「魔法の世紀」はこうしてはじまった
二元論より三元豚の方が美味しいのは有名な話。国内で流通しているほとんどのポークが何らかの三元豚(か四元豚)なので、あとは二元論の不味さが伝われば、上の記事で醸し出された「夜よりも深い気まずさ」も緩和されるというものだろう。
(画像引用元:https://item.rakuten.co.jp/dejimaya/yri-ika/)
どういうわけか、いろいろあって、一日ワンコイン生活を送っている今日この頃、イカのお寿司ですか? 白黒では味気ないので、イカしたカラーコピーを取ってきたぜ。一日の可処分所得の1/10を費やして。
世界最大の二元論は「男と女」だ。今晩はその二元論が97.6%覆された話から始めたい。
アンチ「男女二元論」の発端は、この記事だった。
キャッチボールで、相手の動態視力がどれくらいか見るために、ちょっと変化球を試し投げしてみることがある。最近投げたのは、「三島由紀夫と同じく自分にも嗜血癖があって…」という一球。
(…)
すると、さっそく興信所まで使って払拭できたはずのゲイ疑惑が再燃したようだ。他人のセクシュアリティーの実態を知らない人が、なぜだか知った風な口を利きたがるのが、セクシュアリテイーの領域だ。
(…)
まあ、もちろん、文壇の「マッチョ代表」石原慎太郎の若き日にも、嗜血癖らしきものがあるので、単純すぎる白黒思考は、セクシュアリテイーの領域には適用できない。
知っているだろうか。ひとことでいうと、私たちの脳は「性モザイク脳」なのだ。
「言葉で伝わらなければ、もっと科学的に行け!」「サイエンスに行け!」という助言が聞こえたような気がしたので、「日経サイエンス」のバックナンバーを引っくり返してきた。
さあ、皆の者、この渾身の50円のカラーコピーに瞠目せよ! 一目瞭然だぜ。
縦軸は脳のいろいろな部位で、横に並んだ串団子のそれぞれが、各人のセクシュアリティーを現わしている。女性性を表す緑と、男性性を表すオレンジが、一個人の中で混在しているのがわかるだろうか。純粋な男性100%の人と純粋な女性100%の人を合わせても、全体の2.4%にしかならないそうだ。
ジェンダー・トラブル 新装版 ―フェミニズムとアイデンティティの攪乱―
- 作者: ジュディス・バトラー,竹村和子
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セクシュアリティーは、先天的にではなく、社会的環境的な入力を受けて、後天的に決定されるというジュディス・バトラーの主張を、脳科学が裏書きした形だ。
そして、16年前からバトラー絡みでいろいろあって、まもなく生活資金が完全に底をついたら、自分に紛れもない『パーク・ライフ』が待っていそうな気配。何とか頑張って「パラダイス・シフト」しなければ。
というわけで、たいていの二元論は三元豚より不味いのに、どうして皆は嬉しそうに頬ばってしまうのか。昨今書店の本棚を席巻している「AI脅威論」は、ぜひ石鹸で手洗いして二元論を洗い落してから触れてほしいと思って、この記事を書いている。
むしろ「人類 vs AI」の二元論の基礎になっている「シンギュラリティ」を使わずに、近未来の社会変化を説明した方が良いかもしれない。上の著書をざっと読んで、そう感じた。
代わりに使ってみたい概念が「マルチラリティ」。この記事を書いている今、検索ではほとんど日本語記事は上がってこない。上の著書から引用する。
(…)コンピュータの進化はシンギュラリティのような単一的な変化ではなく「マルチラリティ」をもたらすと語る研究者もいます。それは「人と機会の織りなす社会の中で順次コンピュータと人の組み合わせが問題解決を行っていくのではないか」という指摘です。
人工知能と人間の間に対立や競合があるのではなく、人工知能の進化に、その都度人間が適応して、共同で問題解決にあたるイメージだ。その共同作業の光景が、自然と人間が共生するように自然なものになり、「デジタルネイチャー」を形作るだろうというのが、落合陽一のイメージする数年後の近未来だ。
デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂
