湾岸を飛んでいく伝書鳩

年が明けて、2018年元旦。10年前の2008年北京五輪の象徴的存在だった「鳥の巣」スタジアムに、すでに鳥たちがいなかったことを思い出していた。2008年の北京五輪を待たず、前年の2007年に中国の不動産バブルは弾け、資金は世界へと流出した。中国人富裕層は五輪まで大丈夫だと信じていたのに、自国の「鳥の巣」から資金をフライトさせなければならなくなった経験を、よく覚えているはずだ。

情報通の間では「いよいよ今年は日本の住宅バブル崩壊の年だね」という不吉な言葉が囁かれている。新年早々不穏なことを書きたくはないし、最近フリーエネルギーの開発可能性に飛びついて、楽観的な筆致を多用してきたこともある。できれば、明るい要素も探してみたかったが、少なくとも住宅市場の崩壊によってバブル崩壊へ至るシナリオは、すぐそこまで来ていると言えそうだ。

「オリンピックまでは大丈夫だ」という声もあるようだが、それは根拠のない印象論でしかない。お祭り騒ぎを浮かれて待っていると、痛い目に遭いそうだ。いい年齢をした大人には、五輪のエンブレムを付けたサンタクロースはやってこないのだ。北京五輪だけの話ではない。不動産の専門家なら絶対に知っている話だ。

海外の研究者たちが、過去のオリンピック開催地について検証したところによれば、アトランタオリンピックシドニーオリンピック北京オリンピックロンドンオリンピックなど、どの地域の調査でも、不動産市場には「効果なし、もしくはマイナスの影響」で結論は一致しているためだ。

この分野で読むに足りそうなのは、この一冊だけ。これをバブル崩壊が来ないことの状況証拠と取るか、バブル崩壊が来ることの状況証拠と取るか。自分は後者だ。誰もが、自分だけは口を噤んだまま一番美味しいところでゲームから降りられる。そう信じているように見えはしないだろうか。 

2025年東京不動産大暴落 (イースト新書)

2025年東京不動産大暴落 (イースト新書)

 

平成バブルの時は、バブルの途上でそれをバブルだと指摘できたエコノミストは、野口悠紀雄を含めた2人しかいなかったという。当時と比べれば、隔世の感があるほど高度情報社会化は進んでいるのに、ネット上ではまだ不動産の専門家が「五輪後」に照準した話に花を咲かせているサイトが多い。 

 OK。疑心暗鬼はしたくない。しかし、リーマンショックのときの専門家たちが、自分たちは暴落したら儲かるCDSクレジット・デフォルト・スワップ)を仕掛けた上で、「まだまだ上がりますよ」と、顧客たちに金融商品を勧めまくっていた図を、どうしても思い浮かべてしまう。

「五輪までは大丈夫ですよ」。そんな甘い言葉を囁かれた人はいないだろうか。その甘言は、少なくとも、エビデンス・ベースではない。

口あたりの良い薔薇色の言葉を並べたこの報告書でも、東京のオフィス賃料は2019年から下落すると書かれている。

下記の報告書では、東京のAグレードオフィスの総ストック量が10年前の2倍(!)、A&Bグレードオフィスの総ストック量が1.4倍(!)になったことが報告されている。東京の経済規模はこの10年でそんなに拡大しただろうか。単純な需給バランスに着目しただけでも、銀座の鳩居堂前の空前の地価高騰とは別の泡々が吹き上がっているのがわかるはずだ。

http://www.joneslanglasalle.co.jp/japan/ja-jp/Research/JLL_Japan_Office_Demand_201612_J.pdf?18961ad3-bbde-4a52-a32b-c602a4fc0eb2

2018年の不安材料を数え始めると、事情通は誰しも頭が痛くなることだろう。出口なき金融緩和の破綻、中国バブルの崩壊、北朝鮮リスク、原発事故、テロなどなど。

比較的穏当な住宅市場をめぐっても、2018年以降に、いくつかの危機的な潮目が存在している。というか、不動産の暴落はもう始まっているというのが、住宅ジャーナリストの榊淳司の主張だ。

きっかけは、2015年1月から相続税の控除基準が厳格化されたことによる。土地資産の有効活用を迫られた地主たちが、一斉に木造アパートを新築しはじめたので、半年後に一気に空室率が上昇したのだ。

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http://www.tas-japan.com/pdf/news/residential/Vol86_Vol58residential20170228.pdf

 榊淳司は、これらの供給過剰の木造アパートの資産価値が、数年後に半額近くまで暴落すると予想している。その周辺の細かい波立ちを捉えているのが、約半年前のこの記事。

16年の新設住宅着工は約97万戸。中でも賃貸アパートなど貸家は約42万戸と8年ぶり高水準となり、全体をけん引した。しかし、少子高齢化にもかかわらず増え続ける賃貸アパートには需給ギャップが発生。大家は当初、予定されていた家賃収入が得られず、建設を斡旋したサブリース業者との間で、トラブルも表面化している。 

このような空室率の急上昇は、相続税の控除基準のわずかな厳格化が引き起こした。

それよりもはるかに大きな時限爆弾だと恐れられているのが、「生産緑地指定の解除」だ。 

2022年に、いわゆる「生産緑地」の多くが、マンションや一戸建てなどの住宅用地として順次放出される可能性が出ているのだ。放出候補となる土地の面積は、実に東京ドーム2875個分という広大なものだ。

(…)

