隣組からの国債的エア・メール

世界一短い曲のことを考えていた。歌詞はこの一行、演奏時間は1.36秒。

You suffer, but why?

今晩の自分がやけに共感してしまう歌詞だ。デスメタル系のアーティストの曲らしい。ここに書いた記事の名前と関連を感じてしまう。

1.316秒は極端だとしても、テレビ番組で数秒のひとことコメントを求められている現場を目撃することはよくある。数年間のことだったろうか。以下のようなわずか数秒のやりとりにいたく感動してしまった。

「TPP推進派にひとことお願いします」

「(典型的なデス声で)地獄へ落ちろ!

 この自分の記憶史上最高の三秒コメントの声の主は、TPP反対を語らせれば日本一の中野剛志。三橋貴明との対談も、アクセルべた踏みの威勢の良さで痛快だった。 

売国奴に告ぐ! いま日本に迫る危機の正体

売国奴に告ぐ! いま日本に迫る危機の正体

 

 しかし、痛快と笑っていられるほど楽天的でいられないのは、自分がリアリストを自称する割には悲観論に染まっているせいなのか、リアル世界が悲観論しか妥当しないほど悲惨なせいのか、その辺りはよくわからない。

 上記の記事の中で、自分が経済系エントリで主張してきた内容を、便宜的に10個に整理した。そのうちのかなりの部分で、幸運にも岩本沙弓の主張と重なったのだが、一番大きく異なるのが、この国にとって一番喫緊の課題であるこの項目。

⑩日銀の金融緩和には出口戦略がないので、預金封鎖ハイパーインフレなどのハードランディングがありそう

日本経済崩壊論と日本経済安泰論の対立において、自分は前者寄りに立っているが、三橋貴明岩本沙弓らの後者に立つ論客もかなり強力で引き付けられてしまう。

とはいえ I don't put on the dog on this matter.  この論争で負けても loser 慣れしている自分は失うものはないし、日本の経済が安泰なら、それは自分の利益にもかなっているので万々歳だ。問題を自分で自分のために整理するつもりで、今夜は朝まで考えてみたい。 

真説 日本経済

真説 日本経済

 

 三橋貴明によれば、日本経済崩壊論を語りたがるのは、増税したい財務官僚やその御用学者か、破綻を煽って金融商品を売りつけたい外資系証券マンか、日本の破滅を心の底から願っている反日左翼のいずれからしい。(もちろん自分はそのいずれでもない)。

三橋貴明の主張は明快で歯切れがよく、人気の高い論客なのもよくわかる。「日本経済崩壊論者が語るような国家破綻はありえない」と説く理由も明快だ。

①(日本は世界一の債権国だから)対外債務のデフォルトはありえない

②(供給能力壊滅時にしか起こらないので)ハイパーインフレは起こらない

③(世界恐慌時のアメリカで4年でGDPが半分になったようなデフレ拡大はあり得ないので)恐慌は起こらない

 管見の限りでは、三橋貴明の日本経済論の新味は「デフレ・ギャップ」の正確な定義を衆目に周知したことにあるだろう。デフレギャップとは「潜在GDP>名目GDP」の差のこと。逆の「潜在GDP<名目GDP」がインフレギャップ。

実は、自分がこれまで推してきた政府紙幣の推進論者の丹羽春喜に最も近いのが、三橋貴明の思想的立場なのだ。 

謀略の思想「反ケインズ」主義―誰が日本経済をダメにしたのか

謀略の思想「反ケインズ」主義―誰が日本経済をダメにしたのか

 

 省益拡大を狙って増税路線をひた走る財務系官僚たちが、90年代に入ってデフレ・ギャップ(当時30~40%)の公表を取りやめ、代わりに名目GDP偏差値のような「無意味な」指標(当時2%)に摩り替えて発表し始めたこと(これにはシカゴ学派の「ヌーベル中央銀行賞」受賞者ルーカスの影響があるらしい)に、丹羽春喜は激怒している。本当にデフレギャップが2%なら、日本は楽園のような好景気のはずだが、経済企画庁はなぜそんなありもしないお花畑の「官製欺瞞情報」を発表するのか。「精神障害者」という罵倒句まで使って、そのような口吻で怒り狂っているのだ。

デフレ・ギャップ隠しが誤った構造改革路線を招来した」と丹羽春喜が批判する同じ場所で、三橋貴明はさらにわかりやすく「デフレギャップがたっぷりあるのに、何でインフレ対策の構造改革をやっているの?」と切り捨てる。

