銃弾のあとの黄金色の麦畑

昨晩、憧れの女性が、銃で胸を撃たれてしまった。

はっとなって身を起こした。夢だった。きっと、この記事で紹介した小林麻美の射殺シーンが記憶に残っていたせいだろう。夢の中の女性は別人のようにも見えたが、中学生のころ憧れていた小林麻美と同じような美しさと愛しさを感じてしまったのは、それが夢だったからなのだろうか。それとも、これを書いている今が夢うつつの状態だからなのだろうか。

ともあれ、とかく心理や無意識の世界は、複雑(complicated)で複合的(complex)なので、それが自分自身のものであってもよくわからない。「複雑な」を表す英単語が compl-まで同じなのに、そこからなぜ分かれて2つの単語を必要とするのかもわからない。

それくらい世界は複雑だ、とまでは言い切っても差し支えないだろう。

複雑と言えば、経済の世界もかなり複雑で、多少の読書や勉強ではまったく追いつかない気がして後ずさりしそうになるが、読まなければ何も始まらないので、今晩も斜め読みしようと思う。

というわけで、吉川元忠の衣鉢を継いで『新・マネー敗戦』を上梓した岩本沙弓を追いかけてみることにした。

この3冊の中では、2010年の『新・マネー敗戦』に、それまでの経済書ではあまり見られなかった斬新な視点が、より多く含まれているような気がする。このブログ上の記述とシンクロする部分も多い。

自分の経済系の記事を振り返ってみると、ざっと以下のように要点をまとめられそうだ。

①世界は金融戦争中≒「金融は戦争とは異なる手段をもってする戦争の継続にほかならない」

②プラザ合意は(日航機「墜落」事件が関連した)第二の敗戦

バブル崩壊は「逆真珠湾攻撃」による第三の敗戦

ノーベル経済学賞は非公式なものにすぎず、「ヌーベル中央銀行賞」と改名すべき

⑤(goldと兌換できない)不換紙幣を駆使した中央銀行網によるバブル創出がカジノ資本主義の悪根源

中央銀行を持たない国家は「ならず者国家」指定や侵略の対象となる(例:シリアなど)

⑦決済通貨を基軸通貨のドルから変更しようとすると「ならず者国家」指定や侵略の対象となる(例:イラク戦争

⑧goldとの兌換紙幣を作ろうとすると「ならず者国家」指定や侵略の対象となる(例:リビア

⑨しかし gold の価値を市場で不正操作しながらも、その真価を知るがゆえに蒐集や強奪に余念がない

⑩日銀の金融緩和には出口戦略がないので、預金封鎖ハイパーインフレなどのハードランディングがありそう 

新・マネー敗戦―ドル暴落後の日本 (文春新書)

新・マネー敗戦―ドル暴落後の日本 (文春新書)

 
最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由 世界恐慌への序章

最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由 世界恐慌への序章

 多少形が変わっていたり、論点の強調度は異なるが、岩本沙弓上記3冊と①②⑤⑦⑧⑨はほぼ同じ問題意識を共有できていたので、自分の書いてきたことが、それほど論点を踏み外していなかったように感じられて嬉しかった。

とりわけ『新・マネー敗戦』はとても勉強になった。岩本沙弓の分析が優れているのは、ミクロ的な刻々に変化する為替相場を追ってきた経歴とは反対に、戦前の世界恐慌はもちろん、19世紀からの現在までの広い歴史的実証的視座に立った分析がなされているところ。実地にアメリカの公文書調査に出向いて、そこでもたゆまず歴史的実証的調査を行ってきた「基礎教養」の確かさにも、強い信頼を感じることができる。

⑤に関連して、ニクソン・ショック以前であり、かつ、(アメリカの中央銀行にあたる)FRB設立以前の黄金の金本位制時代(1840~1929年)に、国際経済がどれほど安定していたかを記した部分には、何だ、結局、不換紙幣と中央銀行が問題だったのか、との明快な理解を与えてもらえる。

そして、論旨が進むうちに、その2つの悪しき根源に、さらに上位レベルの根源があることが明らかになる。

それは戦争だ。不換紙幣も中央銀行も、詰まるところ戦争のために作られたのだ。膨大な戦費を調達するためには、当事国は不換紙幣を乱発せねばならず、戦争や恐慌の「火事場」に紛れて、アメリカは金本位制のスイッチをオンにしたりオフにしたりしながら、戦争特需を謳歌して、世界中の gold の最大量を手に入れた。

その最大量の gold を背景に、基軸通貨としての圧倒的地位を手に入れ、ニクソン・ショック後の gold の裏打ちなき米ドルを、オイル決済通貨とすることで事実上裏打ちすることに成功したのである。

