出産コメディー映画を性モザイク化せよ

キャッチボールで、相手の動態視力がどれくらいか見るために、ちょっと変化球を試し投げしてみることがある。最近投げたのは、「三島由紀夫と同じく自分にも嗜血癖があって…」という一球。このエッセイの冒頭に、その痕跡が残されている。

すると、さっそく興信所まで使って払拭できたはずのゲイ疑惑が再燃したようだ。他人のセクシュアリティーの実態を知らない人が、なぜだか知った風な口を利きたがるのが、セクシュアリテイーの領域だ。

 その昔、セクシュアリティーの専門書を読み漁った時期があった。読書の行きがかりで、第三波フェミニズムを勉強したりすると、表紙に掲載してもらえるのだから、世界は想像もつかない面白さだ。光栄かつ華麗なる文芸ジャーナリズム・デビューだぜ!

パーク・ライフ (文春文庫)

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 まあ、もちろん、文壇の「マッチョ代表」石原慎太郎の若き日にも、嗜血癖らしきものがあるので、単純すぎる白黒思考は、セクシュアリテイーの領域には適用できない。

知っているだろうか。ひとことでいうと、私たちの脳は「性モザイク脳」なのだ。

 あれあれ。ネットで検索をかけても、有力な情報には辿り着けない。最先端のアカデミシャンの活躍をウォッチするには、図書館の棚の間を走ったほうが良さそうだ。嗚呼、狩猟本能が再覚醒したような気分!  ワン!

奪われし未来 増補改訂版

奪われし未来 増補改訂版

  • 作者: シーアコルボーン,ジョン・ピーターソンマイヤーズ,ダイアンダマノスキ,Theo Colborn,John Peterson Myers,Dianne Dumanoski,長尾力,堀千恵子
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2001/02/01
  • メディア: 単行本
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環境ホルモンの危険性を大々的に警告した上記の本でも、アメリカでの伝説的な薬害事件(DES:エストロゲン類似化学物質)の人体への悪影響について述べられている。

 そこで強調されている生殖関連の機能不全だけでなく、DESは性的指向をも変えてしまった。胎児期に薬剤の影響を受けた女性がレズビアンとなる確率が、約8倍にまで高まったのである。つまり、性的指向は受精時に遺伝子情報として書き込まれているのではなく、環境的要因によって左右されることがわかる。

 さらに注目すべきなのは、ヘテロセクシュアルの男性とホモセクシャルの男性について、脳の各部分を比較したところ、ホモセクシュアルの男性は女性化している部分と、強男性化している部分が混在していることが分かっている。

私たちの脳が「性モザイク脳」である事情を、わかりやすく説明してくれているのがこの新書。 

男と女はなぜ惹きあうのか―「フェロモン」学入門 (中公新書ラクレ)

男と女はなぜ惹きあうのか―「フェロモン」学入門 (中公新書ラクレ)

 

 こうして見てくると、脳は場所によって性ホルモンの受容体の有無、その種類、アロマターゼの活性の高低などにばらつきがあり、その結果、各所で異なるホルモン感受性を示すことがわかる。そのため、部位ごとに男性化、女性化の程度が違っても不思議ではないのだ。

(…)

  男性を好きになるか、女性を好きになるかという性指向は、単にフェロモン情報やそれに類する “感覚系” の性質で決まるのではなく、脳全体に広がる「女性(メス)」的な神経回路、「男性(オス)」的な神経回路のモザイクパターンに依存するのだということも明らかだろう。

 このあたりの「性モザイク脳」の事情を、自分の言葉で例え直すとこうなる。

奇数(=男性)

偶数(=女性)

小数点以下あり(=LGBT) 

 上のようなごくシンプルな認識が、性指向の一般的なイメージだと思う。ところが、実際は計算式の右辺にある数値だけでなく、多くの未知数を含む複雑な左辺を伴っている。

a×b×c×d×…=奇数(=男性)

a×b×c×d×…=偶数(=女性)

a×b×c×d×…=小数点以下あり(=LGBT) 

多項式の一角が変わると、計算結果も変わってしまう。計算結果を決めるのは遺伝子情報だけではない。特に胎児期の環境的要因も大きく影響する。同じ人間の中でも、20歳、40歳、60歳ではホルモンバランスが変わるので、セクシュアリティは変わる。例えれば、同じ偶数でも12から14へ変わってしまう。

私たちがしばしば絶対視しがちなセクシュアリティーは、脆弱で移ろいやすいものだというのが、最新の脳科学からの答えなのだ。

だから、現代思想のさまざまな偉人の中で、「n個の性」を提唱していたドゥルーズは、傑出して筋が良かったことになる。そして、ドゥルージアンを僭称していた自分にも、「流石はオレ」との自讃を贈って、プライベートな空間以外でも、自分で自分を愛せるところを示しておこう!

さて、読む人によっては固い話はここまで。

上の記事で語ったディズニーランドにまつわる都市伝説を、憶えているだろうか。

(…)男の子だと思っていたその子は、彼女の娘だった。よく見ると娘は、服を着替えさせられていたばかりか、短く切られた髪をスプレーで染められ、カラーコンタクトを入れられ、別人のように見せかけられていた。ぐったりしていたのは、何か薬品をかがされたためらしかった。
 後に分かったところでは、その集団は臓器密売組織のメンバーだったという。

この都市伝説に自分が惹かれたのは、「私たちはジェンダーに呪われている」とまで言われるほど、最強の固定観念であるジェンダーを、ひらりと翻す卓抜なプロットを考えたかったからだ。最新の脳科学が教えるように、あるいは、ドゥルーズが提唱しているように、当時から自分は「性は可変的な様態である」という前提で小説を考えていた。

まだ「世界はどうしようもなく坊や」だから、難しいかもしれない。でもいつか、坊やが成長してきたら、LGBTが大活躍するとんでもないコメディー映画を作ろうと思いついていのを、今朝思い出した。

きっかけは見た目が男性の妊婦姿を、ニュースで何度か見かけたことだったと思う。

自分が知らないだけかもしれない。もっと大々的にやってみてはどうだろうか、ゲイ・カップルとレズ・カップルの出産向け合コン! 

