緑の扉を開ければ

溺れる者がつかみたくなるのが藁、深夜の仕事中にふとつかみたくなるのが、サンドイッチ。幸いにも、まだ後者しかつかんがだことないが、何だかいつのまにか自分が溺れているような気がするのは、気のせいだろうか。

約10年前まで東京で暮らしていたので、多少の土地勘はある。しかし、10年ひと昔。美味しそうなサンドイッチの名店リストは、知らない店ばかりだ。唯一14番目の bamboo を訪れたことはあるが、美味なサンドイッチのお店だったというイメージはない。

その昔、エルメスでサンドイッチに偶然ありついたように、どこかの扉を開ければ、秘密パーティーが開かれていて、深夜の空腹な訪問者に飲食を饗してもらえるかもしれない。そんなささやかな希望に賭けて、今まで開けたことのない扉をドキドキしながら開けてみた。

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http://setsubinoblog.seesaa.net/article/22962977.html

こんな感じだった。

やれやれ、残念だ。今晩は上流階級向けの立食パーティーはやっていないみたいだ。またいつかの晩に逢おう。

どうしていまサンドイッチの気分なのか。どこかで耳にした「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」というお洒落っぽい名前のサンドイッチを、ぜひ一度食べてみたくなったのだ。アイルランド風かつオランダ風のサンドイッチは、どんな具が入っているのだろう?  しかも値段が普通のサンドイッチの10分の1以下というのは、本当なのだろうか?

 "Double Irish With a Dutch Sandwich"という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。これは、アイッシュティーの親戚でもなんでもなく、食べられるものではありません。巨大な欧米の多国籍企業が戦略的に行っている租税回避のスキームをいいます。

 2010から2013年にかけて、イギリスやアメリカの議会での、グーグル、アマゾン、スターバックスマイクロソフト、アップルに対する公聴会を機に、国際的租税回避の問題が、新聞の国際経済面で大きな見出しで取り上げられるようになりました。  

 上のサイトでは、きちんとサインドイッチの画像まで貼り込んで、わかりやすい説明をしてくれている。付け加えると、2015年にはこの手のサンドイッチを多国籍企業が好きなだけパクつくのを禁止する法案が、イギリスで検討され始めた。

イギリスで新設される税制は、正しくは「Diverted Profit Tax(迂回された利益に課税するの意味)」と呼ばれ、企業が不適切に低税率国に資本を移転したと政府が判断した場合に、税金を課すとされる。

グローバリズムがもたらした格差の大きさを実感してもらうには、この二人に登場してもらうのが良さそうだ。マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツと、投資家のウォーレン・バフェット。1%秘密クラブの仲間同士、楽しそうに歓談している。

 バフェットのポートフォリオに入っている銘柄は、投資家たちが群がる研究ターゲットとなっており、そこから何冊も本が生まれている。ビジョネリー泉田も研究に余念がなかった。

しかし、本当の問題は、ソファーに腰かけたこの金持ちコンビの資産合計額が、アメリカ国民を所得の低い順に1億2000万人並べて作ったチームの資産合計額と同じことだ。

 とんでもない格差を論じるのに、流行のピケティを引くのも悪くないが、極端な経済格差は金持ちにとっても貧乏人にとっても不幸なんだぜ、と言い切れると、貧困撲滅の話を少しだけ早回しできるような気がする。 

 OECDは、所得格差が縮小している国は拡大している国より速く成長すると分析。経済成長にとって最大の問題は、下位中間層および貧困世帯とそれ以外の社会層との格差が拡大していることだとし、重要なのは教育で、格差が成長を損なう主な要因は貧困層の教育不足だと指摘している。 

トリクル・ダウンを信奉する新自由主義的発想では、経済成長と社会福祉政策はトレードオフだとこれまで考えられてきた。しかしIMF国際通貨基金)は、医療や教育機会の拡大などの社会福祉政策の充実による国民経済全体の底上げも経済成長に重要な役割を果たすことを公表している。この主張によれば、社会福祉政策の充実によっても経済は成長する。

<税金逃れ>の衝撃 国家を蝕む脱法者たち (講談社現代新書)

<税金逃れ>の衝撃 国家を蝕む脱法者たち (講談社現代新書)

 

