自らを monkey にし magic によって自らを変えよ

純文学作家志望だった自分がなぜこんなことを書いているのだろう。と何度も首をかしげているうちに360℃まわって元に戻った角度で、もう書いてしまうが、西森秀稔が基礎研究とベンチャー事業をコーディネイトする仕組みの必要性を説いていたのが気になって、じっとチンパンジーの写真を見ていた。西森秀稔とは、カナダのベンチャー企業が推定より半世紀以上早く実用化した量子コンピュータの発案者。東工大在籍の世界的な科学者だ。 

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チンパンジーにもお正月があって、福袋のご馳走が食べられるらしい。二軒の親戚周り以外は正月も仕事をしている一般人の自分より、幸せかもしれない。チンパンジーと一般人という音韻上の微妙な差は、意外に大きそうな気がしている。 

 なぜこのチンパンジーを検索していたかというと、このチンパンジーたちは、かつて岡山にあった全国的に有名な基礎研究の会社「林原」に飼われていた過去があるのだ。

林原は倒産し、同業他社に吸収された。

がん治療薬の「インターフェロン」や人工甘味料に用いられる「トレハロース」など、世界的な原料開発に成功した実績がある一方、会社でチンパンジーを飼うほど、基礎研究へのふんだんに投資する「気前の良さ」は、経営不振が表面化する以前から有名だった。採算を計算しがたい基礎研究へ野放図な投資をしたことが、倒産の主因だと言えなくもないが、基礎研究がなければイノベーションは生まれにくい。ここにもイノベー神クリステンセのいう「イノベーションのジレンマ」があるとも言える。

 特に北米では、基礎科学を研究している人が社会への応用を意識することも少なからず見受けられ、またその逆方向への転身も比較的容易になっている。基礎と応用の距離が近く、行き来がある。実際、人々も、会社、国立研究所、ベンチャー、大学、政府機関などを渡り歩く例が少なくない。 

量子コンピュータが人工知能を加速する

量子コンピュータが人工知能を加速する

 

もちろん科学的イノベーションベンチャー起業家とエンジェル投資家を、ミスマッチなくコーディネートする制度や人材が不足している、というのは正論だが、それ以前に、上記の北米での実態が物語るように、日本の社会人が「アダプティブでない」ことに問題があるような気がする。 

 「アダプティブ」という経営戦略用語をさっそく使ってみた。

彼は何と、『戦略サファリ』パークは、体系的に計画されたアミューズメント・パークにすぎないと断言してしまった。「硬直的で形式的な戦略策定が企業の優れた業績に寄与するという証拠はほとんどない」と主張したのである。ビジネスの自然界では、過去の企業能力と未来の市場環境の間で、不断に戦略を修正・転換して、企業の現在を創出していかなければならないとしたのである。

自分の感触では、ミンツバーグの辺りで、だいたい山頂とほぼ同じ高さに達していると思う。

(…)

では、『戦略サファリ』パーク、あらため厳しいビジネス界で、自然競争を生き残っていくにはどうすればよいのか。それが企業の内部と外部で発生する破壊的イノベーション(クリステンセン)に適切に対処すべく、同じく企業の内部と外部とを有機的につないで発展するダイナミック・ケイパビリティ論。 

そして、企業の内部と外部をどう協働させるかのヒントとして、垂直統合型の自前主義経営の歴史的終焉を宣言したラングロアを前提に、その具体的展開を記述したチェスブロウのオープン・サービス・イノベーションがあるというのが、現在の経営戦略論の布置なのではないかと思う。

すっかり前置きが長すぎちゃってどうしよう、時間食ってどうしよう、という感じだ。 

自分の経営戦略論の通史的外観がどれくらい正確だったか、答え合わせをしたくなって、この本を参照してみた。 

 ドラッカーがマネジメントと呼んだ「経営という山」を、「登りやすい道を探せ」と言ったのがポジショニング派、「登りやすい方法で昇れ」と言ったのがケイパビリティ派という譬えは、わかりやすくて異論が少なそうだ。

そこから、その両者を芸術的に組み合わせるミンツバーグで「だいたい山頂とほぼ同じ高さ」だと感じていた。その下に自分が書き足した強調項目の「イノベーション」は、三谷宏治の見取り図では「イノベーションこそ山頂」とされ、他に「ラーニング」と「リーダーシップ」と「試行錯誤」が周辺項目として、山頂の周囲を飾っている。

ミンツバーグ以降に「アクセル理論」「加速戦略論」みたいな 21世紀型の経営戦略論が出ていることを期待したものの、見当たらなかった。強いて近いものを挙げるとすれば、マーティン・リーブスの「アダプティブ戦略」になりそうだ。 

