親切をこんがり温かくトーストしよう

現在約600万人いるらしいブログ人口。2003年に自分が始めたとき、日本語ブログは数十だったと思う。早くもブログを開始した人々の中に、アンテナ感度の高い編集者の方を発見して、「テクスト・ジョッキーぶりに期待します!」とコメントをお送りしたことがあった。16年前の話。懐かしくて涙が出そうになる。(お元気ですか? 今年も夏山でラフティングですか?)

今や短時間で矢継ぎ早に書き飛ばす日々を生きているので、まさしくテキスト・ジョッキーになった気分ではある。けれど、ノンジャンルで資料を読み込まずに書いているので、後ろ髪を引かれる思いで、書けてるか書けてるかを振り返ってしまう。という文章が書けてるかどうか確認したら、間違っていた。今日の導入はカクテルで行こうと思っていたのだ。

ピカソはスーズという苦みのある薬草種を好んで飲んでいたらしい。「SUZE」という文字入りの絵画まで残している。アルコールを飲まない種族なので、カクテルにはさほど詳しくない。いまバーに出かけたら、たぶん写真と名前で選んでしまうのではないだろうか。たとえば「ブルームーン」。リンク先の画像は赤紫だが、菫から作ったリキュールを加えて作るので、実際は青紫になることが多いらしい。

(草の根ジャーナリズムが広がっていくさまを、菫に例えた記事)

私が好んで飲むのは、キール・ロワイヤル

口あたりがライトだし、カシス酒が加えられているので、好きな色が「黒、ワインレッド、ゴールド」と答えることの多い自分には、色合いがたまらない。

上のサントリーのデータベースには、どんなカクテルでもあるので、読者それぞれ、好きなカクテルを今のうちに頼んでおくといい。

(「恋の方程式」と「フィッシャー方程式」について書いた記事)

ミックスされるリキュールが多いと、やや飲みにくくなる印象がある。バーテンダーの世界には、「恋の方程式」ならぬ「カクテルの方程式」というものがあるらしく、

  • 3種類ミックス=ベース酒+サブ酒+サブリキッド
  • 2種類ミックス=ベース酒+サブ酒 / ベース酒+サブリキッド

というのが美味なカクテルを算出する方程式らしい。でも、今の忙しさを考えると、当分バーへ行く機会はなさそうだと泣キ入ルばかり。その涙の味にキールを感じてやりすごすことにしよう。大丈夫だぜ、オレ、といま言い聞かせたところだ。

…と、ここまでは上手くカクテルだろうか。急ごう、急ごうと思って書いていると、ついつい話が飛んでしまう癖が自分にはある。急ごう、急ごうと思っているときは、昔まとめ買いしたユニクロの黒のゴルフシャツで出かけてしまうことだってある。とどうでもいい話をつなぎながら、今晩のTJはようやくユニクロへ辿りついたところだ。

数年前、ユニクログラミン銀行と提携したと聞いて、え!とまずは驚きの声をあげた。しかし、よくよく考えてみると、2011年の時点で起業精神豊かなトップリーダーが、ソーシャルビジネスを視野に入れないはずがない。

ソーシャルビジネスであるグラミンユニクロは、バングラデシュの現地コミュニティーと経済の発展を目指しています。グラミンユニクロの服はすべてバングラデシュで生産・販売され、得られた利益のすべては同ビジネスの拡大再生産のために還元されます。

ただし、このソーシャルビジネスを先に牽引しているのは、ユニクロというよりグラミン銀行だと見るべきだろう。グラミン銀行の創設者であるムハマド・ユヌスは世界トップクラスの社会起業家として有名だ。 

貧困のない世界を創る

貧困のない世界を創る

 

では、どれほどバングラデシュ人のムハマドが独創的な発想力の持ち主だったかというと… 必ずしも独創的ではなかった。それはムハマドの罪ではなく、第三世界が独創性ではなく、先に水平性を求めていたというだけの話だったのだ。ムハマドが起こしたのはマイクロファイナンスという貧困層のための銀行融資システムだった。(2006年ノーベル平和賞受賞)。

マイクロファイナンス(小規模金融) とは、貧しい人々に小口の融資や貯蓄などのサービスを提供し、彼らが零細事業の運営に役立て、自立し、貧困から脱出することを目指す金融サービスです。