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デジタルネイティブ世代による自世代顕示のポジショントークだと曲解するなかれ。落合陽一がデジタルネイチャーの根拠に使うのは、最新の量子生物学だ。量子生物学に関する書籍はまだほとんど出ていないのに、早くもそれを足掛かりに、見事に跳躍しているというわけだ。
このブログでも、何度か量子生物学を取り上げてきた。
しかし半世紀にわたる分子生物学の徹底的な研究によって、生体分子の構造が、DNAやたんぱく質のなかの一個一個の原子のレベルに至るまで驚くほど詳細に描き出された。そうして前に説明したとおり、量子の開拓者たちによる鋭い予測が、かなり遅ればせながらも裏付けられた。光合成系、酵素、呼吸鎖、遺伝子は、一個一個の粒子の位置に至るまで構造化されていて、それらの粒子の量子的運動は実際に、我々を生かしている呼吸、我々の身体を作っている酵素、あるいは地球上のほぼすべての生物有機体を作っている光合成に影響をおよぼしているのだ。
(強調は引用者による)
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半月前に書いたこの記事では、花と蜂が電子的コミュニケーションをとっているという新発見に言及した。
この量子生物学に近いところから、面白い情報が出てきた。出所はなぜかまたブリストルだ。水中の電気、水中の地磁気の次は、花と蜂の電気だ。
(…)
記事の最初から、大事なことがさらりと書いてある。ハチの体をおおう繊毛が、花から送られてくる電気信号を感知しているという発見より、花がハチに電気信号を送っていたという前段階の発見の方が、ビッグニュースなのではないだろうか。
あの NATURE 誌も、ブリストル大学のダニエル・ロバートの研究を引用して、花とハチの間に、電気的コミュニケーションが成立していることを報告している。ハチが花の蜜に魅かれるのは、花の色や香りよりも、花がどのような電気信号を送っているかだったのだ。
そして、『デジタルネイチャー』の読者が最も驚くにちがいないのは、「デジタルネイチャー」のイメージとして、華厳経の「事理無礙→事事無礙」を提示しているところだろう。これもネット上にまともな情報がない。凄いな。彼はどういう情報源の知識で、あの天才を形作っているのか。
(…)華厳経は、世界の認識のあり方(法界)を四段階に分ける。一般的な人間の世界である「事法界」、その背後にある原理(空)を捉えた「理法界」、原理と事象が自在に結びつく「理事無礙法界」、そして最終的な悟りが、事象と事象の直接的な関係からなる「事事無礙法界」だ。
(…)絶対的な悟りとされる「事事無礙法界」は、一つのシニフィアンに対して、複数のシニフィエが内包された構造を考える。一つの事象には世界の事象のすべてが織り込まれ、我々に見えるのはその顕現の一つに過ぎない。
まさか、華厳経とソシュール言語学の両方に精通している人がいるとは!
けれど、お気に入りのパン屋が出てきたので、自分も何とか頑張ってみたい。
さすがは構造主義の先駆者。サイト名の下にある単語の並びからして、難解だ。
Pain / Mariage / Gift / Philosophy / Schedule / Blog / Access / Recruit
暗号を解くつもりで、和訳してみた。
痛みをともなう結婚であっても、それは贈り物。哲学に底部をロックさせて、あくせく努力しまくると。
なるほど、含蓄があるようでないような、かなり恣意的なシニフィエなのが、いかにもソシュール言語学らしい。
というのは冗談だぜ、もちろん。実は、このブログでも華厳経に言及したことがあるのだ。
続く第四項目に登場するのが、〈アレフ〉だ。わずか2、3センチの球の中に、世界が丸ごと入っていたことを思い出してほしい。以下は、ボルヘスの短編の手掛かりを探って、空海による華厳宗の説明を引用した部分。
第四にはすなわち、この獅子の眼や耳や身体の部分、一々の毛なみにそれぞれすべて、子をおさめる。一々の毛なみの獅子は同時に直ちに一本の毛の中に入る。一本ずつの毛の中にそれぞれみな限りない獅子がある。またまた一々の毛にこの限りない獅子を載せて、それぞれ違って一本の毛の中に人る。このように重なり重なって尽きることなく、尽きることなく関係しあっているさまは、帝釈天の宮殿の周囲に張りめぐらされた網にある網目の珠のようであるのを、帝釈天の網目の珠が互いに限りなく映じあっている世界という教え(因陀羅網境界門)と名づける。