生物学に学ぶ企業生存の6原則 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

生物学に学ぶ企業生存の6原則 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

 

アダプティブ戦略」とは、試行錯誤型経営戦略の代表格。予測しがたい事業の環境変化に迅速に適応する戦略らしい。実は、イノベー神を崇拝していた過去のある自分は、ミンツバーグ以降の主役は「イノベーション」ではなく「スピード」だと考えている。イノベーション自体は戦前のシュンペンタ―の時代からある既成概念だ。ICTや人工知能などの発達によって、イノベーションの頻度と速度が加速度的に(カーツワイル風にいえば指数関数的に)伸びてきていること「だけ」がほとんど唯一の破壊的変化なのではないかと考えることもある。拙文の引用部分、クリステンセンもラングロアもチェスブロウも、会社組織がどうやってイノベーションを加速させるかだけを主眼に置いていると言っても過言ではないだろう。

社会変化のスピードアップは不可避だ。いつも引用している「消える仕事」の記事だけでなく、就活生必読の「消える会社」の記事にも目を通してもらいたい。「消える会社」の記事執筆者たちは、ビジョナリー泉田の『Google vs トヨタ』を熟読している印象がある。やはり読まれるべき本は読まれている。

 日本の社会人が「アダプティブでない」ことに問題がある。先ほど上でそう書いた。

日本でベンチャー・スピリッツとイノベーションを重視している会社といえば、リクルート・ホールディングス。「元リク」リストはこちら。

元リクでいま一番ホットなのは、この人だろうか。最新記事は種子法がらみの食糧の安全保障だ。自分もツーショットで記念撮影させてもらうイメージで、拙記事を下隣に貼り込んでおこう。

リクルートの社風を詳しくわかりやすく説明している「元リク」のサイトがこちら。小見出しだけ引用する。小見出しだけで圧倒されてしまう。 

  • 辞めるのが前提の会社
  • 言いたいことが言えて、正しければ通る
  • イケてなさそうなのに、利益を出し続けている
  • 変わった人が多くて、それを許容している組織
  • ハイテンション
  • 仕組み化 
  • 商品企画力
  • アセットの集中投下
  • 主体性、当事者意識
  • 周りを巻き込む力
  • 営業力
  • 変われる力
  • 変化に慣れる。麻痺する。
  • 変化に対応できる人、組織にしている。
  • ミッションオリエンテッド
  • 人事制度
  • ◆4つのスタンス
  •  ・圧倒的な当事者意識
  •  ・考え抜く力・やり抜く力
  •  ・広く・深く学び続ける姿勢
  •  ・チームとしての共同を追求する姿勢
  • ◆6つのスキル
  •  ・見立てる力:構造で捉え俯瞰してみる力
  •  ・見立てる力:分析的に捉え問題を特定する力
  •  ・仕立てる力:筋の良い仮説を立てる力
  •  ・仕立てる力:プロセスを作り込む力
  •  ・動かす力:ビジョンを打ち出す力
  •  ・動かす力:人を理解し統率する力
  • 引き上げる力
  • WCMシート
  • グレード制
  • 退職まで働かない風土づくり
  • 東大卒でもどぶ板営業をさせる
  • CV制度だけど社員と差別しない雰囲気
  • 頻繁な人事異動とナレッジ共有
  • 研修制度
  • 表彰制度
  • NEWRING
  • 社員持株会 

リクルートという不思議な会社の9年間で学んだこと | teratown.com@journey

よく知られているのは、リクルートの社訓である「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉。「元リク」の熱烈な支持と同等までとどくかどうかはともかく、現代のように社会変化にアクセルがかかった時代に、ますます輝きを増す言葉なのではないだろうか。

さて、その「元リク」の小笹芳央が2000年に起業したリンク・アンド・モチベーションと共著で出した本は、先駆的なコンセプトを含んでいた。

「アイ・カンパニー」の時代―キャリアを鍛える。モチベーションを高める

「アイ・カンパニー」の時代―キャリアを鍛える。モチベーションを高める

 

 いや、自分はこの程度のことは当然考えながら社会人をやっていた、という「意識高い系」の発言もあるようだ。

自分をひとつの会社に見立てて、どのような企業的経験のもとで、どのようなケイパビリティを獲得したかを明示し、転職時により高評価な「投資対象」として、ジョブホップしていく。年棒制のプロ野球選手を思い浮かべれば、その実態を把握しやすいだろう。

