風を集めてポンキッキ!

風向きが変わると、平気で180°態度を変える人間を、風見鶏というらしい。

昨晩は風が強かった。空高く投げ上げたフリスビーが、風に煽られてあらぬ方向へ飛んで行った。その軌跡を目で最後まで追っておきながら、拾って帰るのを忘れた。記事があまりにも長大になったので、今晩へ持ち越したというわけだ。

フリスビーの起源は、イェール大学の学生が、近所のフリスビー・パイ・カンパニーのパイ皿を投げ合って遊んでいたところから始まった。その「未確認飛行物体」が商品化されて世界中に広まり、今やアルティメットという国際競技になっている。日本の女子チームはアルティメット世界ランキングで首位だ。

ただし、フリスビーがユースカルチャー系消費者との先駆的コラボレーションだったことを知っている人は少ない。

 フリ… フリ…

 だめだった。今朝届いた『ダジャレヌーヴォー』は、痒い所に手が届くダジャラー必携の本。急いでフリスビーの項目を探した。残念ながら、フリスビーの駄洒落は載っていなかった。索引の近くに「プリン願望」というのを見つけたが、これは自分もどこかで「プリン愛」という形で使った覚えがある。 

ダジャレヌーヴォー―新しい駄洒落 (扶桑社文庫)

ダジャレヌーヴォー―新しい駄洒落 (扶桑社文庫)

 

 別段自分はダジャラーではない。しかし、自分にダジャレ師匠と並びかねない才能の片鱗を感じてしまった。

今のところ、この記事をどう書くか No Plan だが、信奉している霊能者に「言葉遊びを推していけ」とのありがたい助言を頂戴してもいるので、ダジャラー師匠の駄洒落を2つ、オリジナルを2つ、以下の文章に織り込んでいきたい。 さて、どうなるか。

凡才の集団は孤高の天才に勝る―「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア

凡才の集団は孤高の天才に勝る―「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア

 

それにしても、キース・ソーヤーの「キス粗野そうや」という根も葉もない噂が生まれた拝啓を何にキスるべきかわかりません敬具、という葉書を受け取って、その文意の vague さに茫然としつつ、無性に「ソース焼きそば」が食べたくなったのはなぜ?とに訊いてしまった。

どういう風の吹き回しかわからないまま続けよう。

キース・ソーヤーは経営コンサルタントの経歴もあるものの心理学の教授なので、イノベーションが起こる仕組みを脳内の働きから解明しようとしている。

孤高の天才に突然の閃きが舞い降りる。

ゲシュタルト心理学でそのように考えられてきた創造プロセスを、心理学者たちがどのように突き崩して、真の創造プロセスの実態を発見していったかを、キース・ソーヤーが紹介する章が面白い。

心理学者たちが研究に使ったのは洞察問題(思考パズル)。もし良かったら一問解いてみてほしい。

この手の思考パズルを解くとき、しばしば人は「突然ひらめきが舞い降りてきて解けた」と話す。しかし、それは心理学者が「作話」と呼ぶ事後的な作り話だ。

実際は、思考パズルに苦戦している被験者に、心理学者がさりげなくジェスチャーでヒントを出して正解が閃いた場合でも、被験者はそのように作話するのだという。

創造プロセスは、本人の気付いていないときでも潜在意識で進行しており、外部から降ってくるように感じられる創造的閃きは、実は本人の過去の体験や既存の知識などの内部から泡のように浮かび上がってくるらしい。本人の思考を揺さぶってその泡を浮かび上がらせるのが、社会的コミュニケーションなのだと、キース・ソーヤーは言う。

創造的イノベーションには何が必要なのか。結論だけを書くと、この4つになる。

  1. 概念転移(類推がもたらす創造力):エジソンの研究所では、電球を固定する方法を、瓶のふたを誰かが開けているのを見て思いついた。
  2. 概念結合(無関係なものを結びつける):離れた二つの概念を結びつけると真の創造性が生まれやすい。
  3. 概念精緻化(見慣れたものを見知らぬものへ):中核的特性を別の特性へずらして進化させる。菓子材料のベイキングソーダを消臭剤に進化させた例。

4つあると書いておきながら、3つしかリストアップしなかった。4つ目は、:これら3つの上位概念で、これら3つに対して、「一生懸命な努力」「或る分野への深い理解」「社会的コラボレーション」「視覚イメージの活用」「問題解決型より問題発見型の思考」などの働きかけをして、「概念創造」へと至るのだという。

 この著書が最終的に指し示している先端部分は、まだ本になっていないばかりか、ネット上でも完全に実現しているとはいいがたい。 

オープン・サービス・イノベーション 生活者視点から、成長と競争力のあるビジネスを創造する

オープン・サービス・イノベーション 生活者視点から、成長と競争力のあるビジネスを創造する

 

