ニューヨークの後はのこのこと濃厚に

仕事もプライベートもしっちゃかめっちゃかなのに、謎めいたよくわからない能力で、松山の都市計画の地図上に、自分がこっそり引き寄せているものがあるみたいだ。

  1. 先見の明のあるリーダーと地縁的なつながりがあったため、所有と利用を分離した定期借地契約の取り付けに成功した。
  2. 「高松丸亀町まちぢくり」という街づくりのプロの会社が商店街を運営しているので、失敗がない。運営状況をモニタリングする自治体や学識経験者らによる第三者機関もある。
  3. 虫食い状に低密化していく商店街の空き家や空き地の権利を、専用の投資会社が取得し、「高松丸亀町まちぢくり」へ委託運営するシステムが整っている。 

上記の記事で、高松の中心商店街の再開発が、見事に成功したことを紹介した。次には、中心街に高齢者の温浴施設を作りたいと、当地の町づくりリーダーが話していた。という記事を私が書いたのが、12月3日。

さっそく、「引き寄せ」に成功してしまった。わずか5日後に、松山市の中心街(大街道)の真ん中に、天然温泉浴場つきのビジネスホテルが開業したのだ。

「引き寄せ」の使い方が、わずかに間違っているような気もするが、それがわずかなら、まだ歴史が若く、拙宅から近いビジネスホテルだ。幾分かの羞らいをこめて「若近」と呟いておきたい。

ところが、引き寄せてはみたものの、いささか使い勝手が悪い。アラフォー以降、サラダーになった自分は、以前旅先で好感を持ったドーミーインのビュッフェ方式のモーニングに期待していた。

上記は、シノラーアムラー、ハマダーを復習できる記事) 

 事前にきちんと調べたのだ。松山と都市の規模がほぼ同じ熊本のドーミーインは、モーニングを1200円で提供している。同じ値段を期待していたのに、1700円では、「起床してすぐ、玄関開けたら5分で御飯」の普段使いができそうにない。競合他店の価格帯をもう少し意識してほしかった。

 松山のホテル系モーニングと云えば、真っ先に地元民が名前を挙げるのがが「やや」。朝食の口コミ指数が4.9なのも頷けるクオリティの高さだ。

絶賛は口コミで呼んでもらうとして、ぜひ知ってほしいのが、道後界隈にありながら、新規参入を妨害されて、温泉を引けないままホテルを開業して、大成功させたこと。逆境を好機に変えられる実行力が凄い。地元では有名な起業家の仕掛けだ。

日本最古の温泉といわれる「道後温泉」。その一角に、女性に大人気の宿「道後やや」がある。この宿、温泉宿なのに温泉がないという「弱点」を持つが、「おしゃれな浴衣」「8種類の高級今治タオル」など、近隣の外湯をとことん楽しめる仕掛けで見事に克服。さらに朝どれ野菜30種など、愛媛産にこだわった“豪華すぎる”朝食バイキングが評判となり、道後温泉で有数の人気宿となった。

道後でビジネスホテル系の宿を探すなら、私も旅人たちと同じように、「湯湯 or やや」には「やや」と答える。というか、どの旅人にも負けないくらいの圧倒的な強度で「やや」だと断言する。チャオ。

上記の「引き寄せ」は2017年の話。2018年に入っても、引き寄せてしまった。

 この街にはまだまだ観光資源を生かせる余地がある。道後温泉周辺だけでなく、松山市中心部に「回遊性」を活性化するような仕掛けを施せば、松山の都市ブランドはさらに向上し、アーケード街ももっと賑わうのではないだろうか。(…)

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 この縮尺の Google地図上に書かれていなくても、この回遊ルート周辺(道程の約半分はアーケード街)には、観光資源がたくさんある。冒頭の「ことり」だけでなく、五色そうめんの「五志喜」、おはぎの「みよしの」、ピザ世界チャンピオンのいる「ダ・ボッチャーノ」、お取り寄せスイーツ全国上位の「霧の森大福」など。飲食店以外でいえば、大観覧車のくるりん、二の丸庭園、愛媛県庁本館(東京タワーと同じ設計者)など。 

 その回遊性の起点とならんとする施設が、「ことり」の近くに作られる計画があるのを、今朝知った。大規模な駐車場ができるだけではない。銀天街のGETを中心に、道路を一部潰して、GETの2倍程度の面積に一体型の複合施設を建設するらしい。

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 イラストは銀天街側から見た図。明らかに高松の成功事例を念頭に置いているのがわかる。銀天街のアーケード屋根の下から、階層構造を見上げさせる設計になっていて、沈滞したアーケード街では難しい、上層階の空間利用を誘っているのだ。 

 高松のアーケード街の視線の抜けの良さは、以下の記事にある写真でよく伝わってくる。

ひょっとしたら自分のブログも読まれていたのだろうか。というのは冗談だとしても、銀天街の再開発計画が、高松の成功例に学んだ痕跡は随所に見られる。

銀天街GETを含む区画と、道路を跨いだ中の川通り沿いの区画をくっつけて、いま両区画の間を通っている道路を廃道にする。これだけの規模の開発を成功させるために、2017年4月に設立された準備組合が、地権者の合意形成を進めているのだという。「所有と利用を分離した定期借地契約の取り付け」が進められているのは間違いない。

このような大都市や地方都市の都心部空洞化をリノベーションする再開発は、エリアマネジメントと呼ばれている。成長時代には街を「開発」し、成熟時代には街を「管理育成」していかなければならない。 

最新エリアマネジメント--街を運営する民間組織と活動財源

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そして、そのエリアマネジメントで重要視されるのは、成長期のような「商業施設としての最大収益化」ではなく、「社会資本と協働」だ。これらを施設完成によって供給するのではなく、街づくりそのものを通して培っていくことに、エリアマネジメントの主眼がある。 