自分がここで重視したいのが、優れた頭脳の持ち主である小笹芳央がどこまで分析した上での主張なのかは不明なものの、3つの時代的要請の連立方程式に対して、「模範解答」を出したことである。

  1. バブル崩壊から90年代中盤以降の終身雇用制度の崩壊の進行
  2. 終身雇用制度の必要条件となる生産人口が1995年にピークアウトしたこと
  3. 90年代半ば以降のIT革命によるイノベーション速度とコモデティ化速度の加速

その i-company 思考は、「元リク」の小笹芳央による自己経験押しつけ型の企業人モデルでは決してなく、日本の労働者が直面している不可逆的で不可避な変化だということだ。私たちはこの現実から逃れられないのだ。逃れられないのなら、生き残るしかない。

終身雇用制度と年功序列型賃金が終わることはわかった。年棒制のプロ野球選手みたいに、雇用が流動化していくこともわかった。では、どのようなプレー(仕事)をすれば生き残る可能性が高まるのか? 

お、良い質問だ。

人工知能が発達するにつれて、私たちが仕事をできる守備範囲は、だんだん狭くなっていく。人工知能と経済学に精通している井上智洋は、最後に残る人間向けの仕事の領野を、3つに分類している。

  1. クリエィティヴィティ系(創造性)
  2. マネージメント系(経営・管理)
  3. ホスピタリティ系(もてなし) 

 2の経営管理は、AIの上げてきた情報を分析して、AIに指示するのが主な仕事になりそうだ。となると、1.と3.の人々が協働する局面を、私たちは「仕事場」と呼ぶような社会へ変わっていくのではないだろうか。

したがって、未来の仕事スキルは、年齢や性別や所属にかかわらず、アドホックなイノベーティブな共通の目標に対して、適切なコミュニケーションを取れる能力へ重心が移っていくにちがいない。

それはここで紹介したワイガヤ的なアイディアソンに近いとも考えられる。 

ただ職業人としての生き残ろうと考えるなら、コーチング能力とファシリテーション能力が不可欠だろう。この両者には共通性があるので、1対1なら前者、1対nなら後者ととりあえずの分類をして、コミュニケーション・スキルを使って、どのように「人を動かせる人」になれるかを勉強すると良いと思う。 

コーチング・マネジメント―人と組織のハイパフォーマンスをつくる

コーチング・マネジメント―人と組織のハイパフォーマンスをつくる

 
チームを動かすファシリテーションのドリル

チームを動かすファシリテーションのドリル

 

 前者は、散漫に流れがちな「ワイガヤ」の場にどのように深くコミットさせて、良いアイディアやクリエイティビティを引き出すかの参考になるし、後者は集団心理で不適切に尖ったり怠慢に陥ったりしがちな各個人の精神を、姿勢や相槌の打ち方に始まる細かなコミュニケーション・スキルで「どのように人を動かすかの技能」に満ちている。(章題だけでも面白そうでしょう?)

第3章 リアクションによる誘導力
相手に反論された場合の、適切な反応など

第4章 メンバーを巻き込む合意形成力
紛糾する会議をまとめるための質問スキルなど

第5章 当事者同士を対立させない懸念解消力
対立しているチームを導く会議の方法など

第6章 柔軟思考による課題解決力
自分や相手のモチベーションを上げるスキルなど

あれほど真剣に受験勉強に打ち込んで入った大学なのに、どこか物足りない。どこへ進んでいったらいいかわからない。そんな大学一年生によくある不安を持っている人には、10年後20年後の未来社会の変化を見据えて、10年後20年後も輝きつづけられる人生やキャリアを送るための「夢見る遠視能力」に磨きをかけてほしい。

ひょっとしたら近い将来、上記のようなコーチング能力やファシリテーション能力を持っている人だけが「一般人」、持っていない人は「チンパンジー」と呼ばれる時代が来るかもしれないぜ。 

と、いつのまにか、大学一年生に向けて話している想定になってしまったのはどうしてだろう。自分の大学一年生は、小劇場ブームの真っ只中、伝説の駒場小劇場で自作演劇を上演できるツテを探すところから始めて、実際に作 / 演出 / 主演をやってしまった。「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」を実践するには、それだけに専一に夢中になって、猿になったみたいに遮二無二全力疾走すればいい。

子供の頃にどれだけ一心に愛された経験があるか、若い頃にどれだけ一心に打ち込んだ経験があるか、それらの経験が大事だ。人生を振り返って自分がどれくらい幸福だったかを計るのにも、自分がこれからどれだけ頑張れるかを計るのにも、最終的な根拠はそこにしか見つからないものなんだ。

 

 

 

 

(猿に夢中になって売り上げを倍増させたスーパー)