子供たちの人生が盗まれつづけている

『破壊しに、と彼女は言う』

クールすぎるこのデュラスの小説名をが三人称複数形になって、現代アートのキュレーターによる美術批評となった。

 この「集団創作」も現代アートの範疇に入るのではないだろうか。『墓石にキスしに、と彼女たちは言う』とばかりに、90年代後半以来、パリまで出かけて墓石にキスマークを残す儀式が流行しているらしい。ヨカナーンの斬り落とされた首にキスする femme fatale の『サロメ』の作者、オスカー・ワイルドの墓の話だ。現在は墓石保護のために、キス専用のガラス柵が設けられているのだとか。

90年代前半に自分が訪れた時には、Oscar Wilde の墓碑銘の直後に、スプレーで「side」が書き加えられていた。名曲「Walk on the Wild Side」を歌ったルー・リードのファンが悪戯したのにちがいない。といっても別段、ルー・リードに罪があるわけではない。 

日本でワイルド・サイドを歩いているクールなロッカーと言えば、この人になるのではないだろうか。

自分が高校生だった頃、デビュー曲の「モニカ」を「もう2回」と言い換えて、「思春期の性欲猿の懇願」を諷刺する替え歌にする遊びが流行っていた。誰でも思いつく言い換えらしく、亡くなった尾崎豊も、酔っ払って同じ替え歌を仲間と絶叫していたらしい。その初々しいロック歌手も、今や『下町ロケット』で中小企業のひたむきな情熱に見せられる大企業の部長を好演する名俳優だ。

もうすこし少年じみた興味を引き延ばして付け足せば、水球の最優秀高校選手だった過去にふさわしく、吉川晃司は腕時計はオメガのシーマスター・アクアテラを愛用しているらしい。愛車の一台はアストン・マーチンで、彼以上に英国のスポーティーな高級車が似合う男はいないだろう。

吉川晃司と英国がつながったからには、Complex の相方で、2012年にロンドンへ移住した布袋寅泰に言及しないわけにはいかないだろう。代表作は、誰もが耳にしたことのあるこの曲だ。愛用の腕時計はランゲ&ゾーネで、愛車はベントレー・アルナージ。

この有名な「軍団」の登場場面で一群を率いて歩いてくる白装束の女を、タランティーノ監督は、美輪明宏にインスパイアされて造型したらしい。正確には、名字を「美輪」に代えるようにとの霊感が降りてくる前の「丸山」明宏による『黒蜥蜴』。原作は江戸川乱歩、脚本は三島由紀夫、監督はタランティーノが偏愛を寄せる深作欣二。豪華すぎる顔ぶれが勢揃いした探偵映画の名作だ。

現代の一般人が一番娯しめる三島由紀夫作品は『黒蜥蜴』で決まりだろう。ネタバレを犯して、その魅力を語りたくて、うずうずしてしまう。

映画の冒頭、何やら妖しげな秘密クラブで蠢く猥雑な男女たち。音楽はベンチャーズ調のロックより、「ダンモのズージャ」の方が良かったような気もするが、そこに登場する白黒の隠微なビアズレーの絵には往時の雰囲気をそそられてしまう。絵は「墓石にキスされる」オスカー・ワイルドの『サロメ』を描いたものだ。その秘密クラブの狂騒がブラックアウトして、黒蜥蜴の歌とともに女賊の丸山が登場する場面には、「時代遅れのロマンチスト」の面目躍如たる美しさと郷愁がある。

映画の最初のクライマックスは30:45頃。明智探偵に美しき令嬢の誘拐を見破られて逮捕される寸前、黒蜥蜴が明智の上着から盗み出しておいたピストルで形勢を逆転するところ。その直後の34:06に、女賊が「男装の麗人」となってホテルの警戒網をすり抜けていく場面の、若き丸山明宏の美しさも感動的だ。

その後、黒蜥蜴はまんまと令嬢の誘拐に成功し、彼女を餌にして絢爛豪華な宝石「エジプトの星」を盗み出す事にも成功するが、引き換えに返すはず令嬢は返さないまま、自分の「私設美術館」へと運び入れる。その私設美術館の展示物が、衝撃的なこれだ(1:07:03)。

「人間剥製」を演じているのは、ボディビルで鍛え上げた半裸の上半身を晒した三島由紀夫その人。

一瞬、フラッシュ・バックで再登場する1:13:47では、丸山明宏からのキスを受けて、人間剥製」であるのに、三島は少しフラフラしてしまっている。数秒間なら、身体を静止する演技は決して難しくないはず。それでもフラフラしているのは、鍛え上げた筋肉に力を入れて際立たせようとしているからで、しかもその懸命な努力による「ディフィニション」が、アングルのせいで少しも映っていないところが、何とも言えず可愛らしい。淀川長治がかつて「三島さんが愛されるのは、赤ちゃん精神の持ち主だから」と語った意味が、分かるような気がする。文豪らしからぬ「ひたむきな愛らしさ」が、三島由紀夫の魅力の根源にあると自分は考えている。

