遠い都市への大志を抱いて

コカコーラ アンバサ サワーホワイト

コカコーラ アンバサ サワーホワイト

 

 一昨日は会社の後始末に一人で没頭していたので、恐ろしく疲労困憊して、翌日も睡眠4時間しかとれなかったのでフラフラだった。まともに書けなかった。全身の筋肉に乳酸が蓄積しているのが、自分でもわかるくらい。

泥のように眠ったので、今朝は回復。少年時代に愛飲していた乳酸菌系の飲み物をもじっていえば、抱いて眠ったのはアンバサだ。つまりは大使を抱いて眠ったのが功を奏したというわけだ。年をとっても、いつまでも瞳は少年のままなのさ。

昨晩は疲れた筆でこう書いて、早々と打ち切った。

格安の太陽光発電+格安の蓄電池+スマートグリッドや仮想発電所の活用で、世界は一変すると言われている。

 

え? 本当? と目を疑ったのは、それは、ネット回線が従量制のダイヤルアップから、定額使い放題のブロードバンド常時接続に代わるくらいの大変化なのだという。おそらくその未来予測は「限界費用ゼロ」系の資源説と結びついているのだろうが、どこにも本や文献を見つけられなかった。 

いろいろと調べているうちに閃いた。

ユリタコ!

はずれた。どうやらソーラー・シンギュラリティーに関する日本語の本は出版されていないようだ。提唱者タム・ハントの洋書も、大学図書館にも本屋にもない。

困ったな。少年の瞳でネット・サーフィンの波を見つめているうちに、同じく少年の瞳でとんでもない夢を実現してしまった男を見つけた。

ロケットにスポーツカーを乗せて火星に打ち上げたのだ! 何ヲやるかわからない凄い男だ、イーロンは。

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「テスラの総統」イーロン・マスクは自分にとって「世界最強の同級生」。火星へ向かうロケットを最初に想像したとき、たぶんぼくらの思春期に流れていたこの曲が鳴り響いていたのではないだろうか。

格安の太陽光発電×格安の蓄電池×スマートグリッドや仮想発電所の活用で、世界は一変すると言われている。

あ、そういえばイーロン・マスクがそれをやっていたのを思い出した。「何ヲ」やったかというと、詩人のように韻を踏みながら、上の掛け算を「南オ」でやったのだ。

設置するシステムは、発電能力5kWのソーラー発電システム、容量5kW/13.5kWhの「Tesla Powerwall 2」バッテリシステム、スマートメータで構成される。各住宅のシステムは連携するようになっており、余剰電力の売電機能も備える。家庭への設置に必要な費用は、売電による利益で回収する計画。  

上のようなまとめは間違ってはいないが、核心を見えにくくしている嫌いがある。

原則論から語り起こすと、20世紀までは「電気は貯められないもの」「同時に同量を送って使ってもらう」が原則だった。この二つに革命的転換が起きていることが重要なのだ。つまり、ソーラーパネルよりも蓄電池の方が、技術革新性が高いのである。

少し時間を取って電卓を叩いてみた。私の手作用の計算では、費用の内訳は概算でこんな感じだと思う。

  1. 月々の電気代は現行の約70%。
  2. そのうち発送電の電気代は約20%。
  3. ソーラーパネルや蓄電池などの設備投資が50%。
  4. 月々の電気代に50%を上乗せして、設備投資を約20年で回収する計算。

算数のできる人は、あれ? と感じてほしい箇所だ。いくらざっくりした計算だとはいっても、何か数字がおかしくはないだろうか。

実は、アメリカの火力発電コスト(利益抜き)と太陽光発電コストは、ほぼ同じ。正確にいうと、2018年8月現在、太陽光が「やや高い」から「やや安い」へ移行し終わり、「明らかに安い」へ突入しつつある局面だ。

では、電気代が30%安くなるのには、どんな仕掛けがあるのだろう? 