その一方、金本位制オフのこの半世紀の間にも、gold の蒐集と強奪を孜々営々と続けてきたのだから、その戦略的すぎる金銭的強欲さには眩暈がするほどだ。

2014年頃から、これらの経済書を離れたところで、いろいろと不吉な噂を耳にすることが多くなった。

近々、アメリカ(もしくはグローバル・エリートが)不換紙幣による世界的なバブルを火事場的崩壊へ持ち込み、天文学的とも言われるアメリカの莫大な借金を踏み倒そうと企んでいるとか、蒐集した gold を元に金本位制を復活させて、再び世界的君臨を図ろうと企んでいるとかいう噂だ。そのような噂にも、これらの sure な経済書に立脚した上でさえ、というか、立脚したからこそ、充分な信憑性が感じられるのである。

⑩の論点については、自分は岩本沙弓よりはるかに悲観的な展望を持っている。日銀による出口戦略なしの事実上の財政ファイナンスから、国を救いうる唯一の財政政策が妨害により頓挫してしまったからだ。 その妨害の経緯が凄まじかった。

政府貨幣特権を発動せよ。―救国の秘策の提言

政府貨幣特権を発動せよ。―救国の秘策の提言

 

 高橋(洋一)は経済危機が深刻化するのを見て「政府紙幣を発行して景気対策に使えばいい」という政策を唱えていた。09年1月末に安倍晋三元首相と菅義偉自民党選対副委員長に会って直接提案した。高橋案を聞いた安倍・菅両氏は前向きに応じた。特に菅は動きが速かった。

 菅は2月1日に出演したテレビ番組で「政府紙幣に非常に興味を持っている」とぶちあげると、議員連盟の結成に動き、10日には早くも初会合を開く。
(…)

 その矢先に起きたのが、14日の中川大臣の朦朧会見事件だったのだ。
 中川は安倍、菅、甘利昭行行革相の3人と共に麻生首相にもっとも近い一員である。 

 グループは4人の名前をとって「NASAの会」と呼ばれている。なかでも安倍と菅の二人が政府紙幣に傾けば、中川も同調するのは目に見えていた。
 財務省政府紙幣に反対だった。
 なぜなら、すでに浮上していた大型景気対策政府紙幣によって賄われると、赤字国債を追加発行する必要がなくなってしまうからだ。「国債を追加発行しないでいいなら、結構じゃないか」と思われるかも知れない。ところが、そうではないのだ。
ここは普通の感覚では理解しにくいところなので順を追って説明する。
 まず政府紙幣財務省のバランスシートの上では債務になるが、国債を発行するわけではないので、償還する必要もなく、財政赤字は増えない。

 それは財務省にとっては好ましくない。

 なぜなら増税を狙う口実が弱くなってしまうからだ。
(…)

 財務省は麻生に近い安倍と菅の動きを見て、危機感を募らせた。
私の手元には、財務省が作成した政府紙幣を巡る「通貨の発行について」と題したA4版15枚の資料がある。幹部たちはこの資料を手に、自民党は言うに及ばず新聞や金融機関関係者の間を走りまわって、政府紙幣反対のキャンペーンを繰り広げていた。
 そんな財務省が安倍、菅と並んで麻生にも近い中川が財務大臣のポストから外れてくれればありがたいと考えたとしてもおかしくない。 財務相政府紙幣発行をめぐって実務上の最高権限を握っていたからだ。 
(…)

 日銀もあわてていた。
 日銀は当初「政府紙幣などできっこない」と楽観していたが、麻生側近である菅が政府紙幣の検討を求める提言をまとめると、18日の金融政策決定会合で急遽、長期国債の買い入れ増額を決めた。

(…)
 これは金融緩和に腰が重い日銀としては、異例の対応だった。菅の議員連盟が提言でまっさきに掲げた「日銀の国債買い入れ増額」に応じることで、政府紙幣の具体化を阻もうという狙いがあったのは明らかである。 提言は日銀による国債の直接引き受けにまで言及している。

(…)

 日銀が政府紙幣に反対するのはなぜか。
 政府紙幣が発行されると、日銀は発行された政府紙幣そっくり吸収せざるを得ない。

 吸収しなければ、政府紙幣と日銀券のふたつが決済通貨として出回り、金融緩和と同じ効果が生じて市中金利が下がる。つまり、日銀が金利をコントロールできなくなる。

(…)

 政府紙幣の議論はその後、3月30日に有力な提唱者であった高橋の窃盗事件が明らかになったこともあって、あっという間に下火になった。 

 ポダム系の或る工作員睡眠薬を盛られたとの噂も根強いあの朦朧会見や、その後の括弧つきの「自殺」が、どれほど不自然だったかを今さら語っても始まるまい。高級時計の窃盗事件が、或る勢力にとってあまりにも時宜を得ていたことにも、もはや言及すまい。

