迷走しつつ、道はドイッチ?

 

銀行はこれからどうなるのか

銀行はこれからどうなるのか

 

知り合いの銀行員に、松山出身のビジョネリーの『銀行はこれからどうなるのか』をお薦めしながら、Amazon go の話をしていたら「その話はぼくも気になっていたところです。ぜひ読みたいと思います」と感謝されてしまった。嬉しい気持ちになって彼と別れる間際、しかし、こうも訊かれたのだ。

ひとつ訊いていいですか? あのー… あなたは何になりたいんですか?

思いがけない話の展開にたじろいでしまうのは、今度はこっちの番だった。「早くアフロ犬になって23区をお散歩したいんです」と正直にはどうしても言えなくて、「迷走 / 瞑想」しているんですとだけ言って、片目を瞑って見せた。本当に瞑想するなら、両目を瞑らなくてはならない。つまり、半分は本当に迷走しているということだ。

「ピザですわ、のひとことも言わせられないのか… スーキもできないのか… ダンモのズージャの伴奏でよ…」という意味不明な声もどこかから聞こえてくるので、スキでもないことでもどんどん書いて、ダンボの耳に似た至難問の耳をズージャな感じで羽ばたかせ、今晩はさらに小洒落て駄洒落ていく鹿ないと、たったいま鹿られた鹿は自分を鹿ったところだ。

結局、同じズージャを対象化したクラブ・ジャズでありながら、「Chasin' the Jazz Gone By」は自分の心を温めてくれるのに、

昔好きだった「Mad Blunted Jazz」は、どうして自分のハートを冷たい水のようにすべり流れていってしまうのか。

そんな問いに、今日発売されたばかりの新書が即答を与えてくれるのだから、本屋通いはやめられない。「show time にはあなたを DJ させる何かがある」とはどこの書店のキャッチ・コピーだっただろうか。

ただし、図書館へ帰してしまった『Google vs トヨタ』を買ってしまおうと思って、本屋に問い合わせると品切れだったのはいただけない。今晩は、人体以外では「ラスト・リゾート」となるだろう「都市計画を巻き込んだ自動運転車」の分野で、Amazon が有力対抗勢力になることも充分にありうるという話。発売当日に新書を買ったのは初めて。(奥付は2017/12/1になっている)。これも、興奮させてくれる読書体験だった。 

巨人アマゾンの話の前に、近刊の本を確認できたので、その「答え合わせ」から。 野口悠紀雄『異次元緩和の終焉』の重要部分をいま読んだ。これは一緒になって考えたい論点が多いので、またいつか。スパコン「ポスト京」以降の生産性増大がどうなっていくのか、この人も当然のこと、興味深い未来予測を早速リリースしていた。 

生産性向上だけを考えれば日本経済は大復活する シンギュラリティの時代へ
 

読みどころは第7章。シンギュラリティ以降の社会が、どのように変化するかの未来予測だ。自分の言葉で大急ぎで要約していくことにする。

  1. 第五次産業革命以降は、労働が資本に吸収されてしまう。(≒AIによって労働者が職を奪われる技術的失業が発生する)
  2. 技術的失業が広がると大衆が物を消費できなくなるのでBI(ベーシック・インカム)を支給せざるを得なくなる。(ここまでは井上智洋の主張とほぼ同じ)。
  3. スパコンの開発者齊藤元章のいう「不労」の世界は理想郷に見えるが、人々が生き甲斐をもって生きて行けるかよくわからない。
  4. 第五次産業革命後は、(労働者を必要としない)資本家の政治力が極限にまで高まり、自由・平等・友愛の民主主義は消失し、99%の人民は「消費奴隷」として生きるしかなくなる。
  5. ただし、さらにさらに技術革新が進み、フリーエネルギーが全人類に行き渡ると、お金という存在自体が消え、資本家の蓄財動機も同時に消えてしまう可能性がある。
  6. 物質文明の果実が行き渡ると「心の豊かさ」が主要なテーマとなり、宗教ブームになるかもしれない。(お金目的ではないアソーシエーショニズムの可能性)。 

この周辺について、自分もいくつかの記事に書いた。

 資産がフライトするように、特定の国家への帰属を必要としないロボットや工場もフライトしやすい。パナマ文書パラダイス文書の名を挙げなくても、巨大企業が日本に残って、やすやすと巨額の納税をしてくれることは考えにくいのではないだろうか。よしんば日本に所在地を置いたとしても、資本家は政治家を買収して民主主義を「閉店」させるだろう。労働者たちはどうやって抵抗すればいい? ストライキ? いや、「技術失業」により、すでにそのときには労働者階級は消失しているだろう。