 上の問いに対して、自分なりの答えを考えておいてほしい。

昨晩、執筆が不調だったのは、引っ越しで少年時代のように大使を抱きしめていたせいもあるが、この分野の第一人者の最新作に、自分の欲しかった答えが書いていなかったことが大きい。

世界の51事例から予見する ブロックチェーン×エネルギービジネス

世界の51事例から予見する ブロックチェーン×エネルギービジネス

 

ファーストステップ(2020-2025年)

  1. ビットコインなどの仮想通貨の活用
  2. スマートメーターなどの機器の効率化
  3. ブロックチェーンの活用に関する基礎研究

セカンドステップ(2025-2030年)

  1. EVとの連携
  2. 蓄電池・家電製品などIoT機器との連携
  3. エネルギー企業同士での直接取引

サードステップ(2030年~)

  1. 再生可能エネルギーなど普及に向けた取り組み
  2. 電力の個人間(ピアツーピア)取引
  3. 消費者とエネルギー市場の直接取引 

 これらの項目はすべて正しいものばかりだが、上記の「30%のなぜ?」への焦点化がやや不足している印象がある。

設備投資を加えても、なお電気代が30%安くなるのは、各所の蓄電池をネットワーク化して自動制御することによって、「電気は貯められないもの」「同時に同量を送って使ってもらう」を突き崩したからだ。

おそらく上記の本では「P2P」と「C2C」の二つの概念を重ねすぎたまま、発想しているのではなあいだろうか。「C2C」とは「消費者から消費者へ」の財やサービスの提供や交換を言う。

Skype や Line の電話を可能にしているP2Pは、中央集権的装置を持たない分散ネットワークであるだけでなく、余剰資源を共有するシェアリング・エコノミーの側面も持っているのだ。遊休資産の活用という意味では、UberAirbnb と同じだ。

やや古いが、この事例がわかりやすいかもしれない。

以前GIGAZINEで、アメリカのスタンフォード大学がガンやアルツハイマー病などの難病の原因となるタンパク質を解析するために、世界中の人々がスーパーコンピュータを形成する分散コンピューティングプロジェクト「Folding@Home」を行っており、PS3からも参加できるようになったことを取り上げましたが、今や「Folding@Home」は世界で最も強力な分散コンピューティングネットワークとしてギネス認定されているそうです。

各家庭のPS3のCPUの未稼働部分を集積すると、一種のスーパーコンピュータができるので、それを使って難病の原因であるたんぱく質を解析するプロジェクト。自家使用以外の「余剰能力」をネットワーク上でシェアできるのが、P2Pの大きな特徴なのだ。

上の事例では、PS3の各ユーザは無償のボランティアで参加している。しかし、テスラ流の仮想発電所内では、各家庭の「余剰能力」を自動制御して、他の家庭に融通したり、売電したりできるようになっている。

蓄電池と聞くと、「安い夜間電力で蓄えた電気を昼間の冷暖房に使う」というような狭い視野で考える人が多い。建物単位で小刻みに電力を最適化しようとすると、社会全体の設備投資は莫大な無駄を生んでしまう。蓄電池ネットワーク(≒仮想発電所)は、地域社会スケールの大きな視野でとらえるべきものなのだ。

今や火力より安くなった太陽光や風力発電の最大の敵は、天候の変化による供給の不安定さだ。だから、広域で多数の拠点を持てば持つほど、ネットワーク内での過不足のバランスを取りやすくなる。晴れの地域、雨の地域、強風の地域、無風の地域を、ネットワーク上でバランスするのである。

注意したいのは、太陽光発電による売電だけでなく、蓄電池による充放電も自動制御されるので、その余剰能力をネットワークが使った使用料も各家庭に入るだろうことだ。上の事例で言うと、タンパク質解析チームから、CPUを借りた分だけ、お礼が来るイメージだ。

このような高精度で上下幅の大きい自動制御があるからこそ、仮想発電所では30%も電気代を安くできるというわけだ。

「電気は貯められないもの」「同時に同量を送って使ってもらう」という20世紀の常識を覆して、今世紀の先頭を走っているのは、上の著書ではなぜかセカンドステージに部類されている Sonnen だろう。元々は蓄電池メーカーなので、蓄電池の持つ技術革新性に精通している。