基本的にはチェスブロウが提唱した「オープン・サービス・イノベーション」を、別の「アイディア・マーケット」という言葉に置き換えて重ねた部分が多いが、傾聴すべきは、この最終的なプラットホームの感性を促進する起爆剤リストだ。

  1.  著作権の保護期間を短縮するイノベーションの保護期間より長すぎるせいで、イノベーションの生成を阻害している。
  2. 小さな閃きに報いる:小さな「発明」は特許の手続きコストに見合わない。別の形での公的報奨システムを構築すべき。
  3. モディングの合法化:モディング(改変)を合法化することによって、著作権を保護しつつ、創造の契機が合法的に得られるようにすべきだ。
  4. 従業員を自由に活動させる:競業禁止事項を緩和して、社員や元社員が複数の企業のイノベーションに関わる機会を確保する。
  5. 特許権の使用許諾を義務化する:許諾を義務化、許諾手続きの簡素化、許諾使用料のオークション化によって、知的財産の活用を円滑化する。
  6. 特許をプールする:同一産業内で企業間競争をするより、企業間で特許を共有してプールすれば、その産業は飛躍的に発展する。(例えば、雨地下の航空業界、ミシン業界)。
  7. 産業規模の標準化を推進する:(これはたぶんモジュール化の効用の主張だろう)。同一産業内部で規格を標準化すれば、モジュール化された標準規格に上乗せするイノベーションへと経営資源を集中させられるので、イノベーションが加速する。

これらすべては現在進行中のビジネス戦略上の最先端。日本語サイトで社会見学するなら、ナインシグマが良さそうだ。

ナインシグマは、オープン・サービス・イノベーションに世界最大の投資をしているP&Gの「アイディア・マーケット」サイト。

日本でも、中小企業が規模の違う大企業の受注に成功した例が載っている。既存の「技術マッチング会」とは、需給のバランスとマッチング精度が全然違うとのこと。他の事例にあるように、産学連携のチャンスも飛躍的に増大することだろう。

連載されている OI に関するコラムも、経営戦略論と現場の声の双方に裏打ちされていているので、心地よく読める。

https://ninesigma.co.jp/column/?cat=10

ナインシグマが凄いのは、イノベーションの数やプロジェクトの需給バランスやマッチングの精度を向上させるために、「専門家スカウトチーム」を起ち上げていることだ。世界各国に散らばった70人のフルタイム専業スカウトたちは、各国の先端的な研究者を訪問したり研究論文を読み込んだりして、「イノベーションの卵」をリスト化し、ネットッワークに参与させている。

これも不味い予感を感じる。もはや後がない背水のジントニック*1な感じだ。

もちろん科学的イノベーションベンチャー起業家とエンジェル投資家を、ミスマッチなくコーディネートする制度や人材が不足している、というのは正論だが、それ以前に、上記の北米での実態が物語るように、日本の社会人が「アダプティブでない」ことに問題があるような気がする。 

例えば、P&Gのこのような辣腕のコーディネーターたちに、日本の優秀な研究者たちの基礎研究が、次々に多国籍企業へと持っていかれることになるのだろうか。

泉田良輔が、アメリカが産学官の緊密な連携のもとに20年かけてイノベーションを中心に産業構造を戦略的に変化させてきた、と書けば、野口悠紀雄が日本はこの20年間、国際競争に勝ち残るための産業の構造改革を怠ってきた、と批判する。

20年前の1995年は、阪神淡路大震災オウム真理教事件が起こった年。

多くの人々が、日本が曲がり角を曲がった年として記憶している年だ。個人的には、①太平洋戦争、②日航機墜落+プラザ合意、③バブル崩壊に次ぐ、第四の敗戦の年だ。

また敗戦の二文字を書かねばならないのか。気倦い午後の桃井かおりになってしまいそうだ。気分がどこかアンニュイ豆腐*2なのだ。

yet2 - Igniting Innovation

ただし、ルパンめ、まだ勝負は終わっていないぞ。

上記のナインシグマにしても、同業態の yet2 にしても、需給のマッチングのプレーヤーに企業や技術者が多く、最終メンバーである消費者がまだ本格的に参与していない。さらに、そのような高感度の消費者を引き付けるだけの返礼(リファンド)を組み込んだ「クラウド・リファンディング」システムの構築にも、まだ時間がかかりそうだ。

個人的には、同年齢同郷の誼もあり、社内SNS日本シェアNo.1で、オープン・イノベーションにも理解のあるこの会社が、多数の企業と多数の消費者を結びつけるプラットホームの構築に乗り出せば、最速で完成形に近づけるのではないかと思う。