生活保護とさほど変わらないBI制度が確立したとしても、新たな圧倒的多数の奴隷階級が誕生し、奴隷階級に生まれた子供が決して一握りの支配階級へは到達できない「逆T字型」階層社会が出現していることだろう。 

二つ目の補助線は、すでに社会が「政治ー倫理的転回」をゆっくりと回り始めているということだ。「ポスト京」の精鋭開発者であるシンギュラリタン齊藤元章は、シンギュラリティ(技術的特異点)よりも、先に社会的特異点が来るとした上で、それはもう到来しつつあるのではないかと推測する。

20代後半世代の消費行動と社会的価値観が大きく変化しているというのだ。慶応大学SFC出身の20代後半の若者たちの中に、NPOやソーシャルビジネスに身を投じている人間の数が圧倒的に多いというのである。物質主義的な富の最大化より、社会的倫理的効用の最大化に貢献することに、生き甲斐を見出す若者の割合が増えている実感があるらしい。

今後の爆発的な技術革新がフリーエネルギーを始め、人類に「不労」や「不老」のような思いがけない福音をもたらすことがほぼ確実になれば、アフリカなどの発展途上国へ出かけて、社会貢献活動に従事する日本の若者がますます増えるのではないだろうか。世界に偏在している貧困こそが、とりわけ文系の若者にとって、人生を懸ける「最後のフロンティア」になる可能性が高いように思われる。 

1.2.3.4.5.6.のすべてが自分の考えと同じだ!と「どや雑魚」顔をすると、どういう脈絡からか友人たちが苦しめられるという噂なので、大急ぎで言い直しておきたい。偉大なるエコノミストにこれまでパブリック・ドメインにご恵投いただいた数々の書物で学んでこられた幸運が、さらなる幸運を呼んで、あたかも偉大なるエコノミストと同じ物の見方ができるかのごとき法悦に浸っております、敬具、というように。といっても、自分が三橋貴明を偉大なエコノミストと考えているところに誇張はない。

 さて、ズージャに話を戻そう。戻そうとして、また脱線してしまうと、自分のそもそもの不幸の始まりは、まさか「漱石=猫」主義者が世にいるとは思わず、「漱石が猫であると証明した論文はない」という学術的立場を取っていたことにある。それ以降、自分の常識ベースの頭が羞かしくなって、『吾輩は猫である』と言っているなら、猫の可能性もあるのではないかと懐疑して、密かに猫の研究に精を出してきた。どこかの茶色い犬に憑依してニャンと鳴くことを夢見たりもして、この本を本当に買ったのだ。 

猫語の教科書 (ちくま文庫)

猫語の教科書 (ちくま文庫)

 

 だから、5年後に到来する2022年に対しても、シンギュラリティというより、ニャンオーニャンニャンな猫的特異点(ニャンギュラリティ)を感じずにはいられない。したがって、わずか5年後の驚異的なテクノロジーの進化後の近未来図を描いた田中道昭の2022年近未来図に、猫が一匹も出ていないのはおかしいニャン、といま呟いたのはもちろん野暮な冗談でございます。許してニャン。と言い終えた後、ふともう一度2022年という年号に目をやれば、そこで重要な記号がニャンを意味する「2」ではなく、円形の「0」、つまりはマルクスですら目を丸くする未来だということが、誰の目にも見て取れるにちがいない。

 田中道昭の思い描くわずか5年後の近未来図を、自分の言葉で再現していくことにする。

  1.  Amazon go は「リアル店舗×EC拠点×宅配拠点×シェアオフィス×オープンカフェ」の Amazon365 へと進化している。
  2. ベーシックカジュアルな服も揃っていて、有名レストランの出前を取ってイートインもできる。
  3. Aさんがかけている「アマゾン眼鏡」は音声認識可能。話しかけると音楽もかけてくれる。
  4. 音楽はビッグデータからAさんの好みに合わせた合成音楽。いつ眼鏡に頼んでも、好みの曲をかけてくれる。
  5. 眼鏡のディスプレイにはDaily Me(=Aさん好みの新聞・雑誌・ゲーム・広告)が表示される。
  6. Aさんはフリーランサー。10分単位にまで細分化された仕事もクラウド経由で受注している。
  7. 人と人がつながり、仲間と仲間がつながり… というように「つながり」からしか創造できないような商品が続々と登場。そういう仕事こそが AI ではなく人間が最後にやる仕事だとの共通認識が社会にある。
  8. Amazon365 ではすべての商品の原産地情報やレビューを確認できるだけでなく、AI によって、サプライチェーンバリューチェーン全体が AI 化されている。在庫管理、商品補充、販売計画、スタッフ管理、顧客管理などのすべてを AI が行っている。
  9. Amazon は独自宅配業者による配達網と、全国3000箇所の宅配ボックスを完備。経済特区では、ドローン配達も始まっている。

