2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

頑張Tを着た魂

人々が豊かでサステイナブルな生活を送るために、とりわけ日本が高止まりしているフードマイレージを減らしていこうという運動がある。何となく賛同しているつもりの自分は、「地産地消」の食事が多くなるよう心がけていて、下記で触れたホテルに滞在したと…

Perfect Day は月曜日

チェット・ベイカー、イーディー・セジウィック、シド・バレット…。 自分は違法ドラッグに手を染めたことはないが、麻薬に耽溺する人間にひどく惹かれてしまうのがなぜなのか、まだ答えを出せずにいる。 答えはわからなくとも、「精神疾患のある女性に、男た…

真珠の痛みを人は知らない

tabularasa.hatenadiary.jp ここで、アンビエントミュージックについてこう書いた。 引き続きフーコーに倣って「系譜学」的な観点に立てば、アンビエント・ミュージックの起源はエリック・サティの「家具としての音楽」になるだろう。室内環境と密接に関わる…

燃え落ちつつある戦後民主主義

久しぶりに本を読む時間ができるかもしれないという予感がしたので、午前中は図書館めぐり。読みたい本を渉猟していた。地元の公共図書館の本揃えはかなり厳しく、自分の読みたい本だけが置かれていないような錯覚さえしてしまう。 ところが、どうやら時間が…

水を捧げる街

年下の親友に脳外科医がいて、ときどき部外者の知らない医療現場の話を聞かせてくれる。 言い知れない感動を覚えて、ほとんど聞いたままを小説に書き込んだのが、この挿話。 研修医として勤務したのが救急病院だったので、路彦は何度も患者の死亡に立ち会っ…

きみの階段は風の囁きの中に

巷では、石原慎太郎が推進した築地から豊洲への卸売市場の移転に、壁が立ちはだかっているのだとか。そういえば、築地と豊洲の間には、昔から「壁」が立ちはだかることがあったものな、という感慨が生まれた。 三島由紀夫は1959年に書いた『鏡子の家』の冒頭…

アスファルトを剥がせば焦土

tabularasa.hatenadiary.jp ここでふと呟いたランニングの掛け声が、映画やドラマになったのを思い出した。 がんばっていきまっしょい [DVD] 出版社/メーカー: ポニーキャニオン 発売日: 2005/03/02 メディア: DVD 購入: 1人 クリック: 21回 この商品を含む…

カフカの「実真」から「可能性の中心」へ

「時間と空間について私たちが固定観念を抱いている」とする時空の哲学が数多く存在する。 時空の哲学 - Wikipedia 昨晩このように書いた部分が、作家論的批評が好きな人々の不興を買ってしまったようだ。 カフカの『変身』は、作家の伝記的事実に照らせば、…

三島由紀夫の彼方へ

自分を理解している文芸評論家として、生前の三島はこの人の名前を挙げていた。全集の二度の編纂に携わった田中美代子が、三島研究の第一人者であることは疑いない。 三島由紀夫 神の影法師 作者: 田中美代子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2006/10/28 メ…

麒麟が日本に降り立つ日を待ちながら

「キリン」と書くと、誰もがあの首の長いアフリカの偶蹄目を思い出すことだろう。アルコール好きなら瓶ビールが思い浮かぶかもしれない。 www.kirin.co.jp 同じく背丈は高いが、これから話し始める「棄林」とは管理放棄林のこと。田畑が荒れれば耕作放棄地、…

海峡が夕暮れた後

巷のニュース番組では、王子様の話や獣医学部の話で持ちきりらしい。 獣のような美しきプリンスへの嗜好を剥き出しにした処女作を書いたのは、ジャン・ジュネだった。牢獄で書き上げ、そののち再投獄されると、その才能に惚れぬいたジャン・コクトーが減刑の…

メキシコ帰りの魅死魔幽鬼夫

あれからもう10年以上が過ぎたのか、と思わず溜息が洩れてしまうが、溜息であれ何であれ、呼吸しつづけて生き延びる最低限の義務は果たしてきたので、次の一呼吸をふっと吐いて、2005年に自分がこんな言葉を吐いた記録が残っていると書き始めることにする。 …

詩人の死後を生きる透き通る馬たちよ

tabularasa.hatenadiary.jp ここで未曽有の詩人天沢退二郎を紹介した。自分が偏愛を寄せている『夜中から朝へ』前後の彼は、同朋の詩人にもとんでもないオマージュを送っている。 大岡信の口はいつも爽やかな唾が填まっていて シュッシュッと的確に宙を飛び…

Forget-me-not

環状4号線というとピンとこないが、不忍通りと書けばどの道か思い浮かぶ人も多いだろう。学生時代、その不忍通りを、終点の目白台から護国寺近くまでよく走ったことは、ここに書いた。 tabularasa.hatenadiary.jp 目白台から護国寺に向けての緩やかな下り坂…

アンビエント小説、幽霊能、メキシコ転回

tabularasa.hatenadiary.jp 上でアンビエントミュージックの話をしたとき、その昔聞き込んだ名盤のことを思い出した。 www.youtube.com 音楽だけでなく、「アンビエント小説」と言うのもありそうだなという発想を喚起してくれたのが、この小説。作者自身が小…