空海コレクション 4 秘密曼荼羅十住心論 下 (ちくま学芸文庫)
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このアレフ的な世界の存在の様態は、この後の記述でも再説されるが、全体の中に部分があるだけでなく、部分の中に全体があるという説明は同じだ。ボルヘスと空海との時空を超えたインターテクスチュアリティとは、ワクワクさせる連関だ。
初読で読み落としていたのを、今晩見つけて興奮してしまった。第九項目では、何と空海は「引き寄せの法則」を説いているのだ。
第九にはすなわち、この獅子と金とは、あるいは一方が隠れ、あるいは一方が顕われたり、あるいは一であったり、あるいは多であったりしても、それ自体の本性がなく、心の めぐりかた次第で現象といったり理法といったりする。こうして一方が成就したり、他方が確立したりする。だから、これをすべての存在するものは本来清らかな心(如来蔵)をその本性とし、一つとして心以外のものではないという教え(唯心廻転善成門)と名づける。
落合陽一は華厳経の「事事無礙法界」に、こんな注をつけている。
(…)モノ同士が直接的な関係のもと自在に存在するあり方。ただし、ここに至るまでには、「実体は存在せず一切は空である」という認識の段階を経るとされ、般若心経の「色即是空」のさらに先にある認識論とも解釈できる。
そのような「『色即是空 / 空即是色』<<<華厳経」の不等式を最初に提唱したのは、実は空海だ。主著である『秘密曼荼羅十住心論』は、空海による「仏教宗派ランキング」を発展段階説のように、順番に解説していった本なのだ。
- 3位 天台宗の「一念三千」(最大のライバル最澄の瞑想法を空海は支持した。今ココの一瞬に世界のあらゆる多様性があるという考え方)
- 2位 華厳宗 (宗教的な奥義としては究極の段階まで達していると空海は賛辞を惜しまなかった。自ら1位にランクさせた真言宗と比べて、修行法の普及力で劣っていると考えていたらしい)。
とはいえ、上位1、2、3位は大接戦だというべきだろう。というか、術語の違いを除けば、教義として語られていることはほとんど同じだ。上の記事引用文での卓抜な説明からもわかるように、空海は華厳宗の影響を強く受けているといっても華厳ではない。空海の教えはほぼ華厳宗と同じなのだ。
となると、「現代の魔法使い」落合陽一が、コンピュータ研究者でありながら、仏教知識経由で、こちら側(スピリチュアリズム)に近接しているのがわかるのではないだろうか。
このブログでさまざまな分野の最先端を追いかけていると、突き抜けた才能が「神の領域(スピリチュアリズム)」に到達しているのを目撃することが頻繁にあった。彼も例外ではない気がするのは、私の気のせいだろうか。
面白いのは、華厳経の「事理無礙→事事無礙」を具体的に説明している場面で、「理=言語」と考えて、テクノロジーに媒介された非言語的コミュニケーションが普及すると予想しているところだ。
言い換えるなら、言語的な理解よりも先に当事者の意志によってモノが動く状態を「魔法」や「魔術化」と呼んでいるのだ。
簡単に言い直すと、VR装置やAR装置が発展して「マシンつきテレパシー」が実現するという話をしているのだと思う。実際、脳波で打ち込むタイプライターも市販されている時代だ。いずれはそうなるにちがいない。
個人的には、華厳経の「事理無礙→事事無礙」では知らない人々が多いので、「超言語速」という概念で、落合陽一の主張を理解しようとしているところだ。
実際、目下のところで多くの読者が収穫だと感じるのは、テレパシー以前の「超言語速」的な魔術的動きだろう。具体的には、例えば、創造的な研究室主導(ラボドリブン)での、
イノベーション→評判形成→資金集中→製品化→市販
というフローが超高速化して、すべての関係する「言葉」を把握しきれないまま、「超言語速」で実現していく事態が、最も手近な「魔法」だと言えそうだ。