三橋貴明は前掲書の最終部分で「デフレギャップに対して、真逆のインフレ対策(緊縮財政)を手当てしたせいで、需要が下がり、次いで供給能力が下がり、といったデフレスパイラルのせいで、日本の供給能力が半減したときに、自然災害が起こったらオシマイだ」という最悪のシナリオを披露している。実は丹羽春喜の著作にも近い記述がある。

この二人の「デフレ・ギャップ活用型日本経済安泰論」に対して、「預金封鎖必至の日本経済崩壊論」の論客が小黒一正だ。 

預金封鎖に備えよ マイナス金利の先にある危機

預金封鎖に備えよ マイナス金利の先にある危機

 

出版年月日が新しく、日銀のマイナス金利政策への洞察が含まれているのがありがたい。 

小黒一正が日本経済の崩壊の根拠とするのは、「無料昼食(フリー・ランチ)はない」という経済学の常識や、「国債自国中銀引き受けによる無税国家はありえない」とする元FRB議長のバーナンキの発言だったりするので、確固たる経済理論的な裏打ちがあるわけではない。

中央銀行の独立性を奪おうとする法整備を行って、通貨や国債の暴落を招いた「ハンガリーの悲劇」の実例も紹介されているが、それは1%グローバリストの報復にちがいないだろうから、純粋な「範例」として参考にすることはできない。

実は、小黒一正自身が「中央銀行がどの程度自国国債を買うと、どの程度の影響が出るかは予測できない」旨を明かしている。

デフレ・ギャップの範囲内なら国債増発も財政ファイナンスもOKの三橋貴明、莫大な公共投資で国を蘇生させたいから政府紙幣を財源としたい丹羽春喜、経済学の常識的な財政規律論から国家の財政破綻必至を説く小黒一正。

実は、三者の立場の優劣を決するための確定情報はない。というより、世界的な視野のもとにある不確定情報が多すぎるというのが現状だろう。経済状況の推移は、国内限定的視点や経済理論を離れた、さらに「グローバルな現場」で起こっていると考えるべきなのではないだろうか。

たとえば、識者の多くが「買いオペ」は事実上の「財政ファイナンス」だとして批判するのに呼応して、小黒一正がそれを事実上の「ヘリコプター・マネー」(クルーグマン)に近いと述べるとき、もっとグローバルに経済状況を見たいと自分は呟いてしまう。サッカーのテレビ観戦でいうと、自国代表チームのハーフ・コートしか映っていないようなもどかしさを感じてしまうのだ。

同じ預金封鎖関連本を執筆した石角完爾は、貨幣乗数アベノミクスによって7~8からあべこべに3に減少したことに注目して、アベノミクスが国内の市中に潤沢に資金供給するどころか、むしろ民間にマネーが出回らなくなったと述べている。「サギノミクス」とは、言い得て妙だというわけだ。 

預金封鎖

預金封鎖

 

 では量的緩和の大量のマネーはどこへ行ったのか? サッカーの敵国コートへ、つまり、さらに「グローバルな現場」へ、右から左に流れていったのである。

国際ジャーナリストの田中宇は、「リーマン後の2010年以来、為替相場円高ドル安になるほど、10年もの米国債の相場が上がる(金利が下がる)傾向で、両者の間に強い相関性が見られる」ことを根拠に、日銀が「QEで増刷した資金を使って、米国債の相場を引き上げ、金地金の国際相場を引き下げている」と分析している。

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実は、上に挙げた三者の中で、現在の自分の考えが最も近いのは小黒一正だ。しかし、彼が近々不可避的にやってくるだろう「国債金利の急上昇」や「日銀のバランスシートの肥大」を経済破局の原因とみている点には賛成できるものの、その引き金となるのは「敵ハーフコート」からの何らかの攻撃だろう、という印象を、自分はどうしても拭い去ることができない。

会計学のエキスパートである神奈川大学の田中弘教授は、「英米の常識だから」と日本が導入させられた時価会計とそれに関連するBIS規制、連結会計、減損会計などは、どれを取っても日本企業の決算数値が悪くなる基準であると指摘しています。  

最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由 世界恐慌への序章

最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由 世界恐慌への序章

 

 上記の経済本の出版後、予想通り、BIS規制によりそれまでゼロリスクとされてきた自国国債をリスク資産とするよう評価法の風向きが変えられた。もちろんそれは日本の銀行が不利となる方向だった。