(深見浩一郎が言及しているIMFのレポートはこちら)。

では、どうやって格差縮小の財源を捻出するべきなのか。それは誰が考えたって、租税回避を許容しないグローバル税制を確立するのが一番の正論なのだが、これは相当に難しい「n 筋縄」で、簡単には妙案を編み出せそうにない。   

不平等をめぐる戦争 グローバル税制は可能か? (集英社新書)

不平等をめぐる戦争 グローバル税制は可能か? (集英社新書)

 

 この分野の近刊では、3つの方向性が示されている。自分の言葉で言い直すとこんな感じだ。

  1. 課税情報共有によるタックス・ヘイブン対策
  2. 革新的な反グローバリズム税(地球炭素税、金融取引税、武器取引税など)
  3. 課税能力のある世界政府の樹立

中高生以上に向けたわかりやすい類書も出しているこの分野第一人者の上村雄彦のことだ。衆目は安んじてこの主張を真っ当だと信じそうだが、自分も含めたネットの覚醒民は、ここまで読んだところでこの新書を伏せて、本棚の前へと歩みを進めてしまうかもしれない。

 地球温暖化が進んでいるので、温暖化対策として世界各国に炭素税をかけねばならず、そのための世界政府が必要だ。

 申し上げにくいのですが… 2008年で国民の約90%! 世界で一番「地球温暖化人為説」を軽信している日本人の皆さん、主流メディアの情報を鵜呑みにしすぎではありませんか? 状況はむしろ逆なのです。正解はコチラ。

1%が支配する世界政府を樹立するために、温暖化対策として世界各国に炭素税をかけねばならないのを装って、地球温暖化を捏造しているのだ!

日本の常識は世界の非常識。トレンドの転換点は2009年のクライメート・ゲート事件だった。

  • 2013年、地球温暖化人為拙を信じているアメリカ国民は24%。
  • 2013年、オーストラリアの気候変動・エネルギー省廃止。翌年、炭素税廃止。
  • 2015年、スイスの炭素税導入の国民投票は賛成が8反対が92。 

 グローバル税制を何とか推し進めようとしている反グローバリストの上村雄彦は、もちろん1%のグローバリストたちに世界政府を作らせてはいけないことを知悉している。子供向けにわかりやすくこう語っている。

 現在の地球社会は、1%の強者や強国によって運営され、残りの99%の大多数の弱者や小国の意見はあまり反映されない仕組みになっています。このような地球社会が、グローバル・タックスの導入によって、もっと民主的な運営に変わる可能性があります。 

世界の富を再分配する30の方法

世界の富を再分配する30の方法

 

日本一国ですら、ほぼそうであることが間違いない不正選挙によって1%グローバリストの手先たちによって、悲しくなるほど蹂躙されている国に住んでいるので、99%のための世界政府樹立への道は、自分の視力では遠望できない感じがしてしまう。

けれど、他人の話はよく聞かなければならないというのは、やはり本当だ。

上村雄彦は「99%のための世界政府」樹立の手前の道筋に、現実的な施策をいくつも記述している。そのうち管見の限りで有望なものが3つもある。いずれも稼働中もしくは稼働一歩手前のものばかりだ。

1つ目は、BEPSプロジェクト。

ひとことで言うと、冒頭で紹介した「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」のようなものを、いかにつまみ食いさせないかというOECDの国際プロジェクトだ。

個人的に重要だと思うのは、例えば Amazon の日本での商行為に課税ができない実態を、PE(恒久的施設)の定義見直しで、課税可能にしようという動き。OECD発で課税対象にできれば、ネット上の恐竜たちに食い荒らされている国内産業に、明日の希望の光が tommorow だろう。

2つ目は「金融取引税」。半世紀近く前にこれを提唱したジェームズ・トービンに、先見の明があったことが今世紀に入って証明された。

アカデミー賞受賞ドキュメンタリー映画『インサイド・ジョブ』における、1%グローバリストたちによる「カジノ資本主義」の乱痴気騒ぎの後始末で、世界中の中産階級や貧しい人々に皺寄せが及んだのは記憶に新しい。

 ところが、リーマン・ショックでの勝ち組だったゴールドマン・サックス証券の証券トレーダーは、全盛期の600人から現在は2人までに減ってしまったらしい。リーマン・ショックから約10年。ここでも人工知能が幅を利かせ始めた。

