ唯一の調達先だから!

 

スーパーで売っている醤油や納豆のラベルには、「遺伝子組み換えでない」と明示されているものが多い。その安心を可能にしているのは全農グレインであり、独立国としての食料安全保障のために、全農≒農協が株式会社化されずに守られているからなのである。グローバリスト系政治家たちによる感情誘発的な農協改革案は実に危険だと言わなければならない。  

農協問題について、日本で最も見識の確かな三橋貴明は、明快にこう断言している。

筆者が知る限り、日本国民の「主権」に基づく食料安全保障強化を農協なしで構築する方法は、この世に一つも存在しない。 

これに反論できる農協解体論者の発言を待ちたい。

日本の農協に「補助金で甘やかされた世間知らずの怠け者」というレッテルが貼られて、負の印象操作がなされているのは、国民を分断して、「国民農業」を解体した上で、モンサントなどのグローバル企業が「食の支配」を強めるため。古典的すぎるほどわかりやすい「分割統治」策なのだ

「分割して支配せよ」というフランスの国王ルイ 11世の言葉に由来する支配,統治技術の一つ。統治者が被統治者間の人種,言語,階層,宗教,イデオロギー,地理的,経済的利害などに基づく対立,抗争を助長して,後者の連帯性を弱め,自己の支配に有利な条件をつくりだすことをねらいとしている。過去の植民地経営,支配にしばしば用いられ,イギリスのインド統治はその典型とされる。現代でも,国際政治の分野だけでなく,国内における選挙 (都市票と農村票の分離) ,労働組合 (第1,第2組合の分裂) の対策など,対立の契機を含んだ集団の制御に適用できる。

(強調は引用者による)

では、私たちはどうしたらいいのか。いや、簡単には考えはまとまらない。気分は淀んだブルーだ。

おそらく日本の政治家や論客たちに、もっと「仁」があれば、上のように「麒麟」が舞い降りてきて、この国の見通しが美しく澄み渡った「仁淀ブルー」になるのに。

いや、特に根拠はないが、「生きている三橋貴明」があと二人弱いれば、かなり情勢は好転するような気もするのに……。 

HANNARI(はんなり) (生八つ橋 4色詰め合わせ 20個入)

HANNARI(はんなり) (生八つ橋 4色詰め合わせ 20個入)

 

とりとめもなくそんなことを感じたのは、いま休憩につまんでいる甘味が、はんなりとした「生八ツ橋」だったからかもしれない。美味しい甘味が目の前にある間は、手が止まらないし、愚痴も止まらない。

困ったな。IT を農業に生かしつつ、同時に、既存の農業組織も生かす方向性はないものだろうか。

そう悩みながら、はんなりとした気分で、あちこちの本をめくっていると、その方向性が見つかった! 方向性が見つかったというか、もうプロジェクトは動き出していて、基礎作りが始まっている。はんなりしたも同然、つまり、半分成功したも同然じゃないか。 

ITと熟練農家の技で稼ぐ AI農業

ITと熟練農家の技で稼ぐ AI農業

 

ブログ読者の中で記憶力の良い人は、この著者の名前を覚えているかもしれない。

超優秀なIT環境の設計家である神成淳司は、2007年の時点で、近未来をこう予測する。もちろん的中している。

 

神成: 最終的には、大多数の人間は、現実世界と仮想世界の状況を、分け隔てなく利用するという状況になると思います。直感的にわかりやすい例を挙げれば、車の中からフロントガラスを介して外の景色を確認した際、その景色の中に、まったく違和感なく、コンピュテーション化されたモノが存在する。そのモノを、我々は現実のモノと分け隔てなく活用できる。

 

この「予言」は、4年後にカロッツェリアのARナビによって、実現された。 

世の中は凄い人がいるものだ。ITアーキテクチャの先端にいた研究者は、今や日本の農業を立て直す大潮流の中で、最も正しく方位磁石を示す設計家になっていた。

その方向性とは、もちろん副題にある「ITと熟練農家の技で稼ぐ」だ。分割統治にやすやすと分割されず、逆につながる動きを生み出そうとしているのが、方位磁石の確かさを感じさせる。

