Ah, birds, future birds

どうして、熱がつづくとき、自分は39℃以上の高熱になるのだろう。

昨年もおかしくなって、原因不明の39℃以上の高熱が、何日も続いた。頭ではそう思っていなくても、身体が世界を拒否しようとしているのかもしれない。明日には治っていると良いんだが。

風邪にはビタミンCが効くので、スーパーで「高原の岩清水&レモン」という長い名前のジュースを探したが、売っていなかった。最後の頼みの綱がこれでは、風邪はすぐには治らないかもしれない。

 さてここからが、その「明日」、つまりは今日の記述になる。何となく高熱の原因として心当たりがあるのは、軽くバーン・アウトしてしまったという感触だ。何を読んでも面白いと感じないし、そもそも読めているかどうかも定かではない。それでも、書く以外に方法はないんだと思う。 

3Dプリンタ上記の電気自動車を創ったアメリカのベンチャーが、とうとう注目の分野へ本格的に乗り出した。Ollieという自動運転バスの大量生産へ向けて、10億ドルもの資金の調達に成功したというニュースが数日前に飛び込んできたのだ。

 

オリーが自動運転バスだとか、「AI車掌」に頼めば行き先へ連れて行ってくれるとか、周辺のおすすめ情報を教えてくれるとか、そういうことなら、これまで読んできた未来予測本にたっぷり教えられてきた。

ひょっとしたら、テスラがやろうとしていることよりも、先を行っているかもしれない。そんな思いで自分が追いかけていた Local Mortors。世界初の3Dプリンタ製造車を作っただけでなく、グローバルなネットコミュニティによる設計と資金調達、生産販売一体型のマイクロファクトリーを、世界に先駆けて普及させ始めているところに、際立った特徴があるのだ。

 Also central to Local Motors’ operations is its online community: designers, engineers, and gearheads all collaborating to design vehicles. 

またローカル・モーターズの中心にあるのは、ネット上のコミュニティである。自動車をデザイナーや技師や熱狂的自動車愛好家たちなのだ。 

設計は、世界各地に散らばる専門家たちやマニアたちの協業によってなされる。そして、生産はというと、マイクロ・ファクトリーと呼ばれる販売店を併設した小規模工場で作られるのである。その利点は、言うまでもなく、輸送コストや在庫のだぶつきが存在しないことにある。

 Local Motorsは、小規模の分散型製造ネットワークの創造の可能性を実証しています。小規模な現地製造エコシステムは、現代のデジタル技術が引き起こした生産経済のシフトによって可能になりました。 ネットや通信やデータストレージなどの技術のおかげで、物理的および人的資源の検索コストが低下し、知識がはるかに共有しやすくなり、資金調達モデルが民主化されました。 これらのすべてが、学習や市場参入や商業化への障壁をますます低下させています。

 Local Motors exemplifies the potential for creating small-scale distributed manufacturing networks: small, local manufacturing ecosystems enabled by shifts in the economics of production brought about by modern digital technologies. Thanks to the Internet and other communications and data storage technologies, search costs for physical and human resources have declined, knowledge sharing has become far easier, and funding models have become democratized. All of that is lowering barriers to learning, market entry, and commercialization at an increasing rate.

オープン・イノベーションであることはもちろん、ユーザを巻き込んだ開発に成功し、しかも資金調達はクラウド・ファンディング。近未来の会社のお手本のような卓越性を備えたローカル・モーターズ。

そのいささかも近未来的でない社名の由来が気になっていた。この辺りに、その由来がありそうだ。

  Beyond economics, distributed local manufacturing may deliver benefits on a more human level: it can give people the chance to do meaningful work and engage in meaningful consumption. John Hagel describes what he calls the “passion of the Explorer” — characterized by a drive to constantly probe, test, and push boundaries to identify new opportunities and learn new skills; a tendency to seek out others to learn from and engage in problem-solving; and a desire to participate in, and have an increasing impact on, a domain for the foreseeable future. 

 経済とは別に、分散された地域での製造は、より人間的なレベルで利益をもたらすかもしれません。それは人々に意味のある仕事をし、意味のある消費に関わる機会を提供できます。John Hagel が「探検家の情熱」と呼んでいるもの。常に調査や試験を繰り返して、新たな機会を特定して、新しいスキルを学ぶために、境界の先を開拓するという特性のあるものを提供できるのです。問題解決から学び、問題解決に関わる他の人々を探す考え方を、そして、 近い将来そのドメインに参加し、そこでより大きな影響力を行使したいという願望を提供できるのです。 

オンライン・コミュニティが、世界規模での設計や技術的知見の共有を可能にした。一方、3Dプリンタの普及は、製造現場を中央ではなく地方へ分散させることを可能にした。地方の交通事情に合わせたモデルの設計 / 製造 / 販売も、地方の小規模工場で可能なのだ。ガソリン車から電気自動車への移行で部品点数が劇的に減る、といった近未来予測はすぐに現実に追い越されそうだ。ゆるキャラと同じくらい多種類の「地方特産タクシー」が走る日も、さほど遠くないのではないだろうか。