勘の良い人は、インドで地域医療に取り組んでいるCRHPが、ムハマドのマイクロファイナンスを参考にして、経済的循環をつくっていることき気付くだろう。

 セルフイメージが「ネズミ以下」だったヘルスワーカーたちを、無報酬で働かせていると聞くとCRHPは血も涙もない団体のように聞こえてしまう。しかし、それは大きな間違いだ。給与を支払う資金的余裕がない代わりに、CRHPは彼女たちにマイクロビジネスの方法を教えるのだ。

 実際、日収3ルピーだった或るヘルスワーカーは、ガラス製のブレスレットを売るノウハウを習得してから、日収は50倍になったという。 

ムハマド率いるソーシャル・ビジネス界の巨人グラミン銀行に、ユニークな日本の起業家が丁稚奉公に行っていた事実をつかんで、がぜん興味が湧いてしまった。18才の東大生のとき、グラミン銀行インターンを経験。19歳でアメリカの起業家の卵がごろごろいる西海岸のスタンフォード大に2か月留学。

動物性と植物性の二種類の栄養価を持つミドリムシは、一流の研究者が挑んでも挑んでも跳ね返される「培養困難の壁」で知られていた。同じ壁に何度もぶちあたる姿や、ライブドアの庇護を受けているさなか「事件」が発生して、取引を根こそぎ失うなど、波瀾万丈の起業物語に興味のある方は、ぜひ下記の本に目を通してもらいたい。 

 結論から言うと、世界の研究者たちが束になってもできなかったミドリムシの完全培養に、ユーグレナ社は最終的に成功した。この成功はひょっとしたらノーベル賞級かもしれない。ミドリムシは栄養価がきわめて高いだけでなく、燃料エネルギーとしても転用できることが判明しているからだ。ユーグレナ社の幹部の話に耳を傾けてみよう。

ミドリムシからは、サトウキビなどと同様にバイオ燃料を作り出すことができる。バイオ燃料の利点は、燃焼させても大気中のCO2(二酸化炭素)の総量が理論上は増えないところにある(…)これは「カーボンニュートラル」という考え方で、燃料は燃やすと温暖化の要因となるCO2を排出するが、そのCO2を用いて光合成する植物で燃料を作るためプラスマイナスゼロになるのだ。

ユーグレナ社で永田氏が担う役割の一つが(…)2015年12月にリリースされた「国産バイオジェット・ディーゼル燃料の実用化計画」の立役者なのだ。

この計画は、横浜市千代田化工建設伊藤忠エネクスいすゞ自動車全日本空輸(ANA)の協力のもと、国産バイオ燃料によって、2020年に航空機の有償フライト、およびディーゼルバスの公道走行を行うというもの。この2017年6月、旭硝子京浜工場(横浜市鶴見区)内に実証プラントの建設が着工され、2018年10月31日の完成を予定している。

(…)

2015年の計画発表となったのは、同年に国交省経産省を中心に「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けたバイオジェット燃料の導入までの道筋検討委員会」が発足したことが大きい。 

 

下記のユーグレナ社長からのメッセージも、「地球を変えたい」というスケールの大きな社会貢献意欲にあふれていて、素晴らしいと感じる。若い読者にはぜひとも読んでほしい。

さて、大学の研究室では、ミドリムシは栄養食品や燃料エネルギーとは別の文脈でも研究されている。

ユーグレナ物語①

http://www.obihiro.ac.jp/~rhythms/LifeRh/03/98Talk.html

ユーグレナ物語②

http://www.obihiro.ac.jp/~rhythms/LifeRh/03/02Talk.html#4 

 ひとことでいうと、植物のサーカディアン・リズム(体内時計・生物時計)の実験によく使われるのだ。ソーシャル・ビジネスの父ムハマド・ユヌスと同じく、この分野もノーベル賞を受賞している。

2017年のノーベル生理学・医学賞は,サーカディアン・リズム(体内時計)を生み出す遺伝子とそのメカニズムを発見した米ブランダイス大学のホール(Jeffrey C. Hall)博士とロスバシュ(Michael Rosbash)博士,ロックフェラー大学のヤング(Michael W. Young)博士の3氏に授与されることになりました。

(…)

概日リズムの研究は植物から始まりました。ドイツの生理学者ビュニングは1930年代にマメ科の植物の動きを丹念に計測し,照射する光に変化がなくても,夜になると葉が閉じることを示しました。生物のサーカディアンリズムは光に対する反応ではなく,生物に生来備わっているのではないか。そんな見方が次第に強くなっていきましたが,実際のメカニズムは長く不明のままでした。 

