「ベッカムのそりこみ」のあるクノイチ

ベッカムはどうして、リプトンのアイスティーを飲むとスイッチが入って、東京のホテルの屋上でクノイチと踊ってしまうのだろう?

誰もが抱くにちがいないこの疑問から、記事は始まる。

よく見ると、踊っているのはベッカムではなく、ヒュー・ジャックマンだった。生え際のソリコミ部分のかたちが違うので気が付いた。ベッカムは「M字後退」が全然ないのだ。

それにしても苦笑してしまうのは、普通のアメリカ人にとって、日本のイメージがいまだに『キル・ビル』どまりらしいことだ。クノイチと踊る場面の演出はタランティーノ全開だ。背景にある「映画館映画」と「ングセン ショッピングセンター」いう看板が、日本人にはどう考えても「ン解せん」。

深作欣二好きのタランティーノが、こっそり美輪明宏をチェックして『キル・ビル』を撮ったことは、この記事に書いた。

 この有名な「軍団」の登場場面で一群を率いて歩いてくる白装束の女を、タランティーノ監督は、美輪明宏にインスパイアされて造型したらしい。正確には、名字を「美輪」に代えるようにとの霊感が降りてくる前の「丸山」明宏による『黒蜥蜴』。原作は江戸川乱歩、脚本は三島由紀夫、監督はタランティーノが偏愛を寄せる深作欣二。豪華すぎる顔ぶれが勢揃いした探偵映画の名作だ。 

布袋寅泰による「キル・ビルのテーマ」は、個人的には下の曲と並んで、アクション「映画館映画」のテーマ曲の双璧をなす。調子のいいときは、カーステレオで鳴らして、スイッチを入れるのに使う曲だ。

あいにく今朝は体調が優れなかった。起き上がってキッチンに立つと、喉を鳴らして水を飲んだ。60年代の流行語でいうと、「C調」じゃない感じだ。

ネットサーフィンをしていると、「C調」じゃないのは自分だけじゃないらしく、本日現在、横浜DeNAベイスターズも5位に沈んでいる。

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昨晩は、脳におけるニューロン中心主義が、「グリア細胞的転回」をまわった歴史的転換について書いた。

今晩は、DNA決定論がとうとう王座から転がり落ちつつある様子をデッサンしていこうと思う。

まずは、DNAの手下だと思われていたRNAが「下剋上してやった」と息巻いている件を、皆様に報告しておかなければならない。 実はDNA決定論をあっけなく覆す重大な発見がNATURE誌などを賑わせている。結論は衝撃的だ。

DNAはRNAのバックアップコピーである。

脱DNA宣言―新しい生命観へ向けて―(新潮新書)

脱DNA宣言―新しい生命観へ向けて―(新潮新書)

 

     Whatever molecular mechanism leads to the unusual pattern of genetic inheritance we have observed in hth mutants, the genetic results presented here indicate the existence of an extra-genomic mechanism that leads to the high-frequency modification of DNA sequences in a template-directed manner. The structure of the templates together with the mechanisms by which they are produced, inherited and used remain questions for future research. It will be of great interest to see how widely distributed this mechanism of inheritance is throughout the tree of life.

 どのような分子機構が、h番目の変異体で観察した異常なパターンの遺伝形質を引き起こすにせよ、ここに示された遺伝的結果は、テンプレート志向のあり方のDNA配列を、高頻度の修正を引き起こした別のゲノム機構の存在を示している。DNAのテンプレート構造とそれが生み出し、受け継がれ、使用される別のゲノム機構の相互作用の実態は、今後の研究の課題として残されている。この遺伝形質相続の仕組みが、生命の系統樹の全域に広く分布していることは、興味深いことだろう。

http://www.evolbiol.ru/docs/docs/pruitt2005.pdf

上記の結論部分で、「DNA配列に高頻度の修正を引き起こした別のゲノム機構」というのが、エピジェネティクス(遺伝子の上位にある遺伝学)ということになる。

実験の内容に即して、上記新書の著者はこうまとめている。

 彼らは、親の世代が変異型であるそのシロイヌナズナが、正常な野生型の遺伝子を持っていないにもかかわらず、その祖父母の世代にまでさかのぼって正常な形質――つまり、変異体ではなく正常な野生型としての形質――を獲得したことを発見したのである。祖父母の世代は正常な野生型だった。

 細かい分析は省略するが、彼らはこの現象と、いくつかの分子遺伝学的な実験データから、祖父母の世代に正常な遺伝子のRNAにキャッシュとして記憶され、これが孫の世代にまで引き継がれ、そこでDNAに逆転写されて、その結果、正常な野生型としての姿を取り戻したのではないか、と主張したのであった。  