 というわけで、「Mad Blunted Jazz」<「Chasin' the Jazz Gone By」だと自分が感じた理由は、4.をヒントにすればわかる。前者の DJ によるつなぎは AI に代替されやすいところに弱みがあるような気がするのだ。逆に生楽器による演奏は、ミュージシャン同士、あるいは聴衆も含めたその演奏限りのグルーブが生じやすいので、7.をヒントにして考えると、生き残る可能性が高い。 

 上記の本も最新鋭の知見が詰まっていたが、『アマゾンが描く2022年の世界』には、かなり頭をガツンとやられてしまった。

ジェフ・ベゾスのことは、これまでさほど調べていなかった。上の記事で自分流に整理し直したアメリカの経営戦略論史では、「イノベー神」ことクリステンセンに近いらしい。両者には相互に影響性があって、クリステンセンの近作では、このように言及されているのだという。

アマゾンは創業当初から、顧客のジョブを解決するための3つのポイント――豊富な品ぞろえ、低価格、迅速な配送――につねに意識を集中し、それらを実現できるようにプロセスを整備してきた。プロセスには、この3つのポイントをどこまで達成できたかを分単位で測定し監視する機能も組み込まれている。最終目標は顧客のジョブを片付けることであり、すべてはここから逆算して設計されている。

(強調は引用者による) 

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

  • 作者: クレイトン M クリステンセン,タディホール,カレンディロン,デイビッド S ダンカン,依田光江
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  • 発売日: 2017/08/01
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下の記事で、経営戦略論史を振り返ったとき、野中郁次郎やクリステンセンが好きな自分は、「イノベーション」ではなくむしろ「スピード重視」が、経営戦略のアクチュアリティだと考えていた。

実は、イノベー神を崇拝していた過去のある自分は、ミンツバーグ以降の主役は「イノベーション」ではなく「スピード」だと考えている。イノベーション自体は戦前のシュンペンタ―の時代からある既成概念だ。ICTや人工知能などの発達によって、イノベーションの頻度と速度が加速度的に(カーツワイル風にいえば指数関数的に)伸びてきていること「だけ」がほとんど唯一の破壊的変化なのではないかと考えることもある。拙文の引用部分、クリステンセンもラングロアもチェスブロウも、会社組織がどうやってイノベーションを加速させるかだけを主眼に置いていると言っても過言ではないだろう。

しかし「分単位」とは! 自分のような凡人が少々頭をひねっても、当たり前のことを考えているのに過ぎないのだと痛感した。

しかも「超高速PDCA回転」と言われるベゾスの戦略は、その「超高速ぶり」だけが凄いわけではない。ペゾスは「超短期×超長期」でビジネスの進化を考えているのだと、田中道昭は言う。

実際2017年5月、ベゾスは2000年設立のブルー・オリジンという系列会社で「2018年には有料による宇宙飛行を行う」と宣言している。子供の頃に宇宙へ行きたいと夢見ていた少年は、超高速PDCAを回転させて2000年からわずか20年足らずで、その超長期的に思えた夢を手繰り寄せたのである。

そのような派手な一面ではなく、例えば AI の雄である Google との比較で Amazon の優位を感じさせるのは、私たちの日常生活では見えにくい地味な部分にある。それは、蓄積されつづける膨大なビッグデータと、クラウド関連事業の大躍進だ。

前者は、ビッグデータに基づいてレコメンドされた経験を誰もが持っているだろうから詳述は不要だろう。重要なのは、検索エンジン出身の Google よりも、エブリシング物販出身のAmazon の方が、顧客の生活との接合面が広いことだ。その接合面が広ければ広いほど、ビッグデータの蓄積や活用で優位に立ち、商機を拡大することができる。

そのような拡大可能性にとどまらず、すでにマウンティングポジションを取っているのが、後者のクラウド関連事業のAWSだ。まだ充分に AI やビッグデータの相乗効果が上がり始める以前から、AWS が絶好調なのは、ベゾスの信念でもある「低利益高拡大主義」、つまりは利益を低く抑えることによって市場を拡大していく戦略に負うところが大きいらしい。AWSのストレージなどの利用料金は一貫して低料金であり、しかも60回以上値下げし、しかも Amazon 全部門の中で最大の利益を確保しているのだという。