特に北米では、基礎科学を研究している人が社会への応用を意識することも少なからず見受けられ、またその逆方向への転身も比較的容易になっている。基礎と応用の距離が近く、行き来がある。実際、人々も、会社、国立研究所、ベンチャー、大学、政府機関などを渡り歩く例が少なくない。
上の記事で、一流の研究者が、日本の基礎研究に人や注目やお金が集まりにくいことを問題視している発言を引用した。ド文系だった自分も、科学リテラシーを二流サイエンス・ライターくらいまでには高めて、この分野の資金循環を加速する投資ができたらと夢想したことがあった。
ところが、望ましい加速はすでに起こっているようだ。嬉しい。
(…)しかし現在、その速度は劇的に改善されつつある。
あるプロジェクトからオープンソースのリリース情報が出れば、すぐに資本側がそれを取り込もうとする。また逆に、ベンチャー企業がプラットフォームを発表すると、それを利用して新しい研究開発が行われる。資本主義とオープンソースとが接続され、両者の間で活発な交流が起きているのだ。
著者が語るすぐ足元で起こりつつある変動と、その変動の落ち着きどころは、かなり確度の高い近未来予測として、ここに銘記しておきたい。
いずれあらゆる価値は、分散型の信頼システムとトークンエコノミーの価値交換手法によって技術に対しての投機マネーと接続され、オープンソースと資本主義市場の対立は、より密な経済的連携によって安定した構造へと軟着陸するだろう。それは新しい全体主義の形であり、そこでは西洋的なピラミッド構造ではない、東洋的な再帰構造からなる「回転系自然なエコシステム」が形成されるはずだ。
というわけで、落合陽一の思想を知りたいなら、新刊の『デジタルネイチャー』が最適。横断的な最高度の知見とし元気に満ちた一冊であることを、保証したい。
ずいぶん固い話になってしまったが、ひとまずここまでで、今晩の趣旨は語り切ったことになる。読者はついてきてくれただろうか。
闘争のエチカ (河出文庫―BUNGEI Collection)
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ちなみに、学生時代の自分の最大の愛読書は、『闘争のエチカ』だった。二元論的に「逃げろ!」と言われたわけでもないし、今でも愛読書にはちがいないが、頭の柔らかさも大事さ。最近その隣に、もうひとつの「エチカ」を置くようにしている。今晩もこの記事を書きながら、何度もページをめくり直した。
シナモロールの『エチカ』 感情に支配されないヒント (朝日文庫)
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初読で最も衝撃的だったのは、この入浴シーンだ。
長い耳は結わえて湯舟に浸かるのか! しかも、顎まで浸かるんだね!
確かに、シナモンの言う通りさ。自分のネガティブな感情は、抑え込まずに、向き合わなくちゃね。
☆
冒頭の二元論批判を書きながら、じっと眺めていたのはこのページ。
正義の側に立っていたとしても、不当な被害を受けることはある。それでも、怒りや憎しみや恨みは手放さなくちゃね。「正義 ⇔ 悪」の二元論では、世界をうまく回していけないから。
☆
アートへ向かう衝動が「魔法」を生み出すと、どこかに書いてあった。きっと、その手前にある感情のことを、シナモンは言っているんだね。
喜びや楽しさは、言葉や論理による「理」を越えた「超言語速」で伝播していく。だから、ポジティブな感情が「魔法の世紀」の鍵になりそうだ。
☆
そうそう。遊休資産でもネットワークに乗せると、みんなのうちの誰かが喜ぶシェアリング・エコノミーにできるよね。自分の利益だけではなく、ネットワーク上の誰かの利益も考えると、プラスの循環が多くなるのさ。(『デジタルネイチャー』のシェアリング・エコノミーの人類史的位置づけはキレッキレッだったなあ)。
☆
本当は、まだ難しいことをいっぱい書きたかったけれど、このページで手が止まって、しばらく茫然としていた。トラブルにハマると、自分は「悪くない pas mal」ってなかなか思えないものなんだ。
至難問が解決できて、新しい魔法が自分に、そして自分の友人や仲間に降りかかるといいな。
*
申し訳ないけれど、20時が約束の時間だ。今から、まだ新しい会社の自習机を数十個バラして、ゴミにする作業を手伝わなきゃ。