IT用語で比喩的に考えるとわかりやすいようだ。自分の言葉も交えて、再度まとめてみる。

 遺伝情報の主役はRNAで、DNAはRNAのバックアップコピーにすぎない。DNAにない情報でも、RNAがキャッシュとして保存しているものもある。

上記の「RNAキャッシュ」の発見が2005年。新書が書かれたのが2007年。それから約10年後の現在、このエピジェネティクス(遺伝子の上位にある遺伝学)の分野はほっとけないホットさが沸騰していて、関連する地元図書館の本がほとんど借り出されてしまっている。 

双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける

双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける

 

 (双子好きなので、いつか必ず読んでみたい)

このブログの読者の中には、ピンときた人も少なくないと思う。少し前に、このような記事を書いた。

 日本の遺伝子研究の第一人者が、遺伝子にオン/オフのスイッチがあることを発見していたとは。では、次に何が問題になるかと言えば、良い遺伝子スイッチをオンにして、悪い遺伝子スイッチをオフにするには、どのような生き方を心がければよいのか。

  1. 思い切って今の環境を変えてみる
  2. 人との出会い、機会との遭遇を大切にする
  3. どんなときも明るく前向きに考える
  4. 感動する
  5. 感謝する
  6. 世のため人のためを考えて生きる

 遺伝子研究というよりは、自己啓発本に近い記述が並んでいる。しかし、実際の医学研究でも、笑いが糖尿病患者の血糖値を劇的に低下させたという論文を、厳しい査読を経て、サイエンス誌などに海外の医学研究誌に掲載したりもしている。笑いが免疫を高めるところまでは、医学的に到達しているのだ。 

日本の遺伝子研究第一人者の村上和雄といい、レディーガガからも信望厚いチョプラ医学博士といい、主張はきわめて興味深いのに、主張が自己啓発本とほとんど変わらないことに戸惑ってしまう。自分は逆方向を歩いている。スピリチュアリズムを支える医学的根拠を捜しているのだ。

レディー・ガガのアーティスト名がこの曲に由来するのは知っているよね)

歩き回って探してみると、見つかるものだ。 

遺伝子発現のオンとオフ―ファージからヒトまで

遺伝子発現のオンとオフ―ファージからヒトまで

  • 作者: マークプタシュネ,アレクザンダーガン,Mark Ptashne,Alexander Gann,堀越正美
  • 出版社/メーカー: メディカルサイエンスインターナショナル
  • 発売日: 2004/05
  • メディア: 単行本
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 これらの00年代のエピジェネティクスの研究は、10年代に入って飛躍的に進んだ。RNAの周辺にプロモーター、エンハンサー、インスレーターなどの役者たちが活躍していることも、解明された。

一番わかりやすいのは、このイラストではないだろうか。

「遺伝子情報全体は辞書のようなもの」だと考えるといいと中尾光善は説明する。実際、私たちの遺伝子のうち稼働しているのは数%だと言われている。辞書の単語群のうち、稼働させたい遺伝子に色別に付箋をつけて、スイッチの ON / OFF をしているのが実態らしいのだ。

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驚異のエピジェネティクス〜遺伝子がすべてではない!? 生命のプログラムの秘密

驚異のエピジェネティクス〜遺伝子がすべてではない!? 生命のプログラムの秘密

 

遺伝子に傷があるからガンになるという俗説は誤りだ。 人間はガン抑制遺伝子もガン発現遺伝子も持っていて、生きてきた環境によって、エピジェネティックな刺激を受けて、発ガンしたりしなかったりするのだという。バイバイ、DNA決定論

DNA決定論を葬ったのは、他でもないヒトゲノムの完全解読だった。12万個以上遺伝子があると予測されていたのに、約2.5万個しか見つからなかった。人間の複雑さの程度から、当然同じ程度の数の遺伝子があると信じられていたのに、約80%の遺伝子が存在しなかったのだ。では、遺伝子以上の何が複雑さを生み出しているのだろう? 

それを研究するのがエピジェネティクス。矢継ぎ早に研究書や入門書が出版されて、大きな盛り上がりを見せている研究分野だ。

と、ここで冒頭の問いへ帰ることになる。

ベッカムはどうして、リプトンのアイスティーを飲むとスイッチが入って、東京のホテルの屋上でクノイチと踊ってしまうのだろう?