スリーメン & ベビー [DVD]

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男性三人の子育てが、コメディー映画のとして人気を取るのなら、ゲイ・カップルとレズ・カップルの合コンから出産までは、脚本家垂涎の面白ポイント満載になるはずだ。

今日、車を運転しながら、ざっとプロットを考えてみた。誰が考えても、これらのポイントは網羅されることになるだろう。ここにメモしておきたい。

  1. ゲイ・カップル=男A+男B レズ・カップル=女A+女B のうち、A>Bのような社会的な力関係があるとする(仕事や容姿や人柄)。
  2. 男Aが男Bを、女Aが女Bを、「LGBT出産合コン」へと誘って、4人がフィーリング・カップルとなる。
  3. 「受精卵製造担当」は男Aと女A。
  4. 受精行為について、それを成功させるために、男A、男B、女A、女Bがそれぞれ自分の性癖を満足させるべく、「○○をしてほしい」「××はだめ」で、喧々諤々の大論争になる。
  5. 受精行為は成功して、女Aは妊娠して、出産する。男の子が生まれる。
  6. 出産の生命の素晴らしさを目の当たりにして、それまで受動的だった男Bと女Bが、思わず恋に落ちてしまう。(一種の結婚式効果)。 
  7. 男A、男B、女A、女Bによる四つどもえの恐ろしい修羅場になっていく。修羅場度合いはこれくらい。 
  8. 結局、数年間は我慢したものの、男Bと女Bは駆け落ちして、共同生活の場からいなくなる。
  9. 男Aと女Aの他人夫婦の唯一の心の慰めが、男の子がすくすく育ってきたこと。男の子はヘテロセクシュアルで、小学校にあがると、近所の女の子を好きになる。
  10. その女の子の家庭が転勤で引っ越すので、男の子が手紙を渡したいと男Aと女Aに話す。自分で私に行きなさいと両親は言う。
  11. 実は、男の子は幼少期に男Bと女Bのカップルの方になついていた。こっそり、直通携帯電話で連絡を取る。
  12. ここからは、6歳の男の子による「はじめてのおつかい」。もともと扮装が得意なLGBTの血が、男Aと女Aをさまざまな人物に変装させる。その途中で、同じく変装して見守りに来た男Bと女Bと、思いがけない再会を果たす。
  13. 男の子は何とか無事に女の子に駅でお別れの手紙を渡す。
  14. 少年少女の純愛ぶりに、LGBT4人は「こういうヘテロセクシュアルの物語を感情移入して体験できてよかった」と涙を流す。
  15. 女の子から男の子へ手紙の返事が来る。返事には「素敵なパパやママが四人もいるから、羨ましかった」と書かれている。
  16. 男Bと女Bの自然妊娠が判明して、祝宴が開かれる。  

ざっと大まかな流れはこんな感じになるはず。脚本家の腕の見せ所は、4. になるだろうか。愛のある自然な受精行為ではないので、うまくいかせるために、4人がいろいろな条件を出し合うところを、思いっきり盛り上げたい。

男A曰く「頭にミニカーを乗せていないと性交できない」とか、莫迦莫迦しい条件ほど面白くなるはず。女Aは子供欲しさにしぶしぶ承諾するが、女Bが「消防車のミニカーは絶対にダメ」とか難癖をつけても面白い。

8. もやり方次第では、かなり盛り上げられる。例えば、男Bを中心にして、男Bの好きなタイプの女の歩き方や話し方を、なぜか男Aと女Aと女Bで競わせる展開にしてはどうだろう。

男Bが出す素っ頓狂なお題(「ゴージャスでマニッシュな女」「新婚旅行から自宅に帰ってきて最初の朝をむかえたときのイイ女」)に対して、男Aと女Aと女Bが必死に知恵を絞って競い合い、男Bは最終的に女Bを選ぶと思いきや、女Aの挙措にすっかり感心してグランプリに選んでしまい、女Bが逆上する展開を観てみたい。

すこし脚本好きらしいことを書いておくと、こういうプロットが数分ですらすら出てくるのは、独創的な才能があるからではなく、二元論を対称的に動かす発想が頭に入っているからだと思う。

1. では「ゲイ 対 レズ」、2.では「優性 対 劣性」の二項対立がある。

1. は 6. のヘテロ・カップル誕生で相殺され、2. は 13. の子供による劣性カップルへの愛着で相殺される。

同じく 16. での 「LGBTヘテロセクシュアル」の憧憬は、17. で「ヘテロセクシュアルLGBT」の憧憬で相殺される。

こういう構造化された対称性の動きを私に教えてくれたのは、レヴィ・ストロース文化人類学やプロップなどの物語論だった。

先に取りかかりたいのは恋愛小説の方だ。そこでうまくヘテロセクシュアルの恋愛の諸相に切り込めたら、次はLGBT文化とコメディーと構造主義を勉強して、この無類に面白くなりそうな「LGBT出産合コン映画」に取り組んでみたい。そう夢想するのが楽しい。

 

 

 

 

(昔カーステレオでよく鳴らしていた曲)