天候に左右される再エネ発電をより多く取り込むために柔軟性が重要であるというのが、いまや世界のエネルギーの常識となっている。

(…)

一般に太陽光発電パネルを設置するだけでは、家庭で必要とする電力のおよそ半分程度しか補えないとされる。

(…)

達成の割合は、蓄電池システムの仕様や蓄電池の性能にもよるが、インターソーラーで競っていた各社の蓄電池システムは、ほとんどが1つの家庭内での蓄電池利用に留まっていた。

 

Sonnen社は、その先を走っている。
同社が昨年の初頭からスタートさせたのが「sonnenCommunity」というサービスである。これは、同社の蓄電池システムを導入した家庭をコミュニティとして繋ぐというコンセプトである。具体的には、蓄電池の充放電を各家庭内だけでなくコミュニティ全体の中で最適化するものである。この広い電力融通の結果、電力需給の過不足がさらに平準化され、100%太陽光だけで参加家庭の需要が賄えるようになるという。 

ではこれが既存の系統電力網に対して、脅威となるかというと、必ずしもそうではない。

In addition to taking power from the nuclear plant, Jasper will soak up excess solar production during midday hours when demand is low.

Sonnen コミュニティーは、原子力発電所からの電力供給だけでなく、需要が少ない正午の時間帯に余ってしまう太陽光発電を吸収してくれる。

かつてこう書いたこともあった。

しかし、発送電分離のようなフェアで薔薇色の発展的未来図は、国が変わらない限り、というより日米原子力協定が変わらない限り、簡単には実現しそうにない。

 

この壁をどう突破するのか。原発事故で安全な故郷や食物を失った人々の悼みをどう引き受けていくのか。それらの問いに対して、自分はひとことで言うと「電民分離」。少しだけ詳しく言うと、自主スマートメーターつきの蓄電池技術をリフォーム市場へ投入して、消費者が夜間電力活用のコストメリットを享受するモデルを思い描いている。太陽光やスターリングエンジンによる自家発電も、もちろん有力だ。  

地域社会に「太陽光発電×蓄電池×AI制御」の仮想発電所が次々にできて、電気料金が下がり続けていく近未来は、「化石燃料と核が絶滅危惧種となる」が持論のタム・ハントの言う通り、確かに明るい未来なのかもしれない。

ちなみに、日本の動きは……。

2016年度は、アグリゲーションコーディネーターのシステム開発、リソースの整備を行いました。

2017年度は、送配電事業者向けのサービスを見据えたACシステムの改良と実証、リソースアグリゲーション事業のビジネスモデルの検討等を実施しました。

2018年度は、将来の需給調整市場を見据えたACシステムの改良と実証を行うとともに、配電系統の安定化に関する検討等を実施します。

日本でも経産省が実証事業を行おうとはしているが、2018年は「システムの安定化」(ではなく、その検討)が議題らしい。不作為責任を隠すためのポーズに見えなくもない。本格的な普及はいつになるのだろう。日米原子力協定の破棄なしで、普及は可能なのだろうか。

上の記事でドイツの Sonnen の快進撃を伝えながら、北村和也は最後にふとこうつぶやく。

[引用者注: Sonnen Communityでは] すでに数千規模のシステム購入者がコミュニティに参加している。また、そのシステム運用には、ブロックチェーンの理論が使用されている。

 

さて、そのような使用、つまり、充放電の繰り返しに耐える蓄電池を求めた同社が使っているのは、ソニーの製品である。日本人として悪い気はしないが、日本がシステムやビジネスモデルを構築した側に回っていない点では大変残念である。 

いつもと同じ溜息が出てしまう。どの分野であれ、業界の最先端にいる人は、同じような危機を口にしている。このブログで何度も言及してきた内容を、短くまとめておこう。

日本はモノづくりで優れたモノ体験を提供するのは得意だが、そこに革新的なサービスを交えてコト体験を提供するのは苦手だ。そして、たぶんそれはクリティカル・シンキングが弱いからだ。