ところで、上の記事で語った宮崎駿江戸川乱歩好きが本物だということが、この映画を見ればよくわかるだろう。

54:18からの、追っ手の前に手下たちが遊撃的に煙幕を張って攪乱する場面は、陸上と空中の違いはあるものの、『天空の城ラピュタ』で海賊たちが逃亡する場面で引用されていた。きわめつけは、追いつめられた黒蜥蜴が、服毒自殺を図って朦朧としながらも、恋に落ちた相手の明智にこのように囁く場面。

黒蜥蜴:捕まったから死ぬのではないの。

明智:わかっている。

黒蜥蜴:あなたのずるい盗み聞きに、何もかも聞かれたから。

明智:真実を聞くのは一等辛かった。ぼくはそういうことには慣れていない。

黒蜥蜴:男の中で一等卑劣なあなた。これ以上見事に女の心を踏みにじることはできないわ。

明智:すまなかった。…しかし、仕方がない。あなたは女賊で、僕は探偵だ。

黒蜥蜴:でも心の世界では、あなたが泥棒で、私が探偵だったわ。あなたはとっくに盗んでいた。私はあなたの心を探したの。探して、探して、探しぬいたわ。いまやっと捕まえてみせた。…冷たい石ころを。

明智:しかし、ぼくも…

黒蜥蜴:言わないで。あなたの本当の心を見ないで死にたいから。…でも、嬉しいわ。

明智:何が。

黒蜥蜴:嬉しいわ。あなたが生きている…(絶命する)

明智:…ぼくは知っていた。きみの心は本当のダイヤだと。…本物の宝石は死んでしまった。

 これらの切ないロマンティックの台詞群が、あの銭形警部の生涯最大の名言へと反響していることは、もうおわかりだろう。一方に古典的名作があり、一方にそれを更新していく革新者がいる。

銭形警部:くそー。ルパンの奴め、まんまと盗みおって。

クラリス:いいえ、あの方は何も取らなかったわ。私のために戦ってくださったんです。

銭形警部:いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です。  

さて、美輪明宏がどんな時計をしているか、どんな車に乗っているかについては、情報があまりない。

実は、この記事を書きながら、いけないいけないと思いつつも、どどこ上の空で、どうしても自分が欲しい時計のことばかりを考えていた。政治家のように偉くなければ入手できない時計なのかもしれない。その時計に興味があるのは自分だけではないらしく、この福島出身の政治家の時計の話で、ネットはかなり盛り上がった。

 2016年、永田町で0.8μSvの放射能被爆が存在することを、この自民党の政治家は全世界に公表したが、それが「軍隊の即時撤退レベル0.3μSv」であるとわかると、そのツイートをすぐに削除してしまった。あれ、おかしいな? 野党時代には「政府は子供の被爆を隠している」と指弾していたのに。

原発事故で人生を無茶苦茶にされた県民ばかりの福島出身でありながら、「国民生活を破壊しに、と彼女は言う」つもりなのだろうか。

https://twitter.com/lllpuplll/status/466871388960063488

 放射能被爆が、細胞分裂の頻繁な低年齢であればあれほど、有害性が高いのはよく知られた話だ。0歳児の放射能の有害度は60歳以上の老人の300倍だとされている。変節漢ではない「子供を被爆から守る」専門医の一人は、小児科医としての豊富な臨床経験に基づいて、こんな恐ろしい話をしている。興味深い発言を適宜引用しよう。

「東京は、もはや住み続ける場所ではない」

「残念なことに、東京都民は被災地を哀れむ立場にはありません。なぜなら、都民も同じく事故の犠牲者なのです。対処できる時間は、もうわずかしか残されていません」

「首都圏においては状況がどんどんどんどん悪くなっている。今でも進行している」

「大人が頑張って対応すれば住めるかなと思ったけど、1年半くらいで諦めた」
「基本的に汚染されたモノを燃やしてはいけないのに、燃やしちゃうし。基準を緩めて汚染を拡大しようとしていると思われる」 

 吉川晃司、布袋寅泰美輪明宏とつないで記事を書きながら、ずっとガイガー・カウンター付きの時計のことが自分の頭を離れなかったのは、きっとこの3人に放射能にまつわる共通性があるせいだろう。

美輪明宏は少年時代に長崎の原爆投下を体験した被爆一世、吉川晃司は父が広島の原爆で被爆した被爆二世、布袋寅泰は東京からロンドンへ家族ぐるみで移住した放射能被爆忌避者。

何の罪もない子供たちが人生を盗まれつづけている国で、私たちは生きていかなければならない。政府は必ず嘘をつく。あなたが漠然と信じている固定観念は、捏造と歪曲に満ちた嘘かもしれない。

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