集団共創の「グループ・ジーニアス」が学術的には立証されていても、実現していくには、相当多くの物事を動かしていかねばならない。そこで一瞬たじろいでしまった若い人々には、それとは逆のベクトルにも豊かな可能性があることを知らせておきたい。

他企業や消費者との集団共創の逆は、個人による自己完結型のモノづくりとなる。

「ひとり家電メーカー」とかつて呼ばれた家電製造販売者のことを、ご存知だろうか。

3Dプリンタの普及により、今は「モノづくり」がコモディティ化しつつある時代。世界は技術を持たない者でも発想力さえあれば「メイカー」になれるという「メイカームーブメント」の中にあるといいます。

「そうした動きの中で日本は立ち遅れているのが現状ですが、よく見ると日本ほど環境が整っていて有利な国はないと思います」

日本には優秀な技術を持つ町工場が数多くある。海外に生産を発注しなくても国内で製品を製造できる。iPhoneも中を開けてみれば半分以上の部品が日本製という現実があります。

こうなると、あとは発想力の勝負ですね。いかにユニークなモノを生み出すか。それが自分たちベンチャーの役目だと思っています」

見取り図は簡単に思い描けるはずだ。ICTの進化によって、大量生産の分野では、発展途上国の生産性が飛躍的に向上し、先進国の製造メーカーが苦戦を強いられるようになった。しかし、ICTの進化は、同時に個人でできることも大きくエンパワーしたのだ。

革新的な発想力があり、他の技術者と協働できる対人スキルがあれば、世界でオンリーワンの自己完結型のモノづくりだってできるし、アイディア・マーケットへ飛び込んで大企業のモノづくりにも参画できる。

次の10年に進行するこの「新しい働き方」に、最初に順応するのは、30代40代50代の女性ではないだろうかと自分は推測している。フラットなコミュニケーションへの順応が早いとか、主婦経験が生きるとか、いろいろな理由は挙げられるが、何よりも重要なのは、出産や子育てのようなライフイベントと、この新しい働き方とのマッチングが深いからだ。すでに実例がある。

 17種類24製品を、企画からわずか2か月でリリース。
 いま一番勢いをもつ家電ブランドとして注目を集めている、株式会社UPQ(アップ・キュー)の代表・中澤優子さん。彼女は、ほぼ一人でUPQを立ち上げ、現在も全ての製品の企画開発、販売の指揮を最前線で執っているといいます。

こちらも有名な元「ひとり家電メーカー」。自分が主導して自分で完結できる極小の組織だから、出産や子育てのようなライフイベントを、自分の好きなスケジュールでマネジメントできる。

幸福とは、自分のやりたいことをやりたいときにできること。

そんな幸福の定義もある。日本の労働人口はこれから右肩下がりだ。独創と協働のスキルさえあれば、これからは或る意味では幸福になりやすいワークライフバランスの時代がやってくるかもしれない。

 いま思いっきりジャンプした。風に煽られてあらぬ方向へ飛んで行きそうなフリスビーを何とかキャッチした。

風向きが変わると、平気で180°態度を変える人間を、風見鶏というらしい。

たとえどんなに目まぐるしく風向きが変わっても、ぼくの心の向きは永遠にロックされたままさ、と誰にともなく呟いたところで、視界がひらけた。どこかの岬の先、どこかの海峡にいるのがわかった。やけに風が強い。

不思議だな。中3の頃、難病でやがて長期入院することになる年、20代までの生命だと宣告を受ける年、どういうわけか後輩の女の子たちからたくさんラブレターをもらった。無視するのは忍びないので、ちょっと謎めいた詩的な一行を書いて、手早く返事を送り返した。

ラジオで小耳にはさんだあのグループの名曲を引用して、「最近、思うところあって、○○の風を集めています」とか書いたり、年賀状に「明けましてポンキッキ!」と書いたり。実話だ。

ふと、今後の自分の使命は「日危機に立ち上がって、変革の風をあつ集めることにある」という声がいま聞こえたような気もするが、それも風の囁きに惑わされた空耳かもしれない。

それなのに、自分が何かに憑かれたように、あの名曲のサビを繰り返してしまうのは、自分が真に希求している何かが、あの曲名なり、歌詞なり、グループ名なりのどこかにあるからにちがいない。そう断言してはみたものの、断言の根拠が自分でもわからないまま、唇が同じ言葉をリフレインするのを、もはやとどめようもないのだ。

風を集めて… 風を集めて…  

 

 

 

*1:P.83

*2:P.80