月の光でできる虹

最近、恋愛小説のことを考えている時間が長い。 月の光で虹ができるとしたら、その虹のように美しい女性 恋愛相手の女性を形容する文脈で、これまでに何度か聞いたことがある歯の浮くような常套的比喩だ。その二度と会えそうにない儚さや薄幸な美しさが、あ…

絞殺コンプラドールの国

tabularasa.hatenadiary.jp ここで『アルファヴィル』に触れたが、ゴダール監督という人物は、天才であると同時にきわめてエキセントリックな人でもあるらしい。青年時代は仲間の財布から小銭をくすねる「こそ泥」だったらしいし、アポイントを取るのに考え…

消されたものと呼び戻すべきもの

社会的優越性に富んだ自分の学歴や所属ゼミを顕示したがる「大物」に時々遭遇することがあって、自分にはそんな真似はとてもできないなと感じる。学歴なんてたかだか未成年のときの偏差値測定型の学力でしかないし、所属していたゼミを公言すれば、学恩ある…

絞首台特急がすぎたあとの風の静謐

少年時代に天沢退二郎の「60年代詩」を愛誦した人間が、自分以外にいるのかどうかは知らない。希少な存在かもしれないが、きわめて短い一時期、あの童話の「光車」のごとく美しく禍々しく輝いていた天沢の詩の方が、希少な空前絶後の存在だった。 失神を繋い…

小説「新生」

あなたに、とそばにいるあなたへ呼びかけの声を発しているのに、遠方から遅れて届いた手紙の書き出しのようなそらぞらしさが漂うのは、きっとあなたがそばで深々と眠っているからでしょう。真夜中というには夜明けに近すぎる宵闇に浸ったまま、あなたとわた…

砂を噛む螢たち

tabularasa.hatenadiary.jp ここで「仲間」なんていうナイーブな言葉を使ったのは迂闊だっただろうか。 出身高校はとりわけ団結力が強く情熱の度合いが熱い高校だったが、全国から集まった私大の教室でも、最初の半年くらいはそのような未成年らしい共生感の…

道を歩けば「偉大な犬」に

「道」関係の雑誌と言うべきか、最大手のロードサービス会社が毎月送ってくる雑誌を片手間に読み飛ばしていて、お、と二度見をしてしまったのは、こんな一節に目が留まったから。 やはり車にナビは絶対に必要ですね。夫は文学者で詩人なので、地図を渡してナ…

少年Aと同じ夜のもとで

90年代の終わりに、関西にいる或る女の子から、東京にいる自分に夕刻電話がかかってきた。別れてからも時々連絡を取り合う仲だったから、電話自体は珍しくない。驚いたのは、彼女の切迫した声音で、しかも内容が特異だった。 いま会社に得体の知れない脅迫状…

イタリアの椅子に酔わされて

今朝起きてから、あなたの身体が一番多く接触した固体は何だろうか? たいていの人は衣服が最初に来て、次に来るのが、椅子ということになるだろう。椅子の歴史を調べる機会が偶然過去にあったので、「椅子史」における2つのエポックメイキングな作品を学ぶ…

密室にはナイフよりも愛を

tabularasa.hatenadiary.jp ここで書いた少年探偵シリーズの話。そこでは名作の45巻に言及したが、最終巻の46巻の内容も、期待外れだったせいで却ってうっすらと覚えている。三角柱型の奇妙な洋館でエレベーター密室殺人が起こる話だったと思う。 エレベータ…

太平洋の飛び石3つ

人は自己正当化の欲求からはなかなか逃れにくいもので、人は回顧するとき、自分の歩んできた人生を「あれで正しかったんだ」と結論づけたがったり、それを証明するのに情熱を燃やしたりもする。 そういった自己正当化とはまったく別の物語だと思って聞いてほ…

最後の皿が洗い終えられるとき

いくつもの挿話を、それぞれの重心を揃えて積み重ねて、或る高みに達する種類の小説がある。10枚くらいの同じ種類の皿が、卓上にきれいに積み重なっているさまをイメージしてほしい。 約20年ぶりに再読したこの小説は、それとは違って、いろいろな種類の皿を…

見るまえに跳べ

(2019.8.8.注: 難局にある純文学について、「純文学作家ならこれくらいのことは考えていますよね?」と挨拶代わりの難題提示(①)、そのあと「純文学の可能性の中心」が①の尖鋭化と多メディア横断(②)の二つにあるというマッピングの下で、自分は②へ跳躍…

「私たちは裸、いつも孤独」

日本各地のGWの渋滞はいかほどだろうか。或る小説の、特にどうということのない渋滞の場面。 今いる車線がさっきから滞っている理由が見えてきた。第一京浜の長大な渋滞から逃れようとする車が、右折車線に殺到しているのである。右折を待つ車は、後ろの追い…

春を歌にして

春がオープンカーの季節というのは、私には嘘に聞こえる。冬の寒さがゆるんで春が来たと思ったその日に幌を開けると、たいてい風邪を引いてしまうものだ。昼間に幌を開けると助手席の女の子が紫外線を浴びてしまうし、交通量が多いので排気ガスにも晒されや…