政府紙幣を妨害するために、あるいは、ベトナム戦争からの撤退を阻止するために、グローバル・エリート+軍産複合体が凶弾を放った世界一有名な暗殺事件を、私たちはすでに知っている。虚構でも夢でもなく、現実に銃弾が放たれたのだ。

とっさにトランク・リッド上へ身を乗り出して、飛散した脳の内容物を集めようとする夫人の動転ぶりが痛ましい。

ケネディ大統領を暗殺した銃弾が、本当に一発だったのかが、永らく論争の的になってきた。複数の狙撃手たちが同時にケネディを射殺したと考えないと、あの銃弾は迷路を縫うように右往左往する「魔法の銃弾 Magic Bullet」になってしまうのでは?というのが、懐疑派の主張だ。その主張の様子は映画でも描かれている。

一方で、その反証動画もあるようだ。搭乗人物たちの空間上の位置関係を細かく精査すれば、銃弾に魔法はかかっていない、という主張らしい。

いずれにしろ、国民の幸福のために奉仕しようとした大統領が殺されてしまったことの方が、はるかに重要であるにちがいない。銃弾が迷路の中を右往左往しているのではなく、銃弾が志ある政治家の身体を突き抜けた後、私たちが依然として脱け出せない迷路の中にいるのだと言うべきだろう。

私をケインジアンだとラベリングしてくる勢力から、「では、きみなら没落しつつあるこの日本で、どんな経済政策を打つのかね?」と問われているような気がしたことが、少し前にあった。私はケインジアンではないし、歴史上弾けなかったバブルはない。八方塞がりで、破局は不可避だ。この悲観論が、自分の経済的な政策立案能力のなさのみに由来することを祈ろうと思う。

これを読む誰であれ、手持ちの資産のうち、少なくとも半分くらいは gold の現物に変えておくことをお勧めしたい。

今は、破局を生き延びて、この国の再生の物語を協働して紡いでいくために、連日連夜、私は本を読んだり文章を書いたりしているような気がしている。

 

 

 

(「ライ麦畑」の少年が恋をする年齢になったら、麦の品種こそ違うものの、このような gold のイメージにあふれた多幸感のある歌を歌いそうだ)。 

You'll remember me when the west wind moves
Upon the fields of barley
You'll forget the sun in his jealous sky
As we walk in fields of gold

大麦畑を西の風がそよぐとき
君は僕を思い出すだろう
二人で黄金色に輝く世界にいる間は
僕らに嫉妬する空とそれを支配する太陽のことなど
君は忘れてしまうだろう

 

So she took her love for to gaze awhile
Upon the fields of barley
In his arms she fell as her hair came down
Among the fields of gold

そこで彼女は大麦畑をちょっと眺めたくなって
恋人を連れていったんだ
髪をほどきながら彼女は彼の腕の中に身をゆだねた
黄金色の草原に囲まれて

 

Will you stay with me, will you be my love
Among the fields of barley
We'll forget the sun in his jealous sky
As we lie in fields of gold

一緒にいてくれるかい
恋人になってくれるかい
大麦畑に囲まれて
二人で黄金色に輝く世界にいる間は
僕らに嫉妬する空とそれを支配する太陽のことなど
忘れてしまおう

 

See the west wind move like a lover so
Upon the fields of barley
Feel her body rise when you kiss her mouth
Among the fields of gold

大麦畑の上を撫でる西の風を見てごらん
まるで恋人がそうしているかのようだね
君が彼女に口づけをするとき
彼女の身体が浮き上がるのを感じてね
黄金色の草原に囲まれて

 

I never made promises lightly
And there have been some that I've broken
But I swear in the days still left
We'll walk in fields of gold

僕は軽々しい約束など決してしなかった
なのに何度か約束を破ったことがあった
だけどまだ残された日々の中で僕は誓う
二人で黄金色に輝く世界を生きていくことを

 

Many years have passed since those summer days
Among the fields of barley
See the children run as the sun goes down
Among the fields of gold

大麦畑で過ごしたあの夏の日々から何年もたった
ごらん子供たちが走っているね
夕日が沈む黄金色の草原に囲まれて

 

You'll remember me when the west wind moves
Upon the fields of barley
You can tell the sun in his jealous sky
When we walked in fields of gold

大麦畑を西の風がそよぐとき
君は僕を思い出すだろう
嫉妬する空とそれを支配する太陽に言ってあげるといい
僕たちは黄金色に輝く世界を生きたのだと

 (訳詞の引用元はコチラ)