エピジェネティクスの異端の研究者ブルース・リプトンによる「遺伝子スイッチの入れ方」の研究がとても面白い。 

「思考」のすごい力

「思考」のすごい力

 

 リプトンは70年代、エピジェネティクスという言葉すらなかった時代に、ひとり遺伝子の活性制御の研究を行っていた。その孤独の中で、さらなる先駆者の研究に光を当てることになった。

ちょっと「C調」な言い方をすると、リプトンは紅茶にビタミンCたっぷりのレモンが入っていることに気付いた。

ビタミンC発見者でノーベル賞受賞者のセント=ジェルジが、『分子生物学入門――電子レベルから見た生物学』を1960年に出していたことの重要性に気付いたのだ。

副題の「電子」という言葉に注目してほしい。リプトンによると、当時ノーベル賞受賞者の耄碌の所産だとして無視されてきたこの本は、量子生物学のはしりなのだという。

(↑光合成が量子的運動から成っているとする量子生物学に言及した記事↑)

(↑鳥やウミガメが(量子もつれを使って)地磁気でナビゲートしていることに言及した記事↑)

(↑欧米で高層マンション建築が制限されているのは、流産率が高まるから。「地磁気から離れるから」は世界初指摘かも↑)

ビタミンCの父セント=ジェルジの分子生物学は黙殺されたが、それは半世紀前の話。今やNATURE誌上でも、生命を作り出す分子の動きは、ニュートン的な原理ではなく、量子物理学の法則であることが定説となっている。少なくとも、微細な分子レベルでは、チョプラ博士のいうように、人体を量子医学で把握していくことがコンセンサスになりつつあると言えるだろう。

では、生命科学界がおさらばしたDNA決定論に対して、リプトンは量子的な何を対置させているだろうか? 想像してみてほしい。

答えは、エネルギーだ。「物質はエネルギーでできている」というアインシュタインの名言を信奉しているからではない。実際に、細胞間ではエネルギーによるコミュニケーションが行われていることが確認されている。さらに、ホルモンや神経伝達物質などより100倍も効率が良いことが示されているのだ。

 人間を含め、すべての生物は、エネルギー場を認識することによって環境から情報を読みとり、情報のやりとりをおこなっている。しかし、人間は話し言葉や書き言葉に頼り切っているので、エネルギーを感じ取ってコミュニケーションするシステムを無視してきた。生体の機能は、使わなければ退化していく。たとえば、オーストラリアのアボリジニーは砂の奥深くに埋まる水脈を感じとることができるし、アマゾンのシャーマンは、薬用にする植物たちと、エネルギーを用いてコミュニケーションをとることができる。

リプトンによる『「思考」のすごい力』は、「思いのエネルギー」が自分の身体や自分の運命さえも変えていけることを、生物学の立場から詳述している。

特に、HPA系(外部脅威への防衛反応)が稼働すると、病気への抵抗性は落ち、頭はうまく働かなくなり、体力を消耗してしまう。だから、恐怖や不安やストレスの少ない環境を、自分に与えるよう推奨している。

魂や思いの力が物理法則を越えて作用する。 

 そんな風に結論すると、眉をしかめる唯物論者もいることだろう。そういう局面で、リプトンが「ベッカムのそりこみ」を持ち出してくるのが面白い。

 理由の一つは、「オッカムのかみそり」である。これは哲学的・科学的な思考の原則で、ある現象を説明する仮説が複数提唱された場合、もっともシンプルでほとんどの観察結果を説明できるものが正しい仮説である可能性が高いので、その仮説からまず検証すべきだ、というものだ。魔法の膜に関する新しい科学と量子物理学の原理とを組み合わせれば、現代西洋医学のみならず、保管医療やスピリチュアル・ヒーリングについても、矛盾のない説明が可能である。

すべてが明らかになっているわけではない。リプトンはさらにスピリチュアルよりの主張もいくつかしているが、科学者としての思考法や研究の吟味を少しも失ってはいない。終章でこの「ベッカムのそりこみ」を読んだとき、もうこれで決まりでよいのではないかという気がした。

恐怖ではなく愛を感じながら生きれば、好ましい遺伝子のスイッチがオンになって、自分の望む運命を生きることができる。その仮説が科学的に証明されつつあり、それを上回る仮説はない。

上の数行が、この本を飛ばし読みした私が辿りついた結論だ。

面白いのは、ポジティブ思考を推奨するリプトンは、ロック狂いのの医学生で、医学的キャリアを捨てて、ロックの道に進もうとした時期があったらしい。この著書でも、或るロック・シンガーに謝辞を寄せている。ポジティブ思考だけに、そのアーティストはYESなのだ。

というわけで、アメリカのCMを見ていて、ふと感じた疑問には、かなりの含蓄があったことが分かった。

ベッカムはどうして、リプトンのアイスティーを飲むとスイッチが入って、東京のホテルの屋上でクノイチと踊ってしまうのだろう?

知られているように、クノイチとは「女」という感じを崩して呼んだ女忍者の通称だ。

最後に、ぼクノイチおしの女性を、締めくくりとして書いておくことにしよう。

YESを生むマリアのような女性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(書きかけです)