日本は、このような「狂気の経営者」ベゾスと渡り合っていかねばならなくなるのだが、最初の前哨戦がユニクロとの競合になりそうだという田中道昭の推測も、的中しているように感じられる。なぜなら、その競合的応酬がもう始まっていることが、すでに報じられているからだ。 

 現時点での日本国内における Amazon の弱みを挙げるとするなら、日本の物流業界内の人手不足に起因する「宅配危機」の克服の目途が立っていないことと、もともとCSRを軽視する社風ゆえ「新上陸」時の摩擦が起きやすいこと、くらいだろうか。次の展開のリトマス紙は、今月から発売された Amazon Echo(AI 内臓スピーカー) が、どれくらい日本人に受け入れられるかになりそうだ。

しかし、自分の目には、Googleトヨタより、はるかに Amazon の方が巨人に見える。というのは、「低利益高拡大主義」、経営理論的に言い直せば、コストリーダーシップ戦略と差別化戦略の循環によるプラットホーム奪取の戦略は最強であり、しかもプラットホームの奪取に成功すれば、利益率を自由に拡大できるので、成長グラフを一気に急激な右肩上がりにできるからだ。いわば、Amazon の成長曲線にも指数関数的な特異点があるのだ。Amazon 一驚との未来予測を覆すに足る材料は、今のところないと言わざるを得ない。

けれど、日本には、上の記事で書いたような最先端の科学的相関の宝があるので、希望を捨てる必要はいささかもない。 

IBMの量子ゲート方式と D-Wave の量子アニーリングに量子ニューラル・ネットワークを加え、量子コンピューティングはこれからアプリケーション開発が、どんどん進むものと思われます。次世代スパコン人工知能エンジン、量子コンピューティングのこれら3つを組み合わせると、最強の科学技術プラットホームが完成することになります。 

人工知能は資本主義を終焉させるか 経済的特異点と社会的特異点 (PHP新書)

人工知能は資本主義を終焉させるか 経済的特異点と社会的特異点 (PHP新書)

 

 ただ、今晩は少し別の角度から、田中道昭が日本に光を当てている部分を引用しておきたい。それは、冒頭でこう書いた部分と重なっている。

6. 物質文明の果実が行き渡ると「心の豊かさ」が主要なテーマとなり、宗教ブームになるかもしれない。(お金目的ではないアソーシエーショニズムの可能性)。  

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則

 

 上記の本で、ケヴィン・ケリーはこう語っている。

 これからの30年を考えると、最大の富の源泉――そして最も面白い文化的イノベーション――はこの方向(引用者註:クラウドソーシング、ブロックチェーン、シェアリング)の延長線上にある。2050年に最も大きく、最速で成長し、一番稼いでいる会社は、いまだにまだ目に見えず評価もされていない新しいシェアの形を見つけた会社だろう。シェア可能なもの――思想や感情、金銭、健康、時間――は何でも、正しい条件が揃い、ちゃんとした恩恵があればシェアされる。

 このライン上にいる日本企業として、田中道昭が注目するのは、メルカリだ。山田新太郎CEOの発するメッセージは、ケヴィン・ケリーの示す方向性と重なりながら、「C(消費者)よりはP(仲間)」「没個性的なモノよりは個性的なコト」「超米国的なコトよりは超日本的なコト」「超合理的なものよりは超文化的なコト」を感じさせるというのである。

このようなメルカリ経済圏で目指されるのは、冨の蓄積ではなく、おそらくはニーズを分担して交換しあう地域通貨コミュニティーに近いことだろう。ICTの進化は、私たちに驚異的なエンパワーメントを贈ってくれた。私たちは、挫折した夢をもう一度夢見ながら社会的実践へと至る道を、知らず知らずのうちに歩いているのかもしれない。

 いま標識に手書きでこう書いてみた。間違っていたら、次に来た誰かが赤ペンで訂正してくれると嬉しい。

カラタニからメルカリへ

NAM―原理

NAM―原理

 

 自作の標識が正しいかどうか確かめるまもなく、様々な知識を自分に合うサイズに切り揃えて、お手軽に重ねて挟みこもうと思う。

とるものもとりあえず、歩き出すことにしようと思う。きっとたかだかあと10~20年の旅路さ。

もしもきみたちが道に迷い、泣き出すときには、地図と毛布と水筒を持ってくから、一緒に迷おうぜ。あ、きみたちの好きな食べ物もちゃんと持っていくから、安心して。

この道を行けばどうなるものか。危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。踏み出せばそのひと足が道となり、そのひと足が道となる。迷わず行けよ。 行けばわかるさ。

(さあ、一緒にご唱和ください)

行くぞー、いーち、にー、さーん…     ドイッチ!