さて、これも追いかけようと思っていた3Dプリンタの周辺。鍵の一つは、ナノ材料ではないかという気がしてきた。 

同じ物質でもナノレベルまでの微粒子にすると、元の性質とは全く異なる性質が現れます。このため、種々のナノ粒子が化学・電子・光・触媒等の幅広い分野で応用されています。ナノ粒子の材料には、金属、無機材料、炭素、ポリマー等があり多種多様であるため、分析、解析にはそれぞれの材料に応じた対応が必要です。

「同じ物質でもナノレベルにすると、元の性質とは全く異なる性質が現れる」という点が重要で、グラファイトから生まれたグラフェンが有名だ。

グラフェンはあらゆる物質の中でもっとも薄いだけでなく,非常に強くて硬い。常温でほかのどんな物質よりも電子の移動速度が高い。

このようなナノ材料も含めると、物質的な材料の数は10万種類以上にも及ぶという。ヒトゲノムの約23,000nに比べると4倍以上の数にもなるが、すでにオープンソースでの「材料ゲノム」計画も動き始めているらしい。

エジソンは電球のフィラメントを発明するのに、約1600種類もの材料を試したそうだ。「材料ゲノム」が完成すれば、 何のどの部分を作るのにどんな材料が最適なのかを、データベースが瞬間的に解析して教えてくれそうだ。その材料を、3Dプリンタに注入すればよいだけになるのではないだろうか。

3Dプリンタでの製品生産にほぼ近い形で現在すでに進行しているのが、炭素繊維による自動車の製造だ。下記の動画は、BMW7シリーズの炭素繊維CFRP)を用いた製造工程。人間が一度も登場しない。

 上記ナノ材料の定義を公開しているのは東レだった。世界シェア4割の東レに、2番手3番手の帝人と三菱レーヨンを加えると、炭素繊維の日本企業の世界シェアは6割に達するという。 鉄よりも軽くて丈夫な炭素繊維が、飛行機に次いで、自動車の主材料になる日はもう到来していると言っていいだろう。

 知的技術的リソースは技術者やユーザが協働するオンライン・コミュニティで生み出し、生産は地元密着の小規模工場でオンデマンドで行う。「Local Mortors」という示唆的斜めの企業を追いかけてきて、近未来図の輪郭がかなりはっきり見えてきたような感じがした。

ゴホン。

まだ咳が止まらない。私の風邪を唯一治せるような気がする「高原の岩清水&レモン」をネットで探していて、「京都の石清水&エジソン」に辿り着いてしまった。

 試行錯誤の研究を進める中、ある日エジソンは日本からのお土産として研究所にあった扇子を見つけ、その骨を使って電球を試作してみました。するとその結果、電球の寿命は飛躍的に延びました。そしてその扇子の骨こそが竹であったのです。竹は繊維が太く丈夫で、長持ちするフィラメントを作るのに最適であったのです。
 さっそくエジソンは「究極の竹」を求め世界中に研究員を派遣し、その中の一人であった探検家ウィリアム・H・ムーアは中国を経て日本へとやってきます。ムーアは様々な地域・種類・成長度の竹を集める中、京都を訪れた際、当時の槇村正直京都府知事から竹の名産地であった八幡の「八幡竹」を紹介され、他所の竹と共にエジソンのもとへと送りました。
ムーアからの日本各地の竹を受け取ったエジソンはそれらを使いさらに実験を繰り返し、そしてついに、最も長持ちのする、最高の竹を発見します。
 そしてその竹こそが京都・男山周辺の真竹だったのです。この竹を使用した電球は何と平均1,000時間以上も輝き続けたといいます。
その後セルローズによるフィラメントが発明され日本の竹は使われなくなってしまいますが、それまでの十数年間、日本の竹がはるかアメリカの家庭や職場、街頭を明るく照らしていたのです。 

はちまんさんとエジソン | 石清水八幡宮にまつわる話 --- 石清水八幡宮

 電球のフィラメントにするためにエジソンが試した材料は約1600種類。その中には、同僚の顎鬚も含まれていたという。ひとつの材料がバーン・アウトしてしまったのなら、別の材料を試せばよいのではないだろうか。

3Dプリンタにせよ、「材料ゲノム」にせよ、何かを生み出すのに必要な労力や費用が、極端に低くなっている気がする。発想能力と協働能力の高い人間なら、どんどん飛び級で自分のライフ・ステージを上げられる時代なのかもしれない。迷子になってしまったはぐれもんの風邪は、レモンできっと治るだろう。

さあ、飛び級で、飛んでしまおうか。

 語り手の「僕」は、ニュー・ハンプトンの牧場に飛ぶ無数のゴムの鳥を見て Ah, birds, future birds と「涙の発作のような昂揚に襲われたのである」と物語を結ぶ。 

一生一石:『月の男』 大江健三郎