とりわけ、ロボットによる超高速超高頻度取引が世界各国の証券取引所へ波及しつつあることの影響は小さくない。株式市場は、高額の人工知能ロボットを所有できる一部の投資家だけが勝てる「客の来ないしょっぱい賭場」に頽落しつつある。EUで導入されようとしている金融取引税は、資産を持たない99%、資産を持っている99%の双方に効用のある施策と言えるだろう。

 

3つ目は、グローバルな税の自動情報交換だ。

すでにアメリカでは、FACTAという新たなタックス・ヘイブン対策法が施行されている。

(リンク先を間違ってしまった。この月刊誌編集長は確か藤原伊織と親しかったような記憶がある) 

 FATCAとは、米国で2013年から施行されることになっている外国口座税務コンプライアンス法の呼称で、米国人の外国金融機関を利用した租税回避行為を防止するため、米国外金融機関に顧客口座の報告義務を課す税制であり、日本の金融機関等の実務にも大きく関連する税制です。 

要するに、米国本拠の企業について海外での口座情報(経営資金の動き)を把握しようとする試みだが、この片務的なFACTAを皮切りに、2018年までに、日本を含む世界の94か国が互恵的に自動情報交換する枠組みが動き出している。

もちろん日本の専門家たちもキャッチアップしている。

さて、大事なのはここからだ。変動の激しい未来を、どのように自分の頭で予測して、自分が生き残っていくか、自分を含む共同体が生き残っていけるよう微力を尽くすのか、といういつもの問いを考えてみたい。

 ほとんど不可能に見えるタックス・ヘイブン対策だが、現在進められている各種の国際協調的な対策に、人工知能の進化を掛け算すれば、決して絶望的な状況ではないように感じられる。 

Amazon 購入商品を無人店舗 Amazon Go で受け取れる、なんていうありふれた話ではない。話は消費者の生活の利便性向上にとどまらないのだ。顧客とのインタラクティブ・フェイス(双方向性の高まったインターフェイスのこと。いま造語した)をどれだけ拡大できるかに勝負をかけられて、上記のような生鮮食品販売に Amazon が進出した場合、Amazon がさらに取引業者の業種を拡大できることがポイントだと、泉田良輔は言う。

Amazonクラウド上で各社の経理処理を提供した場合、仕入れや売上等の経営データが集約され、人工知能により(かつてトヨタの誇った)ジャスト・イン・システムをいともたやすく実現してしまう。当然のことながら、設備投資や資金繰りに対して自動ローン機能が付与されることだろう。

入店時のドア開閉も自動、顧客認識も自動、決済も自動、品揃え選択も自動。すべて、自動、自動、自動だ。  

上記で描いた近未来図は、それほど難なく、もう少し先へ展開可能だ。コンビニの背後にあった仕入れ先各社、仕入れ先各社の経理システムと自動融資。それだけでなく、自会計ソフトを通じた決算作業(税理士機能)と、その納税が適正であるかの確認作業(税務署機能)までを、民間企業と国家の人工知能が「自動情報交換」することで実現可能だ。

 となれば、自社の経理情報を一定の条件のもとで国税ロボットに連結することで、国の税務コストの低減と納税の完全な適正化という二つの大きなメリットを、国は同時に実現することができる。おそらくデメリットはほとんどない。

となれば、当然のこと、国税庁は「ロボット査察機能つき自動納税申告」をする企業に対して、低減税率を適用して、この恩恵豊かな制度普及を後押しすることになるだろう。組織には自己保存の法則が働くので、すぐには現在ある国税庁の運営資源は激減せず、その多くが非自動納税企業による脱税や課税逃れの取り締まりに向けられるだろう。私たちは、すでに税理士が消えた国を知っている。

あなたは、いつも夢見がちね。

苦笑を湛えて、そんな声をかけてくる読者がいるような気がする。いや、自分だっていつまでも「夢見るシャンソン人形」ではいられないし、そもそもシャンソン人形だったことは一度もなかった。