今晩こそは、たくさん冗談を書こうと思ったのに、人助けが好きなものだから、ついついタメになる話を書いてしまった。最後もタメのために、つまりは同級生のために、思いつきを披露することにしたい。

どうやらイーロン・マスクは、こちらが嬉々として冗談を言うのが憚られるような危機にあるらしい。危機というよりは後退というべきか。

 テスラに買収されて以降、ソーラーシティは1軒ごとに太陽光パネルをリースするのではなく、テスラのショールームで顧客にパネルを販売するやり方に転換した。リースの場合はソーラーシティがキャッシュを負担する必要があり、そのために外部投資家から資金を調達していた。だが太陽光パネルを販売するとなれば、顧客が現金で購入するかローンを組んで払うことになる。テスラはこの新たな方針がキャッシュフローを生みだすことで、外部投資家への依存度を低下させられると期待している。

人員削減や施設閉鎖を受けて、テスラの太陽光事業の将来性を疑問視する声も高まっている。フォレスター・リサーチのアナリスト、フランク・ジレット氏は「結果として、太陽光発電事業について戦略なしだ、と言っているのと同じだ。ソーラーシティー買収はひどい有様になっている」と述べた。

おそらくイーロンの周囲には、有能で情熱あふれる「片腕」がごろごろいるにちがいないが、同級生のよしみで「エア片腕」を気取って、ヒントのようなものを書きつけることを許して欲しい。『Rocket』のリズム隊のドラマーのように、事故で片腕を失ったとしても、不屈の闘志で輝くドラム・プレイだってあるのだ。

(両腕で叩くことだってできる)

1. 太陽光発電の電力価格が安くなったら、顧客に還元すると約束する

太陽光発電の電力価格はこれからも下がり続け、2018-2020で半減するとも言われている。電力価格の低下分を迅速かつ正確に顧客に還元すると約束し、自社ネットワークにより安い設備投資の顧客をどんどん呼び込む。買電側の顧客を喜ばせる。

2. 売電した金額の一部を優遇積み立てしてもらう

しかし、売電側の顧客にとっては電力価格の低下は面白くない現象だ。将来的には売電収入がどんどん少なくなっていくことになる。そこでブロックチェーン技術を使って、税制の境界線(それを越えると税金が高くなる一線)から上の金額を積み立ててもらい、新規顧客の設備投資に貸し出し、長期的に利息付きで回収するスキームを作る。

3. 顧客に顧客を紹介してもらい、発電実績に応じて紹介料を還元する

設備投資額が同じなら、ネットワークの中に気候的に有利な生産性の高い発電設備を多く抱えることが重要になる。訪問販売員による個別の導入をやめたのなら、友人紹介を通じて、より発電実績の高い新規顧客の紹介には、より高いコミッションを払うシステムにすると、好循環が回りそう。

 

太陽光発電×蓄電池は、その組み合わせ単体では儲からない商品だ。住宅の中の家電機器と IoT でつながってはじめて、その家のプラットホームを手に入れたことになり、そこが収益可能域になる。顧客と未来像を共有して、顧客にキャッシュフローと販売促進を助けてもらうことが、システムの自律的な巨大化の鍵になると思う。

ちょっとした思いつきなので、すでに実現されているか、すでに会議でボツになったものばかりだろう。イロン反論オブジェクションのかけらのひとつだと思って、イーロンを知る誰かに届くと、ちょっと嬉しい。

……何の話をしていたんだっけ。そうだった。一昨日の会社の後始末で乳酸菌がたまった話だった。あれはぼくの人生の後退なのだろうか。よくわからないな。人生の新しい局面に辿り着くべく、東京へ行こうと思って「ニュー参勤交代」を目指していたのに。

わからないまま、今晩も少年の瞳を瞑って、大志を抱いて、ひとり眠ろうと思う。