素人でも分かる危険な「素人設計」

自分には弟はいるが兄はいない。いないのに想像上の兄貴から、something new を書くよう命じられている気がして、自分に新しい何ができるのかを考えていた。すると今朝、something new は news からやってきた。昨晩の報道ステーションの録画を見ていたときのこと。

獣医学部等の設計図面の解説を見ていて、小説で動物実験施設を描写したことがあるだけの自分が見ても、無茶苦茶な設計がなされていることがわかってしまったのだ。現在のところ、施設の設計の杜撰さと危険性について、専門的な知見に基づいてシュアな報道をしているのは、日刊ゲンダイとヤフーニュースの志葉玲だけだろうか。急ぎの人は両者の記事を読んでほしい。

建築図面をスクープしたのは、今治に張り込んで現地取材をしているこの人。「選挙に出なくても、政治家でなくとも、市民は社会を変えて行ける」という熱い信念にも共感してしまう。

 ビーグル犬を用いた心臓移植実験を描くために、自分はこれらの本を下調べに使った。

最新版ガイドライン 実験動物施設の建築および設備

最新版ガイドライン 実験動物施設の建築および設備

 
動物実験施設作品集―その設計と管理、運営 (1978年)

動物実験施設作品集―その設計と管理、運営 (1978年)

 

 志葉玲の記事にあるこのような発言が、専門家たちの普通の感覚だと思う。

通常BSL3実験室は敷地で独立した建物にして隔離して建設するものである。 

 私も読者が初めて動物実験施設を目にする場面で、このように描写した。

 都心の臨海部にあるS医科大学の広大な敷地には、あるべき大学施設や付属病院などが、容積率の高い高層ビルとなって林立している。航空写真で見ると、これらのビル群がいたるところで渡り廊下によって連結されているのが、あたかも節々の多い新種の昆虫の標本のようである。その複雑な連結体から隔離された場所に、小さな白い低層の施設がある。立ち入る者は稀で、存在を知る者さえほとんどいない。入日の横には、「関係者以外立入禁止」と大書された看板が立てられており、壁にはそれより遥かに小さな篆書体で、「動物実験棟」と刻印された銅板が掲げられている。

 志葉玲の記事で、国立研究所の動物実験施設管理専門家がこう指摘しているところも重要だ。

ウイルスに汚染される、使用済みケージ、SPF清浄動物、感染動物死体部屋の空気が、同じ狭い廊下を通過する構造となっている。これでレベル3のウイルスを取り扱ったら簡単にバイオハザードがおきる。(※SPFとは、発育に悪い影響をおよぼす特定の病気に感染していない、健康で清浄な動物のこと)

少し専門的に聞こえるだろうか。一般読者にもわかりやすいように、自分なりに噛み砕いて書いたのがこの部分。

 動物実験棟の内部は、最大限に防疫が考慮されているせいで、動線にいくつもの障壁が設けられている。廊下ひとつをとっても、汚染廊下、清浄廊下、一般廊下の三つに区分されており、汚染廊下からは、洗浄室を通過しないと清浄廊下や一般廊下に出られない仕組みになっている。

え? 廊下がごちゃまぜなの? と思わず呟いてしまった。 「専門家が見れば一目瞭然。シロート同然の設計なのだ」と日刊ゲンダイが言うように、素人の自分が見ても、これはヤバイくらい狂気じみた設計だ。

分かりやすく空気から水に置き換えて譬えると、建設の経費を浮かすために、上水管と下水管と雨水管をひとつにまとめて、その一本の水道管を使って、顔や手を洗ったり、歯磨きしたり、コーヒーを淹れたりしながら、獣医学部生活を頑張ろう、と言っているようなもの。常識外れの危険度だ。確率で表すと…

「危険なウイルスや病原菌の漏出対策が不十分で、重大なバイオハザード(生物災害)が100%起きると、図面を見た専門家達から指摘された」

黒川敦彦が確信をもって「100%」という言葉を引用するのも頷ける。獣医学部の(水増しの可能性が指摘されている)建築費は、127億円だという。そのうち、設計事務所の取り分は、相場通りなら10~15%、つまり約12~19億円。そのような巨額のお金のうち、多くを国や県や市などの市民の税金から拠出させておいて、主建築の設計をするのに数冊の専門資料を読みさえもしない、というのは、どんな神経をしている人々なのだろう。

推定約100%の水増し*1(計200%の建築費)を計上し、公共の人々から補助金を余分にがっぽりせしめた上で、お返しに100%の確率で感染症事故を保証します、と酒杯を掲げて、上機嫌に悪巧みを語っているようなものだ。

報道ステーションでは、北海道大学の教授が「(重篤な感染を引き起こす病原菌などに対応する)クリーンルームが5Fにあり、(1Fの動物飼育施設と)離れているので、運用が困難」とコメントしていた。ここでの「運用困難」とは、しかるべき動線が確保されていないので、使い物にならないという意味だ。インタビューイーを探して、「防疫の観点から見た動線がでたらめなので、高度研究施設としての体をなしていない」くらいのコメントを取ってきて、後追い報道すべきではないだろうか。解説者の「生物安全性が図面からはあまり見えてこない」というコメントも、腰が引けすぎていて、もはや不見識の域にある発言だ。せめて図書館で調べるくらいはして、「調査報道」すべきジャーナリストとしてのプライドを見せてほしいと思う。何と言っても、バイオハザード発生確率は100%。傘を持っていくよう解説すべきなのではないだろうか。

ここで書いたように、個人的に今治は好きな街だ。 

 最近の今治はいくつかの明るい話題で彩られていた。それは、数年前にサッカーの元日本代表監督の岡田監督がFC今治のオーナーに就任したこと。

同じ頃、脚本家の倉本聰が設立した富良野自然塾の「支店」、今治自然塾も開塾した。

しまなみアースランド | 公園緑地課 | 今治市

普段サッカーをやっていて、足の感覚は鋭敏なはずの子供たちが、裸足で怖々と森を歩いて、地球の息吹(≒地磁気)を感じている様子も微笑ましい。

今治自然塾 ~JFAアカデミー今治 ダイアリー~ | JFA|公益財団法人日本サッカー協会

最近の今治の活性化を陰で支えている貴重な人物の一人は、実はサイボウズの青野慶久ではないかと考えている。とにかく発想力と実行力が豊かで、これほどうまく競争優位確保と社内還元と社会貢献を同時に実現できるリーダーは、日本でも数少ないのではないだろうか。もちろんFC今治にも出資している。

実は彼とは出身大学がライバル同士。年齢も同級生にあたる。ああやって、競争力を維持しつつ、社内も社会も豊かにしながら、地元にもしっかり種を蒔いて芽吹かせている姿には、憧れを感じずにはいられない。

造船不況やタオル産業の衰退で、活気を失くしつつあった一時期の今治が、多くの人々のたゆまぬ労力や尽きせぬ願いによって再浮上してきたところを、「戦略特区」などという空々しい名を騙って、自分の支持者に不当還元すべく水増し補助金を地元から詐取しようとしている人々には、顔を洗って出直してもらえないだろうか、そう、声をかけたくなる。

ただ、個人的に、口を極めて罵倒する批判は好きではない。いいから、今すぐそこの上水道で顔を洗って、頭を冷やし、今回の計画は計画のまま水に流してもらえないだろうか。言う通り流してくれたら、すぐに吸湿性抜群の今治タオルを差し出すから。

 

 

今治出身で近年「地球を吹く」トランペッターに進化した近藤等則と世界的なDJとのコラボレーション)

*1:正確な水増し率が日刊ゲンダイの取材で明らかになったようだ。約59%。