どこかの権威の言いなりになって、人形のような人生を送るのは嫌だ。

人間だもの。

と呟いたあとに、色紙に揮毫を乞われたときに書く言葉を考えていた。

好 き な フ ル ー ツ は く だ も の 。

 駄目だ。考え直そう。「自同律の不快」を唱えた埴谷雄高が怒り出しそうだから。

結局何を言いたいかというと、どの国民であれ、何らかの生産活動に従事して得られた「果実」を貧しい人々へ再分配する公正の課税原則が、偶発的にテクノロジーの指数関数的な大変化の直前にいる私たちの「今、ここ」で、多くの人々の希望や願いとともに、実現しそうな可能性が急速に高まっていることだ。私たちがこの自負代に生きているという事実は、確かに偶発的なことだ。しかし、その偶然を最大限の希望に結びつける生き方を肯定できる力は、多くの人々の心の中に眠っているのではないだろうか。人間だもの。

中学一年生の頃、オー・ヘンリーの「緑の扉」という短編が大好きだった。凄いぜ、クリェイティブ・コモンズ。今ではネットで読めるみたいだ。

冒険心あふれるピアノセールスマンは、立ち止まって考えた。それから、道を横断して反対側に行き、黒人よりも前まで逆戻りしてから、再び道を横断し、人の流れの中に戻った。今度は黒人を気にするそぶりを見せないようにしつつ、自分に差し出されたチラシを無造作に受け取る。一〇歩歩いて、彼はチラシを確かめた。そこには、最初のチラシにあったのと同じ書体で、「緑の扉」と書かれていた。路上には、彼の前や後ろを歩く歩行者が落としたチラシが四枚ほどあった。何も書かれていない面が上になっている。ルドルフは全てひっくり返して確かめた。どのチラシにも、「歯科医院」という例の文句が印刷されていた。

(…)

概観を終えたルドルフは、ビルに踏み込み、石の階段を力強く駆け上がった。さらにカーペットの階段を二階分のぼったところで、足を止めた。廊下は、二つのガス灯の青白い光でほのかに照らされていた。光源の一つは遠く右側に、もう一つはもっと近く、彼の左側にある。彼は近いほうの光に眼を向けた。その弱々しい光の中には、緑色の扉があった。一瞬、彼は躊躇した。しかし、チラシ配りのアフリカ人の傲慢な冷笑が脳裏に浮かぶと、まっすぐに緑の扉へと歩き、その扉をノックした。

(…)

内側からかすかな音が聞こえ、扉はゆっくりと開いた。そこには、まだ二十歳にならないくらいの少女が、白い顔でふらつきながら立っていた。彼女はドアノブを放すと、その手をこちらに伸ばしながら、そのまま弱々しく倒れかかってきた。ルドルフは彼女を抱きとめて、壁のそばに置かれた色あせたソファーに寝かせた。彼はドアを閉め、明滅するガス灯の光で照らされる室内を素早く見回した。片付いてはいるが、とても貧しい生活をしているようだ。

(…)

「気絶してたのかな…」彼女は弱々しく言った。「そりゃそうだよね。三日間も何も食べなかったら、当たり前だわ」

オー・ヘンリ 石波杏訳 緑の扉 The Green Door

自分にとって「緑」は、この短編のような色だという刷り込みがあるみたいだ。つまりは、偶然のきっかけで、誰か困っている人を助ける羽目に陥って、それが自分の人に決定的に豊かな実りをもたらしてくれるような。

「緑」色の意味は、人それぞれ異なる。誰かが空腹のあまり思わず開けた未知の扉の先に、新鮮な食べ物の載った食卓があると良いと思う。

Table for Two は、きっと同じような願いを持った人々によって営まれている老舗のソーシャル・ビジネスなのにちがいない。

アフリカの子どもたちに給食を TABLE FOR TWO公式サイト

 

 

上記の短編では、まずは紅茶から始まった)

Oh, honey
Picture me upon your knee
With tea for two and two for tea
Just me for you and you for me alone

 

Nobody near us to see us or hear us
No friends or relations on weekend vacations
We won't have it known, dear
That we own a telephone, dear

 

Day will break and I'll awake
And start to bake a sugar cake
For you to take, for all the boys to see
(Oh, darling)

 

We will raise a family
A boy for you and a girl for me
Can't you see how happy we will be?

 

Picture you upon my knee
Tea for two and two for tea
Me for you and you for me alone

 

Nobody near us to see us or hear us
No friends or relations on weekend vacations
We won't have it known, dear
That we own a telephone, dear

 

Day will break and I'm gonna wake
And start to bake a sugar cake
For you to take, for all the boys to see

 

We will raise a family
A boy for you and a girl for me
Oh, can't you see how happy we will be?
(How happy we will be?)