2017年現在、全国の空き家数はおそらく1000万戸を突破しているものとみられるが、このままでは空き家増加に歯止めがかからなくなる。不動産の価格は言うまでもなく「需要」と「供給」で決まるが、大都市圏の住宅価格には非常に大きな下落圧力がかかるだろう。

東京ドーム2875個分というのは、驚きの数字だ。需給バランスを大きく崩すのは間違いないし、国の対策も限定的にしか効かないと予想されている。ばいばい、練馬大根。

「時限爆弾」の期限は2022年だから、まだ先があると思う人もいるだろう。しかし、購買意欲保持者のうち、4年後を先読みできる人、4年後を待てる人は、かなり多くの割合存在するはずだ。都心部での「買い控えブーム」そのものが、「期限」に先駆けて、マンションの需給を崩す可能性は充分にある。

 さて、上記のアクチュアリティある新書をまとめた榊淳司は、「もうバブルは終わった」「暴落は来月かもしれない」とする刺激的な惹句とともに、以下の記事も執筆している。

注目すべきは、その国民性からしばしば一斉行動をとりやすい中国人富裕層の「爆売り」のリスクを強調しているところだ。

実は、日本の住宅バブル崩壊の年号を、最も新しい「2018年」だと予測しているこの俊英も、 中国人富裕層の「爆売り」を、その崩壊の引き金に挙げている。  

私は、日銀のマイナス金利導入によって、行き場を失った資金が不動産などの資産に向う結末として、それより1年早く、都心の物件の値崩れが起きると、「2019年問題」をメルマガで警告してきましたが、訂正したいと思います。

それは、さらに1年早まって「2018年問題」と呼ぶほうが正しいのかもしれません。 

 日本の税制では、不動産購入後5年以内に売却すると、売却益の35%に税金がかかってきます。
 しかし、5年以上が経過後の売却益にかかってくる税率は21%に大幅減額されるのです

 湾岸エリアのタワーマンションを爆買いした中国人の富裕層は、購入後5年が経過する2019年に売り払おうと身構えています。

 中国人富裕層が、彼らが描いたシナリオどおりに東京の不動産投資で莫大な利益を出すことができるかどうかは、小池新都知事の手腕にかかっています。

 ・・・しかし、東京オリンピックが、最悪、頓挫の方向に向かったり、都心の再開発計画と切り離された場合、2019年を待たずして、東京23区内の新築物件の価格と、湾岸エリアのタワーマンションの価格には、早くも値崩れの兆候がはっきり出てくるでしょう。 

(強調は引用者による)

(混沌の世を斬る快刀乱麻のメルマガは、上記から購入できる)

困ったな。時分は専門家でもないし、正確な予測なんてできっこない。もし本気でやるなら、「利用するデータは、路線価、国勢調査、住宅・土地統計調査など官公庁のオープンデータに加えて、過去の不動産売買の成約価格、駅からの距離、建物の面積、マンションのブランド価値まで含みます。さらに、それぞれの土地の地価推移データも駆使して、1000を超えるデータから」不動産の将来価格を予想しなければならない。自分はもちろん、そんなことができる専門家がいるのか?と思っていたら、いた。

人工知能が決められた計算式で導き出すので、恣意性が極力排除されて、人間が弾き出すよりも客観的な結果になります」

そうして算出された結果をまとめたのが、本文最後からの表である。

まず驚きなのが、「マンションブーム」の象徴である湾岸エリアが軒並み壊滅状態となっていること。マンション評論家の榊淳司氏が指摘する。

中央区の勝どき、月島や江東区豊洲有明などのタワーマンションで1割以上の暴落が予想されていますが、実はこれは業界内では『既定路線』とされているシナリオです。これまで買い漁っていた海外投資家が去り始め、相続税対策で盛り上がった富裕層による購入も下火。ブームはすでに終焉に向かっているのに、今後も新規物件が次々に建てられるため、供給過剰感から価格下落は必至と見られている」

(強調は引用者による)

どうやら、不動産業界では、2018~2019年の間に、海外投資家(中国人富裕層)による「爆売り」に端を発した湾岸エリアの相場崩れは、すでに織り込まれているようだ。それがハードブレイキングになるのか、ソフトブレイキングになるのかの予測の違いはあるにしても。

知らぬは、調べずに買う購買客ばかりということなのだろうか。

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年が明けて、2018年元旦。数年前に、気に入って購入した上記の写真を思い出していた。

湾岸エリアを飛び立つ鳥たち。10年前と同じく、東京五輪「前」に、中国人富裕層は湾岸のタワーマンションから資金をフライトさせるだろう。

2018年、自分が見上げた空には鳥がいなかった。どこへ行ったのだろう。どこかの海上へふと墜落してしまったのかもしれない。

そうなってもおかしくないような道行きで、それでも心のどこかに固く握った夢だけは離さず、この10年間をひとりで生きてきた気がしている。おかしいな、一人じゃないはずなのに、誰も本当のことを話してくれなかったんだ。

OK。淋しさに負けて愚痴を言いたいんじゃない。一人なのは当然さ。同じ葉書を10通出して、10人の配達人に配達させようとする人はいない。自分はたぶん一種の伝書鳩で、いま書きつつあるこの文章も含めて、どこかへ任務としてメッセージを運んでいる途中なのだろう。

辺りが暗くなってきた。目的地はまだだろうか。夜になっても、飛び続けなくては。明るい月の光を、目的地の方角と距離のよすがにして。