都市の再開発と社会資本が掛け算された領域を、一番短い言葉で呼ぶと「コミュニティ」ということになるだろう。 

コミュニティ3.0 地域バージョンアップの論理 (文化とまちづくり叢書)

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 コミュニティは外的環境の変化に対応して、常に自身を変化させて、組み替えていかなくてはならない。コミュニティをどう変化させるかの方向性が、「多世代共生」というキーワードで語られることが多くなった。 

OMUPブックレットNo.16 街づくりと多世代交流 [共生ケアシリーズ1] (OMUPブックレット NO. 16 「共生ケア」シリーズ 1)

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 その背景を語ることは、それほど難しくない。一つには、人口減少社会が単に人口が減っているだけでなく、凄い勢いで非婚化が進んでいることだ。「無縁社会」という言葉が流行したのは、2010年のこと。 

無縁社会 (文春文庫)

無縁社会 (文春文庫)

 

下記の情報は三浦展『第四の消費』(2012)にある情報をまとめたものだ。

現在28歳くらいの1990年生まれの女性は、生涯未婚率が23.5%。結婚した76.5%のうち36%が離婚するので、掛け算して足し合わせると23.5%+27.5%=51%の女性が、独身状態となるらしい。再婚や死別をカットしたラフな予測数だが、とんでもなく高くはないだろうか。

おまけに、男性の生涯未婚率は今後おおよそ女性の1.5倍で推移すると予想されているので、離婚率を同じとしても、男性も62.5%が独身状態となるらしい。「一億総シングル社会」という言葉が飛び出すのも頷ける独身化の急伸だ。 

全世代のシングル化が進んでいるので、全世代が協働できる多世代交流機能を、コミュニティが持たねばならないのは当然だ。介護保険制度によって、日本は介護する主体を家族から社会へと移行させた。制度から零れ落ちるさまざまな困難を、最後に掬い上げられるのは、地域コミュニティしかないかもしれない。

その零れ落ちる最大の困難のひとつが、核家族をつくった夫婦でも頻発している。それは「ダブルケア」。子育てと介護の同時進行である。

実は、少子高齢化が進行しているのは、日本だけでない。韓国や台湾や香港でも、状況はさほど変わらない。その各国の研究者が集まった「ダブルケア研究プロジェクト」が、2012年から発動しているので、その動向に注目していた。実は、同世代の団塊ジュニアで、ダブルケアに直面して苛酷な生活を強いられている話を、よく小耳にはさむのだ。

(095)ダブルケア (ポプラ新書)

(095)ダブルケア (ポプラ新書)

 

 (Amazon にあるこの新書は探しても見つからない。発売されていないという噂も)

 私たちは、ダブルケアが早晩、日本の大きな社会問題・政策課題になると考える。女性の晩婚化により出産年齢が高齢化し、兄弟数や親戚ネットワークも減少し続けている。現存の介護サービス、育児サービスをやりくりしながら、子育てと親の介護を同時にしなければならない世帯(ダブルケア負担の世帯)の増加が予測される。

晩婚化と晩産化が進み、少子化による介護担当可能性が高まれば、ダブルケアを強いられる家庭が増えることは充分に予測できる。政府は2016年にダブルケア人口を約25万人だと発表したが、実数はもっと多いのではないかと、ダブルケア研究第一人者の相馬直子は推測している。

さて、冒頭で書いた地方都市中心部に建設される複合施設に話を戻そう。

今晩一夜漬けで考えているうちに、この複合施設が成功するかどうかのポイントが3つあるような気がした。せっかくだから記しておきたい。

  1. 併設マンションのユニバーサルデザイン度を高めて、高齢者が入居しやすく、高齢になっても長期居住できる設計にする。
  2. 公共系施設のうち、医療機関調剤薬局をテナント入居させるなど、高齢者がワンストップで利用できるテナント・ミックスに配慮する。
  3. そして、個人的にはこれが一番重要だ。施設の最上階に多世代交流できる温泉施設を作ること。 

道後温泉には、大浴場だけでなく、入浴後に休憩してお茶と和菓子をいただく習慣と空間がある。その場を、多世代交流できる談話室のように設計するのも面白いと思う。

自分は京都府舞鶴市生まれの松山育ち。

高度成長期を支えた呑ミニケーションに似た湯アミニケーションによって、故郷の街が「無縁社会」から遠く離れた位相で、これからも賑わっていてほしいと願っている。ちょうど大浴場で音の残響が消えにくいように、この願いを多世代の市民が共有してくれて、その願いがこの街に消えにくい残響を残しつづけてくれたら。

 

 

と、優等生めいた真面目な文句で、記事を締め括ることに成功した。故郷の街が賑わいつづけるのを願っているのは嘘ではないが、至近距離に住む自分にとって、何より「(内側から)玄関開けたら5分で湯船」という温泉欲に目が眩んでしまっているとは、口が裂けたら言えない。

上の記事で少しだけ言及した飛鳥乃湯。そこでも入浴後にお茶と和菓子を頂く空間がしつらえられている。「おもてなし菓子」も決まったようだ。

入浴後には、道後の外れの住宅街の小さな菓子店の幻の名菓を食したい。昨日は「国民の虎の子の貯金」について書いたが、食べるならやはり「つるの子」だな。よし。これもどこかでさりげなく推奨して、引き寄せてやろう。

というのは、すべて心の中の声だったのに、まずいぞ。全部ブログ画面上に引き寄せられてしまっている。のこのことおびき出されてしまった可能性が濃厚だが、「つるの子」の濃厚なうま味に免じて、ご容赦を願いたい。