そのような国際的な会計基準の「攻撃的」改定だけでなく、本来独立しているはずの格付け機関が1%グローバリストたちの思惑に同調して、日本国国債の格付大幅に引き下げたら、大惨事が巻き起こりかねない。格付け機関に政治的偏向が色濃くあるのは、よく知られた話だ。

 時事的に言えば、収賄容疑による東京オリンピックの中止や、何らかの人工性を伴った自然災害も、日本の経済破局の引き金になる可能性がある。

待って、って? また、ありもしない陰謀論的妄想に子供みたいに夢中になっているって? OK。では、敵ハーフ・コートからの攻撃に怯えるのはやめて、自国ハーフ・コートに目を転じてみようか。注目プレーヤーは国債と日銀だ。

日銀が買い占めるせいで、民間のプレーヤーによる国債の取引のほとんどが停止していて、田中宇によれば、量的緩和中毒で「廃人」になったも同然なのだそうだ。「日本では、民間金融市場がほとんど存在していない」というのが実情らしい。

では、日銀は?

Congratulations! アメリカやEUの中央銀行を抜いて、世界一不健全で危険な中央銀行の座を勝ち取ってしまった。向かうところ敵なし、というか、敵しかなしというところか。破綻後に国民を待ちかまえているだろう恐るべき苦難の道のりよ。

「グローバルな現場」の実態が、少しは伝わっただろうか。

預金封鎖、通貨切り替え、重税の財産税。

これらは、敗戦直後に日本で実際に行われた財政インフレによる国家政策だった。事実、国民は国に身ぐるみ剥がれたのだ。

それでも「ギリシアと違って日本は安全だ」と言い募る人々に、「確かにギリシアとは違うが、全然安全ではない」といくら言って聞かせても、聞く耳を持たないことだろう。「敗戦直前の日本からエア・メールが届いていましたよ」とだけ伝えて、以下の文言を心を落ち着けて読んでもらいたいと思う。

第6章 国債の将来

(1)国債がこんなに激増して、財政が破綻する心配はないか。 国債が沢山殖えても全部国民が消化する限り、すこしも心配は無いのです。 国債は国家の借金、つまり国民全体の借金ですが、同時に国民が共の貸手でありますから、国が利子を支払ってもその金が国の外に出て行く訳でなく国内に広く国民の懐に入つて行くのです。

 一時「国債が激増すると国が潰れる」といふ風に言はれたこともありましたが、当時は我国の産業が十分の発達を遂げてゐなかつた為、多額に国債を発行するやうなときは、必ず大量の外国製品の輸入を伴ひ、国際収支の悪化や為替相場、通貨への悪影響の為我国経済の根底がぐらつく心配があつたのです。

 然し現在は全く事情が違ひ、我国の産業が著しく発達して居るば管理や各種の統制を行って居り叉必要なお金も国内で調達することが出来るのでして、 従って相当多額の国債を発行しても、経済の基礎がゆらぐやうな心配は全然無いのであります。

大政翼賛会隣組読本 戦費と国債』1941 旧漢字は新漢字に変換)

預金封鎖、通貨切り替え、重税の財産税。

まずは心の準備から、次に大恐慌への備え。これを読んだ人には、幸運にも、まだわずかながら時間が残されている。

 

 

なぜこんな記事を書き出したのだったろう。そうだった。「世界で一番短い曲」で思い出した。「I'm not superstitious」と冒頭で歌い出す曲を聴いていたつもりが、この半年間さまざまな神秘体験に遭遇して、すっかり迷信深くなっている自分に気付いたのだった。

たぶん気のせい。そういうことをしないタイプなのに、数年前に携帯電話の或る写真を壁紙にしていたら、声が聞こえたことがあった。「あ、喋った!」と思わず口に出してしまった。実はこの手のことはこれまで自分によく起こってきた。こういう伏線をこれまで何度も自分の周囲へ張ってきたんだ、神様は。

そのときの三文字が「世界で一番短い…

…こういう場所では、これ以上はやめておこうか。本当に起きたことではあるけれど。

いつのまにか、聴いていた曲は同じアーティストの違う曲に変わっていたみたいだ。ボサノバ・バージョンがいい。歌詞は未確認だが、吉事であれ凶事であれ、最終的な何かの到来をカウントダウンしている曲なのだろう。