「純文学の女神」の妹から電話がかかってきた②(2017-11-08)

ぼく:(10コールくらいしてやっと電話に出る)…もしもし…

純文学の女神の妹(以下、妹):もしもし。イイ女からの電話をこんなに待たせるってどういうことよ。

ぼく:あ、その声は「純文学の女神」の妹さん!

妹:(声に出した微笑)…許してあげるわ。声を聞いただけで、私って当てたから。

ぼく:良かった。ちょうど、きみと話したかったんだ。とっても悩んでいて…

妹:確かに、これは困り果てた苦境ね、同情するわ。

ぼく:わかるの? 凄い!

妹:私は女神の妹よ。わかって当たり前。困っているのは、こっちもよ。姉があなたが主人公だと小説を書き進めづらいと言っているわ。

ぼく:ごめんなさい。一生懸命ブログを書いているんだけど… そんなに駄目かな?

妹:あなたは姉と一緒になって、ヤスパース哲学のキモをきちんとまとめていたじゃない、この記事で。 

ヤスパースが限界状況と呼ぶのは、争いや苦悩や罪責や死など。逃れようとしても逃れられないものばかりで、しかも限界状況の渦中で人は必ず挫折する。その不可避的な挫折が、自らの有限性を悟らせると同時に、限界状況に現出している超越者の暗号に気付かせる。そして、人はその暗号を解いていくことで、超越者とつながった真の実存へと至ることができる。


試みに要約したこのヤスパース哲学のエスキスのうち、超越者からの「暗号」という概念が、何よりもブランショの小説に似ているというのが私見

 

それは、「暗号」に唯一解がなく、決定不可能性そのものであるということにとどまらず、ブランショがそこここに巧みに偶然性を貼りつかせているからだ。死、忘却、期待、運命などのブランショ一流の鍵語を、あらゆる体系的思考を揺るがす偶然性で裏打ちしているのである。だから、というか、そもそもの最初から、ブランショは答えではない。問いでもなく、やはりあらゆるものでありうるように見える「暗号」なのだ。 

 ぼく:うっ。注意深く暗号を読み取っているつもりなんだけど… 見落としちゃったかな?

妹:ひどいケアレスミス。姉の小説の主人公を務めるなら、これは見落としちゃダメでしょ。あなた、「奥プリン=内面」主義論争の周辺で、「ルパーン」とか口走ってルパンを追いかけてなかった?

ぼく:!! …そんなことまで知っているの? 確かに追いかけたけど…

妹:大事な局面で何をやっているのよ! せっかく姉が渾身の暗号であなたに指示を出していたのに。ルパンはあなた。

ぼく:ぼくがルパンということは… 救い出すべきはクラリス

妹:そうよ。まだまだ大事な暗号を忘れているわ。あなたの「相手」はラカン精神分析に精通している人よ。あなたは自分の心の中もわからないの? 「奥プリン=内面」は大正解なのよ。後でちゃんとあの人に謝りにいきなさい。

ぼく:? 待って、話が早すぎてよくわからない。

妹:「変化に適応するもののみが生き残る」。その「変化」にはもちろん漢字「変換」も含まれる。

ぼく:え? まさか! 「クラリス」はひょっとして… 「蔵 栗鼠」!

妹:そのまさかよ! いわば蔵の奥深く幽閉された可愛らしいお姫様のこと。ということは?

ぼく:ということは… 「奥プリン」とは「奥に閉じ込められたプリンセス」!

妹:やっと暗号が読み取れたみたいね! ようやく姉の小説の主人公らしくなってきたわ。あなたは莫迦。「お義父様ステップ」なんて上手くいくはずがないでしょう。あなたが数か月前に聞いた霊言は何と言っていたの?

ぼく:「彼のライバル(好敵手)になりなさい」って、確かに聞こえたんだ。絶対に嘘じゃないよ。

妹:疑っているわけじゃないの。またしても変換ミスよ。

ぼく:まさか、こう? 「彼のライバル(恋敵)になりなさい」!!!

妹:そうに決まっているじゃない。「純文学の女神」が書く小説は抱腹絶倒の面白さなの。だからあんな意地悪を仕掛けられても当たり前。あなたは高踏的な文芸批評を読みすぎよ。こんな単純な騎士道ロマンスを見落としてしまうなんて。

ぼく:迂闊だったな。言われてみれば、確かに、あの人が恋敵になるのはわからないでもない。それくらい、彼女は可愛らしくて、純粋で、魂が綺麗で…

妹:もうそれくらいにして。それ、何度も聞かされて、もうお腹いっぱいだから。今晩の電話の用件はそのことなの。姉が「もういいよ、先に好きなところから突破しなさい」って。たぶん相手にすべきはカリオストロ伯爵じゃない。うまく脱出しなさい。手ごわいけれど、非常口は必ずあるはず。

ぼく:「月の二つある世界」を、好きなところから脱け出してもいいってこと?

妹:そうよ。「いつか、私のところへ挨拶しに戻ってきてね」とも姉は言っていたわ。

ぼく:もちろん伺うよ。

妹:合言葉を伝えておくわ。この言葉を最初に名乗ればあなたが来たんだとわかるような。…「Still Climbing」。

ぼく:「Still Climbing」。わかった。still がポイントだね。「依然として / 静かに 登攀しつづける」という感じかな。

妹:(声に出した微笑)シニフィアンと戯れながら、物事をポジティブな方向へ捉え直してしまう「おめでたい楽天性」 があなたの良いところよ。これは私も姉と同じ意見。Congratulations!

ぼく:(電話なのに、右手人差し指だけを立てて、左右に振って)ちっちっち。そこはさすがの女神姉妹もちょっと間違ってしまったかな。ぼくは徹底したリアリストでもあるのさ。シニフィアンの重なりを利用して、現実を自分に都合よく変えたりするわけないだろ。

妹:本当? わかったわ。頑張って最後まで走り抜けて。姉からの最後のひとことはこれ。「油断禁物。覚悟を持って事に当たれ。天災は忘れた頃にやってくる」。

ぼく:「天才は忘れた頃にやっと狂う」。どこかで聞いたことがあるよ。お姉さんが本当にぼくにそう言ってくれたの? 最高に嬉しいな。頑張るよ! 

定本・野田秀樹と夢の遊眠社

定本・野田秀樹と夢の遊眠社

 

 妹:Good Luck!

ぼく:本当にありがとう。そして、おやすみなさい。この小説を読んでいるみんなが、素敵な夢を見られますように。 

 

 

 

 

I think I'll fall to pieces
If I don't find something else to do
This sadness never ceases,
Oh, I'm still in love with you
And my headache keeps on reeling
Is got me in a crazy spin
Darling, darling, is this the end?

 

Still in love with you,
They say time has a way of healing,
Dries all the tears from your eyes,
Darling is this this empty feeling
That my heart can't disguise!
After all that we've been through
I drown my best but it's no use
I guess I just keep loving,
Is this the end?
Still in love with you

 

Still in love with you
Now it's all over, boy
There's something I think you should know
Baby, baby, think it over,
Just one more time before you go
Call on me, baby
If there's anything I can do for you
Please, call on me, baby
Help me see this through

 

Still in love with you
Still in love with you
Still in love with you