 最初に着手したのが「データの標準化」です。内閣官房IT総合戦略室が関係府省と連携して、それまで産地や作物ごとに異なっていた農作業や農作物の名称、温度や湿度などの環境情報などについて、用語の統一とデータの標準化を行いました。プロジェクトのスタートから約3年が経過し、ようやくその目処がついたところです。

 

 第2段階として取り組んでいるのが、「農業データ連携基盤(データプラットフォーム)」の構築です。ITベンダーや農機メーカー、関係府省など産官学が連携して異なるシステム間でデータ連携を可能とし、気象や土壌などのオープンデータや企業の有償データも提供するプラットフォームで、2017年中にプロトタイプの運用を開始する予定です。

先の事例で、佐賀が「世界一の農業ビッグデータ地域」を目指していたのを、覚えているだろうか。

すべてのものがオンラインでつながる IoT 化の次に待っているのは、間違いなくデータ解析の技術争いだ。さっそくデータ・サイエンティストという新職業が世に出ータことも、早耳の人は知っていることだろう。 

改訂2版 データサイエンティスト養成読本 [プロになるためのデータ分析力が身につく! ] (Software Design plus)

改訂2版 データサイエンティスト養成読本 [プロになるためのデータ分析力が身につく! ] (Software Design plus)

 

 神成淳司が鋭いのは、熟練農家と非熟練農家の間にある10倍の収入格差を、データの収集と分析で縮められるとする着眼だ。

日本の就農人口の平均年齢は 66.8才。続々と現れる新技術に踊って見せるのが、IT 技術者の仕事ではない。

現在いる熟練農家の暗黙知(職人技)のデータを収集し、その形式知にセンサー大国日本が配備していく無数のセンサー・データを関連づけていくこと。そのビッグデータを国家主導でプラットホーム化して、農業をする誰もがアクセスできるように共有すること。それが、日本の農業を持続可能にする「最初のゴール」として設定されている。

「どこかのひと握りの先進的な農業法人が稼げればよい」では、この国の農業は崩壊してしまうからだ。

でも、熟練農家がノウハウを提供したら、自分の競争優位が失われてしまうのでは? 

第一感、浮かんでくるそんな疑問にも、神成淳司はきちんとした答えを用意している。

日本の農家たちのビッグデータを、知的財産権として保護する体制を整えようとしているのだ。彼の鋭い批評眼は、三橋貴明とはまた異なる視点から、日本のパプリカ栽培のビッグデータが、システム提供元のオランダの会社に収奪されている現状に、警鐘を鳴らすのだ。

そしてその逆側に立って、日本の熟練農家の暗黙知が知的財産として保護されれば、それを適切な条件で活用して、海外の農業生産を大きく向上できる可能性にも言及する。

多くの農業問題の本が、日本の農業には国際的な潜在競争力があると鼓舞する言葉を書きつけている。それは事実だし、事実が広まるのは悪いことではない。

けれど、世界人口の急増に追いつかない世界的な食料不足を考えると、(グローバリズムは論外だとしても)、食料問題を単純に国境で区切って良いのかというためらいは残るのだ。日本の食料自給率がきわめて低い日本にいたとしても、そのような世界の農業と食料生産を豊かにする可能性を織り込みながら、国内問題に取り組む姿勢には感嘆を感じずにはいられない。

冒頭に書いた「割り切れない思い」を自分が持て余しているのは、間違っていたような気がしてきた。国内でも分割統治によって割り切られることなく、国際的にも割り切った自国中心主義のみを生きるのではなく、地球を割り切らない生き方がありうるのかもしれない。

それが、あまりにも困難で、あまりにも遠大な道にちがいないにしても、せめて円満な真円を生み出すための世界的努力が、円周率のように途切れずつづいていくことを願いたい気持ちだ。