リンク先の記述にあるように、ジョウジョウバエの生物時計は遺伝子レベルで解明された。人間の体内時計を司っている遺伝子はままだ解明されていないが、そこに松果体から分泌されるメラトニンセロトニンが大きく関わっていることはよく知られている。 

「老脳」と心の癒し方

「老脳」と心の癒し方

 

 セロトニン / メラトニン / オキシトシンの研究では、この著者が第一人者なのではないろうか。

有田秀穂が警告するのは、パソコンやスマホの多用によって、睡眠リズムが攪乱されて年齢にかかわらず「老脳」になってしまうこと。自分はセロトニンが分泌されにくい体質なので、自分の言葉でまとめておきたい。

脳を元気にするのには、三つの要素があるそうだ。

  • リズム運動(ウォーキング、ジョギング、スクワット、ヨガ、丹田呼吸法など)
  • 日光浴
  • グルーミング(スキンシップ、おしゃべり、ペットとの戯れなど)

この三つの要素で、セロトニンオキシトシンの分泌が活発になり、それが脳を健やかに保つのだという。

 面白いのは、オキシトシンを分泌させる秘密のテクニックが、最後にこっそり記されているところだ。何とそれは「『ありがとう』が返ってくるのを期待せずに、親切をすること」だというのである!

おそらく「ありがとう」の返礼を期待しての親切行動は、愛情ではなく一種の取引として脳内で処理されるか、「ありがとう」の返礼がなかったときにネガティブな感情を生みやすいからだろう。

この周辺は有田秀穂が監訳をつとめたこの著書と、主張が重なっている。 

「親切」は驚くほど体にいい!

「親切」は驚くほど体にいい!

 

 無償の親切行為をするだけで、脳内の報酬系が作動し、セロトニンオキシトシンが分泌されることが、研究によって明らかになっているという。個人的には、これは途轍もなく大きな発見だと思う。

そして意外なことに、上の記事で言及した文芸批評も切れる知性派作家ヘンリー・ジェイムズが、こんな名言を残しているというのだ。

人生に大切なことが三つある。一に親切、二に親切、三に親切。

この論点も実に興味深いので、今後も追いかけていこうと思う。

さて、多忙もあって、急ゴウ、急ゴート自分を急かしながら書いてきたこの記事も、何とか最終部分まで辿り着くことができた。

簡単にまとめると、今晩の記事の概要はこうなりそうだ。

  1. 貧困層にマイクロ・ビジネスの機会を提供したムハマド・ユヌスは、日本の起業家の心にソーシャル・ビジネスの種も撒いていた。
  2. 彼の「ミドリムシで世界を救うことに決めました」という素晴らしい利他的決意は、完全培養の成功によって、食品分野だけでなくエネルギー分野でも実現しつつある。
  3. ミドリムシは体内時計の研究でも有名だが、人間の体内時計に関係のあるセロトニンオキシトシンは、親切行為によって増やせることがわかっている。

要するに、思いやりの行動や親切心自分の住む世界を変えていくという話だった。

一方、例えばブラック企業での過労に押し潰されて逃げたがっている人には、親切心で自分の世界を変えられるわけがない、という反論の声をあげる人もいそうだ。申し訳ないことに、どうやって逃げだしたらよいか、どこへ逃げ出したらよいか、適切なアドバイスを持ち合わせていない。

ただ、親切心が今晩の記事のテーマだった。少しでもその人の気持ちが楽になるように、とてもユニークな場所に逃げ出したイギリス人の動画を貼っておくことにする。

多忙の「忙」という字は、「心」を「亡」くすと書く。多忙のあまり、急ゴウ、急ゴート自分を急かしながら生きていると、ヤギになってアルプスへ逃げてしまうこともありうる。それが幸福かどうかは、動画をじっくり見て判断してほしい。

このトーマス・トウェイツという人は、イギリスの変わり者の芸術家で、タッチの差でノーベル賞受賞こそ逃したものの、上記のヤギ・プロジェクトで、めでたく2016年のイグ・ノーベル賞を受賞した。

ゼロからトースターづくりをしようとして、結局パンをトーストできなかった珍プロジェクトも無類の面白さだ。 

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

 

よくわからないけれど、乾杯をするのに、そんな大それた大義名分は要らないのではないだろうか。 いっそ、ヤギになったトーマス・トウェイツの代わりに、私たちでトーストしてしまおう。

先ほど注文したカクテルは手元に届いているだろうか。

では… Make a toast!(乾杯!)